こんにちは!
今週は半ばには一迅社文庫アイリス7月刊が発売されます!
ということで、本日から試し読みを実施します(〃∇〃)
第1弾……
『箱庭の息吹姫 ひねくれ魔術師に祝福のキスを。』
著:瀬川月菜 絵:紫真依
★STORY★
触れるものから植物を芽吹かせる、奇跡の力を持つ巫女姫ルーレ。彼女はある願いのため、『世界を滅ぼす』魔術師アンドゥルラスに助けてもらおうと聖域を抜け出した。そして、出会った直後に、帰れと言われてしまったアンドルゥラスにすがりつき、なんとか助けてもらえることになった翌日――
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空気が動き出し、夜の気配は地面の低いところに追いやられていく。
朝日が昇ると夜の気配は消えていき、空は刹那、金色の光を放つのだ。そうして光を浴びた植物たちは、大きく呼吸しながら、ゆっくりと目覚めていく――。
――馴染んだ気配を感じて目覚めたルーレは、帳から漏れる光に朝の訪れを知る。深く息を吐き、違和感を覚えて、何度かまばたきをした。
「…………?」
破れのない真っ白な寝間着。
緑の染みがない美しいシーツ。
「…………っ!」
勢いよく起き上がって部屋を飛び出す。
厨房には焼きたてのパンと、脂たっぷりのベーコンの香りが漂っていた。それを盛り付けていたウルルがこちらに気付き、恐らく朝の挨拶を言いかけたが、目を丸くし「わー!?」と叫び声を上げた。
「なんだ!?」
「どうしたの!?」
「あっ、おはようございます! 魔術師さま、ランさま!」
かんかんかんかんかん。
「おはよう……?」と返してくれたランだが、周りには疑問符が浮かんでいる。彼の隣にいるアンドゥルラスも、入ってきたルーレを避けて壁に張り付いているウルルも同様だ。
「ルーレちゃん……どうして、やかんを叩いてるの?」
「うれしくて!」
ランの疑問は解消されなかったらしい。大きく首を傾げられたので、改めて説明した。
「すべて夢だったらどうしようと思いながら、昨夜は眠りについたのです。目が覚めたら、寝間着は身につけた時のまま、寝台は緑に覆われていなくて……まだ都合のいい夢を見ているのではないかと思って、何かにさわってみようと、やかんを」
「なんでやかん」
「そこにあって、きらきらしていたので」
でも夢じゃなかった。ルーレは呟き、やかんをぎゅっと抱きしめた。
「これが日常になるように、力を制御できればいいのですよね。わたし、頑張ります!」
「うんうん、頑張ってね。でも先に着替えておいで? さすがに年頃の女の子がその格好でうろうろしてるのは、ちょっと犯罪的かなあ」
ずる、と肩から寝間着が落ちそうになる。
ルーレの身体に少し大きな寝間着は、離れからここまで駆けてきたせいで、ただ巻きつけているという状態になりつつあった。しかも裸足だ。
「アンディ。ちらちら見るのはやらしいよ」
「みみみ、見てねーよ! っていうか、はっきり見る方がいやらしいだろ!」
「時と場合と、見る側の意識によりますぅ。アンディはやましい気持ちがあるからだめー」
「聖域でのくせが出てしまいました。すぐに着替えてきます。お目汚し、失礼いたしました」
「お目汚しじゃないね。目の保養だね」
どういう意味か知りたくて会話を続けようとしたルーレに、ランは「いいから着替えておいで」と手を振った。
~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~