一迅社文庫アイリス編集部

一迅社文庫アイリスの最新情報&編集部近況…などをお知らせしたいな、

という編集部ブログ。


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こんにちは!

6月のアイリスNEOの発売日まで待ちきれない!
そんなあなたにはこちら、試し読み第2弾です(≧▽≦)

『臆病な騎士に捧げる思い出の花』
著:逢矢沙希 絵:増田メグミ

★STORY★

男爵令嬢ローズマリーは、結婚相手が決まったと兄から告げられる。
相手のレイドリック次期子爵はローズマリーの幼馴染で、容姿端麗、王宮騎士としても取り立てられる実力者。
だが、ローズマリーは絶対に嫌だった。なぜなら彼にはとんでもない通称があって…


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「……結婚? 私が?」
「そう、結婚だよ。お前が」

 呆然と呟いて、ローズマリーは目の前でにっこりと微笑んでいる兄、デュオンを凝視した。どんなに目を凝らして見てみても、兄の笑顔は変わらない。腹の中で何を考えているのか判らない、見事なまでのポーカーフェイスだ。
 容姿端麗、文武両道を地でいく、それはそれは素晴らしい自慢の兄だが、その性格に関しては人に手放しで褒めそやされるほど素晴らしいものではないことを、この十七年間の人生の中でローズマリーは嫌というほど学んでいる。
 とはいえ兄は今、別におかしな話をしているわけではない。下っ端貴族とはいえ、男爵家に生まれた貴族の娘としては至極当然の縁談話だ。
 十七歳。早くもなく、遅過ぎることもない、まさに結婚適齢期のまっただ中。周りの友人達も今が売り時と、どんどん縁談が持ち上がり、あちらこちらからおめでたい話や招待状が届く。
 もちろん中には売り渋る者や、売れ残る者もいるのだろう。それでも誰が見ても判るほどの理由があるならばともかく、下手に婚期が遅れようものなら、身体に何か欠陥があるんじゃないかしら、などと不名誉な噂を立てられるくらい、貴族の娘の結婚適齢期は短い。
 だからまあ、こんな話が近いうちに自分にもくるのだろうな、という気はしていた。そう、気持ちだけは。だけど、その想像が現実となると話は別だ。

「…………相手は、誰?」

 色々と言いたいこと、聞きたいことは山ほどあるが、やはり今、一番気になるのはこれだろう。
 ローズマリーとしても一応、年頃の少女らしく結婚には憧れを抱いている。多少の夢を見るくらいは許されてもいいはずだ。そう、夢だけは。
 でも。

「レイドリックだよ」

 夢は所詮夢でしかなかったらしい。にっこりと、それはもう宗教画の大天使さながらの完璧な兄の笑顔を前に、妹は一瞬気を遠く彷徨わせ、項垂れるように肩を落とした。
 レイドリック。
 レイドリック・エイベリー。
 良く知っている名だ。嫌ってほどに知っている名だ。
 ああ、もしかしたら人違いかもしれない、なんて夢さえ抱けないくらいに。
 家のため、顔も知らない、ろくに話したこともない相手と結婚させられることなど決して珍しくない貴族社会で、そりゃあもう、生まれた時からの付き合いだけは長い、良く知っている相手なのは、ある意味幸運なのかもしれない。
 だけど顔も知らない相手の方が、少なくとも実際に会うまでの間、夢を見られるという最後の悪あがきができるわけで、こうまで良く知っている相手ではそれさえできない。
 そんなローズマリーの内心のショックに気付いているはずなのに、全くお構いなしに兄はまるで自分の手柄だとでもいわんばかりに誇らしげだ。
「私も、可愛い妹の結婚相手は厳選したんだよ。お前にはより良い相手を、と思ってね。レイドリックは付き合いも長いし、人柄も良く判っている。お前と年齢的な釣り合いも取れるし、まあ私には劣るが、容姿もそれなりだ。将来はエイベリー子爵家当主で王宮騎士団に名も連ねている。お前の結婚相手としてこれ以上の相手はなかなかいないだろう?」
 兄のさり気なくナルシストな発言はともかく、確かにローズマリーの脳裏に浮かぶその名を持つ青年は、五つ年上の今年二十二歳。年齢的には丁度良い。
 背もそこそこに高いし、容姿も甘く整っている。少々気まぐれな猫科の動物のような印象があるが、人付き合いも良く、笑うと人懐こい愛嬌のある青年で、ご令嬢、ご婦人方の間での人気も高いと聞いている。
 騎士としても、特に将来性と才能が認められた者のみが所属を許される、王宮騎士団の一員だ。
 この国では貴族の多くが騎士の称号を得るが、レイドリックのように将来爵位を継ぐことが決まっている嫡子の中で、本格的に騎士として才能を伸ばす者は案外少ない。
 普段の、ローズマリーが知る彼の姿からはなかなか想像できないものの、家柄よりも実力重視である王宮騎士に取り立てられるのだから、相当なものなのだろう。
 客観的に見れば、兄の言葉を覆すことが不可能なほどに良縁と言って良い。そう、ごく一部の問題点を除けば。
 だけどそのごく一部の問題点を、ローズマリーはどうしても無視することができなかった。

