ビックリマークご注意ください。一個人の二次創作です。どうか、個人でお楽しみくださいビックリマーク

ビックリマークでも、感想とか言ってもらえると嬉しくて、続けてしまうかも(笑)ビックリマーク











「マーベラスがいらついてる」
「え?」
抑揚のあまりないどこか機械じみた声のジョーの静かなその言葉に、そばで自分の所持品である宝石たちをうっとりと眺めていたルカが眉を顰める。
デッキスペースの奥まったマーベラスの豪奢な椅子がある特等席には、行儀良さなどどこへやら、彼がひじ掛けに左腕をのせ頬杖をつきながら、そばにあるボックスに右手をやり、中にある物を所在なげに構っていた。
そのボックスには、さまざまな色のチェンジキーがぎっしりと入っている。
すでに伝説と語り継がれる、戦士たちの姿を模したものだ。
そのキーをモバイレーツに差し込むと、変身できる代物だ。
それを宇宙海賊である彼が持っているのかは、わからない。
地球人でない彼が、なぜ?
……ともかく、ルカにはいつものマーベラスとさほど変わらないように見えるが、長い付き合いらしいジョーには彼の些細な変化がわかるのだろうか。
「いつもと変わんないじゃない」
「そのうち、切れだす」
昨日は、地球の『カレーライス』なるものを食べようとした瞬間、ザンギャックの攻撃により、彼らのいた店舗が大破し、お預けを喰らった状態でその憤りを戦いにぶつけたわけだが、それだけではないことも仲間である彼らは知っている。
だが、それを彼が声高に自慢するような性格ではないことも知っているからこそ、多分彼らは目的が違えども運命共同体として行動しているわけで。
「あ~、やっぱ、喰いてぇな」
そう言うと、身体を軽く反ってマーベラスは素早く立ち上がった。
「はい?」
切れるというよりも、いつもの突拍子もない彼の台詞とさほどかわりなく、ルカはジョーを軽く睨んだ。
「……いつものマーベラスじゃない」
「いや。軽く切れてる、あいつは」
「そこで何ごちゃごちゃと言ってるんだ、二人とも」
彼はアヒル口の唇を、むすっと突き出す。
「別に」
「何でもないわよ。あんたこそなに、言ってんの? さっき、ご飯は食べたでしょ」
彼らのいるゴーカイガレオンは彼らの居住スペースでもあるため、食事を作るキッチンはもちろん、個々の部屋もあるのだ。
「あれは、通常の食事だろ。今、俺が喰いてぇって言ったのは、昨日のカレーライスだっ!」
どことなく自分の言うことのどこが悪い? と主張するガキ大将のような雰囲気を醸し出し、不遜なマーベラスはルカを見る。
「はいはい」
反論しようとも、大抵は聞く耳を持たないマーベラスを知っているからこそ、ルカは早々に彼の相手をすることを諦めたようだ。
彼女の様子を意に介した風もなく、彼は自分を黙って見ているジョーに言った。
「出かけるぞ」
ジョーが、自分の言葉によほどのことがない限り異を唱えることなどないことを知っているとでもいう風に自信に充ち溢れた言葉だった。


★ ★ ★


壊滅とまではいかないまでも、街はところどころにザンギャックの攻撃の爪痕を色濃く残していた。
それでも人々は逞しく行きかい、修復するために動いている。
「ひでぇな」
マーベラスの言葉は、目の前の店舗の様子を見事に言い表していた。
店舗の上部は破壊され、店舗内が外から見えている。この状況で今更ながら彼らが無事だったことが不思議なくらいだった。いくら変身をすれば超人的な力を発揮する彼らとて、生身のままでは地球人と変わりない。
「ああ、そうだな」
一重の切れ長の瞳で、店を眺めたジョーは同意する。
さすがに誰もいないかと視線を一巡させると、入口があったらしきところから見覚えのある男性が出てきた。
口元にはマスクをし、瓦礫を抱えている。
「店主か?」
声をかけられ、顔をあげた彼はマーベラスを見ると少しびっくりしたような表情を浮かべた。
「昨日の……」
瓦礫を、足元に置いてマスクをずらす。
あの命の危機を感じる状態を共有した相手の顔は、ちょっとやそっとでは忘れることなどかえって難しいだろう。どことなく親しみさえ感じる弱々しい笑顔を店主は浮かべた。
「今日は、なんだい?」
「カレーライスを食べにきたんだ」
「食べさせてあげたいのはやまやまなんだけど、どうにもこうにも無理だねぇ」
マーベラスの言葉を嬉しく思っているのだろう。昨日の今日である。
店舗を営んでいるだけあって、人に自分の作ったものを客に振る舞うことは彼にとって、無上の喜びに違いない。だが、そうはしたくてもそう出来ない状況なのは素人目に見ても容易に想像できる。
「そうか。すまなかったな、店主」
「いやいや、こちらこそわざわざ来てくれたのにすまなかったね」
店主は、軽く頭を下げた。
背を向け、歩きだしたマーベラス達に店主の声がかかった。
「あ、ちょっと待っててよ」
足を止めて振り返ると慌てて、店舗の中に店主は駆け込んでいく。
「これ、あんたたちのじゃないかい?」
息を切らせ戻ってきた店主の手の中には、まとまったお金があった。
「これは?」
受け取ったマーベラスは、店主を見た。
「いやね、あの状況だから、全部は無理だったけど、これ、あんたと一緒にいたお嬢さんのじゃないかなと思ってね」
「俺たちが、こなかったら……」
「はは、気持ち的には貰っときたかったけど、これだけあるとね、さすがに気後れしちゃうからね、警察に届けとこうかと思ってたとこだったんだよ。ちょうどよかった。これも、神様の思し召しかね」
人の良さそうな笑顔を浮かべ、店主は鼻をこする。
「お友達のお嬢さんに言っといたほうがいいよ。大金を無防備に持っているとよからぬ考えを起こす人もいるからね、気をつけなって」
「……なかなか、どうして」
「えっ?」
軽く俯いて小さく呟いたマーベラスの言葉が聞き取れず、店主は聞き返した。
「店主、昨日のカレーライスの材料は、ここにあるか?」
「材料? あ、あることはあるけど、ここじゃ無理だよ。水道もね……」
「ああ、わかってる。ここじゃ、無理なんだろ。だから、今すぐ材料を用意してくれ。で、俺の船でカレーライスを作ってくれ。金は払う。もちろん、出張費もな」
「ええ?」
マーベラスの言っていることを理解できないらしく、店主があたふたしていると、ジョーが店主の腕を掴むと店の中に引っ張っていく。
「すまいないが、用意してくれ。あいつがああ言いだしたら、梃子でも動かせないんだ。オレも手伝う」
目をぱちぱちさせながら店主は、ジョーの有無を言わせぬ態度に震え上がったように、わたわたと店内を行き来しだした。


