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どこへ行く iPS細胞(上):読売新聞のコメント

今日から、表題のテーマに関するコメントを簡単にしておきます。


まずは、「iPS(上)実用化へ特許戦争激化…京大 対 海外勢」の記事から。


投機的な「技術あさり」も脅威
 再生医療の切り札として、世界から注目されるiPS細胞(新型万能細胞)。京都大学の山中伸弥教授は今年、その開発者として米医学界で最も権威のあるラスカー賞を受賞し、将来のノーベル賞も確実視されている。だが、iPS細胞の実用化には課題が多く、日本勢はビジネス展開に向けた準備では苦戦している。その底流を探った。


 「さっきの話、ちょっと聞かせてください」。山中教授の研究室で毎週月曜に開かれる報告会。その終了後、実験室に戻ろうとする研究員の1人を追いかけたのは、京大iPS細胞研究センターの高須直子・知的財産管理室長だ。

 「手続きが差し迫っている時は、僕より先に高須さんが実験結果の報告を受けることもある」と山中教授。高須室長は報告会に出席し、これはと思う成果があれば、特許出願の手続きを始めるのが仕事だ。特許などの知的財産管理を担当していた製薬会社から昨年6月、山中教授が引き抜いた。

 iPS細胞作製の特許は、4種類の遺伝子を導入する京大の手法が国内ですでに成立している。京大は、がん遺伝子を除いた方法など数十件も国際出願中だが、現在のiPS細胞の作製技術は安全性などに問題が多く、改良が必要だ。

 新しい方法が出現すれば京大の特許は価値を失う恐れがある。実際、2007年3月以降、海外でiPS細胞関連の出願が相次いでいる。京大が新規特許獲得を重視するのは、早くiPS細胞の作製法を完成させ、関連技術を押さえなければ、大発見の果実を海外にさらわれてしまうからだ。

 戦略も問われている。05年12月、山中教授が最初に出願し、後に論文発表したiPS細胞の特許は、マウス実験に基づいていた。教授と異なる方法で人間のiPS細胞を作製、07年6月に出願した元バイエル薬品の桜田一洋・ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャーが語る。

 「同じ研究者でも企業と大学では発想が全く違う。企業ならマウスの成果を発表したりしない」。学問では普通の体細胞からできたことが重要なのだが、企業にとっては人間で実現しなければ商品化できないから意味がないというのだ。

 人間のiPS細胞を新薬の毒性を確かめる「道具」として使う手法は実用化目前まで来た。iPS細胞を心筋や神経の細胞に変化させた上で、新薬候補を投与し、細胞の反応を見る。この方法が普及すれば、動物実験に依存する現在の医薬品開発手法は激変する。

 だが、各種細胞に変化させる技術はES細胞(胚(はい)性幹細胞)での研究が先行。iPS細胞に応用するには、こちらも国内外で複雑な特許の調整が必要になる。

 現状を打開するため、京大は昨年7月、特許管理会社「iPSアカデミアジャパン」を設立した。同社はすでにiPS細胞作製に使う試薬の製造・販売などに関して国内5社と契約した。大阪大や岐阜大からも実用化に役立つ特許の寄託を受け、米ベンチャー企業とも水面下で交渉を進める。

 海千山千の世界では、これでも安心できない。iPSアカデミアジャパン知的財産・法務部の白橋光臣部長は今、「パテント・トロール(特許の怪物)」と呼ばれる動きを警戒している。

 有望な技術の特許権を安く買いあさり、実用化が見えてきた段階で高値で売りつけるビジネス。「せっかくの技術が高すぎて使えなくなり、iPS細胞の実用化が遅れてしまう」。白橋部長は今後、海外での訴訟もあり得ると考えている。

 iPS細胞を巡って繰り広げられている特許戦争。政府が膨大な研究予算を投じるiPS細胞研究は、投資に見合う成果を出せるのだろうか。


iPS細胞の特許をめぐる主な動き

2005年 12月 京大、作製技術の国内特許を出願
06年 8月 山中教授、マウスでの作製を発表
12月 京大、作製技術(人を含む)の国際特許を出願
07年 3~6月 米ウィスコンシン大など3大学と独バイエル社が人での作製に関する国際特許を出願
11月 山中教授と米ウィスコンシン大、人での作製を同日発表
08年 9月 京大、作製技術(人を含む)の国内特許を取得
10月 山中教授、ウイルスを使わない方法での作製(マウス)を発表
09年 2月 独バイエル社、人での作製に関する特許権を米バイオベンチャー企業に譲渡
4月 京大、米バイオベンチャー企業と研究協力の契約締結
(読売新聞)



コメント:


 まず、iPS細胞に限らず、どんな医学研究の特許も、臨床試験に進めなければ、「紙くず同然」になります。

 そして、その試験中に問題(看過できない副作用の出現や効果が期待ほど得れなかった・・)が生じた場合、その時点で終了。

 要は、最終的に、臨床応用されないと、「経済的リターン」は望めません。

ということで、ハイリスク・ハイリターンの代表格が、医薬品ビジネスなのです。


 期待の大きい、iPS細胞ですが、前にも書いたように、かなりの部分の特許を戦略的に海外勢に抑えられています。

 京大は「基本特許」があるから大丈夫というわけではありません。


iPS細胞を臨床応用していくには、無数の特許が必要です。

 そこで、その戦略的な組み合わせを頭を捻って考えるのが、上記にあるような「知的財産」管理の専門家です。


 ただし、ハーバードやMIT、ウイスコンシンなどの知的財産チームの専門家に比べれば、知識・経験・戦略のどれをとっても、日本は見劣りします。

 彼ら、欧米の専門家は、くぐってきた修羅場の数が違う・・・。


 ただし、日本政府では、大学・産業界とともに、バイオ知財の人材養成を行ってきました。(日本政府は単純に手をこまねいていたというわけでは、ありません。)

ただ、もう、10年近くになりますか・・・。

どうやら、1部の「評論家」が育っただけのようです。


 優秀な方々は、すぐに「金にならない」バイオ・医学分野は避けて、情報通信分野・工学などの「知財専門家」として、ご活躍されています。


 経済不況が、この流れに一層拍車をかけている・・・というのが現状です。