ヒトiPS細胞研究の最近の展開
昨朝、私は、Nature Reports Stem Cellのブログを、ツラツラと見ていて知ったのですが・・・。
昨日の各新聞報道などで、ご存知のことと思いますが予想通り、たんぱく質から、ハーバード大学と韓国のチームが、ヒトiPS細胞を樹立しました。しかし、ものの見事に著者らは韓国人ばかりですね(笑)。(11人中10人?)。だから、Nature、Science誌はだめだったのでしょうかね?・・・前の「大事件の余韻」がまだ・・・。
まっ、推測ですけどね(笑)。じゃ、Cell誌へはというと、いい感じではなかったので、「これほどの発見」が「Cell Stem Cell(Cell誌の姉妹誌)・・・ただし専門分野別では、かなりの一流誌とされています)での、なぜか「Brief Report」(短報論文)での発表ですからね。
まあ、これを超えるであろう研究が既に、Cell誌、Nature誌、Science誌に出されては・・・いますけれどね・・・(笑)・・・これは本当。
さて、今回のNewsの概略は・・・
「米研究機関「Stem Cell & Regenerative Medicine International(幹細胞と再生医療に関する国際研究所)」とハーバード大学(Harvard University)は28日、皮膚細胞から安全に幹細胞を誘導する方法を開発したと発表した。万能細胞の臨床用途としての可能性が一段と高まったことになる。
研究チームは、細胞に浸透するペプチドを用いて遺伝子を融合させるという手法で、遺伝子を誘導することに成功した。この手法だと、遺伝子突然変異のリスクはないという。
従来のiPS細胞の作製にはウイルスを使用するという負の側面があった。ウイルスを使って細胞を再プログラミングすると、DNAが異常を起こしてがん化、または遺伝子が変異しやすくなると指摘されていた。
そして、これまでにも、DNAトランスフェクションと呼ばれる手法や化学洗浄を用いて遺伝子導入に成功した例はあったが、いずれも健康被害をもたらす可能性があった。でも、今回のは、そういう心配がない。来年、後半には臨床試験へ・・・」という内容の報道です(主に、AFPBB Newsから)。
本件に関する丁寧かつ詳細な報告は、京都人さんのブログ記事も併せて、ご堪能くださいませ。
さて、論文も読みましたが・・・。
最近出たばかりの、トムソン先生らの最新の方法(Science誌)をやろうが、他の最新の方法(Natureなど)でやろうが、いずれも健康被害をもたらす可能性がある・・・と論文の中では書かれています。・・・まあ、そりゃそうですがね。
そして今回の「最新の樹立方法」ならば「遺伝子突然変異のリスクはない」、「癌化しにくい」と報道でもいわれますが・・・。本当に、ヒトiPS細胞の「癌化」が防げた・・・という証拠までは、さすがに示されていません。
染色体を傷つけづずにヒトiPS細胞ができたのは、トムソン先生らの「最新型」と同じ。
タンパク質だけでヒトiPS細胞ができたというのが、今回の最大の新しい点。
まあ、これで、より一層「拒絶反応がなく、倫理的にも問題の無い、ヒトES細胞が創れるようになった」と、ほぼ同義かな?と思います。ただし、そのヒトES細胞でも、まだ癌化リスクの懸念がありますからね。
要は、細胞のリプログラミング自体が癌化と隣り合わせであることは変わりません。
ただ、ヒトES細胞の場合は、その懸念も、かなりクリアされてきており、今、臨床試験に入れるようになっています(例えば、ジェロン社の試験などが、その代表例)。
ちなみに「マウスES細胞においてEras遺伝子を除去することで腫瘍形成が正常マウスES細胞の10%以下になった。たぶん、ヒトES細胞でも、そうすることで安全性は高まると期待される」・・・という論文を書かれたのは、山中先生です。(←どうも、このマウスを用いたNature誌の仕事とCell誌のNanogの仕事(2003年)が評価されて、山中先生は京大教授になられたようですね。)
・・・で↑よりも、かなり優れた「多能性幹細胞(特にヒトiPS細胞にフォーカスしていますが、ヒトES細胞でも同様)の癌化監視マーカー」をどうにか発見できたので、そろそろ世に問おうかとしているわけです。
でも、新型インフル対応のおかげで、遅れましたがね・・・。