★ ★ ★


「で、お連れしたんですの?」
「何が悪い?」
キッチンで調理をしている見覚えのある店主を見たアイムは、楽しげに所定の位置で座っているマーベラスのところにやってくると、優雅に問いかけた。
「なんでもかんでも、あなたの望むようになるわけじゃないんですよ」
「彼は、喜んで来てくれたぞ?」
穏やかな口調だが、諫めているアイルの言葉にも動じていない。
「あなたとジョーで押し掛けたのでしょう? 脅しと言わずなんていうんですの」
「さあ、な」
素知らぬ風を装い、マーベラスは視線を外した。


「どうぞ、出来ました」
2時間ほど経つと、ガレオン内にはスパイスのきいたいい匂いが充満し、ずっと研究室にこもっていたハカセも、匂いにつられてふらふらと出てきていた。
テーブルには、今まさに温かな湯気を立ち上らせたカレーライスが白い皿に盛られ、並べられたところだった。
「あ~、これ、昨日の!!」
「昨日、喰いはぐれたカレーライスだ」
「あれ? あ~、あの、お店の?」
記憶にまだ新しい店主を認めると、ハカセはくるっとした目をいきいきと輝かせる。朝から何も食べずにいたせいなのか、テンションが上がったらしく意味もなく店主に握手を求め、大げさにぶんぶんと彼の手を振り回す。
「マーベラスさんの、わがままですわ。本当に、ご迷惑をおかけしました」
深々と自分に頭を下げて謝るアイムの様子に、店主は慌てて首を振る。
「いやいや。ここまで言ってもらえると、料理人冥利に尽きるというかねぇ。さ、熱々のうちに食べてください」
「さ、食べようよ。料理は出来たてが一番だもん」
ちゃっかりと、席についてスプーンを掴んでいたルカがにっと笑う。
「お前らも、喰いたかったんだろ。俺を悪者にすんじゃねぇ」
「マーベラスみたいに、わがまま言わないだけよ。常識人ですから、私たちは」


「店主、今日は、無理言ってすまなかったな」
「店がこんな状態ですし、材料も腐らせてしまうよりもよかったですからね」
賑やかな食事がすむと、マーベラスは店主を送ってきていた。
初めて口にする『カレーライス』は、宇宙のさまざまな食を味わってきた彼らにも十分満足する味で、店主の作ったカレーは見事完食と相成っていた。
マーベラスなどは大盛りで3杯も平らげていたが、その量はどこにいっているのか表面上彼の腹部は、食べる前と変わらないようだ。
「……なんかね、元気出ましたよ」
店主の言葉にマーベラスは彼をじっと見つめる。
「店がこんな状態でお先真っ暗だなぁと思って、今日一日、店をたたんでしまおうかどうしようか悩みながら片づけていたんですよ。そしたらあんたがいきなりやってきて『カレーライスを作ってくれ』でしょ。何言ってるんだ、この人は、って思ったんですけどね、こう、一心不乱に作ってたらもんもんとした思いはどっかいっちゃってね、で、おいしそうにあんた達が平らげてくれたでしょう。もうちょっと頑張ってみようかなってね」
店主はそう言うと、昼間見せた弱弱しげな笑顔とは明らかに違う、生命力を感じる笑顔を浮かべていた。
「ありがとう」
マーベラスは、目を瞬かせた。
「ああ、お代はいらないよ」
「いや、それじゃあ、俺の気が済まない。受け取れ、店主」
「えっ?」
ゆっくりと浮かび上がるガレオンからマーベラスが、紙袋を店主に向かって投げる。
自分に向かって落ちてくる紙袋を反射的に、掴むとかなりの重量を感じる。
慌ててその紙袋を確かめると、札束がその中に入っていた。
「えっ?!」
絶句する、店主。
「いいか、変な遠慮はするなよ。それで店を早く立て直して、今度は店でカレーライスを俺達に振る舞ってくれ」
遠ざかっていくガレオンに、店主が呆けたように視線を向け、次の瞬間、叫んだ。
「お店を再開したら、絶対、一番に来てくれよ! あんた達のために特等席、取っておくからね!!」
その言葉に、マーベラスは口元をくっと上げ、微笑みを浮かべたのだった。


END



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