「…………じょ……」
「じょ?」
「冗談じゃないわよ、あの女ったらし!!」

 そう、レイドリック・エイベリー二十二歳。
 エイベリー子爵家嫡男。
 所属、ウォレシア王国王宮騎士団第三十六席。
 そして、通称、渡り鳥の君。
 鳥。鳥である。それも、渡り鳥。
 女性と女性の間を調子良く、ひょいひょい渡り歩く、その名が全てを表していると言っても良い、彼の通称であった


「確かに俺もそろそろ年貢の納め時かなとは思っていたけど、ローズがお相手とは盲点だったな」

 その日の午後になって、ふらりと屋敷に訪れたその人はしみじみと呟きながら、繊細な模様が描かれた陶磁器のカップに口を付けた。そんな仕草はさすがに貴族のご子息らしく実に優雅で、女性の溜息を誘うに充分……なのだが、いかんせんローズマリーはこの男との付き合いが長過ぎる。
 ああ、せめてこの男の悪癖を知らなければまだ、胸をときめかせられたかもしれないのに。
 彼とこうして真正面で向かい合いながらお茶をする、なんて何年ぶりのことだろう。幼い子供の頃は日常的だったことも、この年になればそうはいかない。
 それでもこの一時が、幼馴染みとしてのものだったならローズマリーも、もっと素直に楽しむこともできたはずだ。なのに……結婚だなんて……今の自分には想像もできない。

「それはこっちの台詞よ、女の敵」

 どんなに不満を訴えても、少しも自分の言葉を真剣に受け止めてくれない兄に対する苛立ちと、目の前の幼馴染みの青年の飄々とした態度に怒りが募る。
 その怒りのまま、まるで小動物が威嚇するように不機嫌な眼差しを向けるローズマリーに、レイドリックがやれやれとばかりに苦笑して、降参の形で両手を上げてみせた。

「ひどいな、ローズは少し俺のことを誤解していると思うけど?」
「いっそ誤解であって欲しいわ。今までのあなたの女性遍歴の全てが嘘だと言うのなら、是非私に説明してみせてちょうだい」
「それはちょっと、お茶の時間だけじゃ足りないかな」
「納得さえさせてくれるなら、何時間だって付き合うわよ」

 そんな説明ができればの話だが。
 じっと睨み付ければ、あからさまにわざとらしい咳払いをして、ローズマリーの視線から目を逸らす。それみたことか、やっぱり説明などできないのだ。判っていても心底呆れた。

「そんなに露骨に敵意を露わにしないでくれよ。昔はあんなに仲良く過ごしていたじゃないか」

 そう、仲良くしていた。大好きな幼馴染みだった……だからこそ、ローズマリーが心から慕っていた少年時代から、大きく変わってしまった今の彼が許せないのだ。
 少年だった頃のレイドリックは、少なくとも女性と刹那的な関係を楽しむような趣味はなかった。可愛い女の子が好きだとは言っていたけれど、彼にとっての可愛い女の子というのは常にローズマリーのことで、女性とみれば見境なしに甘い言葉を囁くことなどしなかったのに。
 記憶の中の少年の頃のレイドリックを、そのまま切り取って永遠の綺麗な思い出として飾っておきたいくらいだ。今の彼に確かに少年時代の面影が残っているから、尚更悔しくなる。
 ほんの少し赤味の混じった鮮やかな金の髪に、質の良いサファイアの瞳はあの頃のままで、元々は色の白い肌は、健康的に陽に焼けて、彼の整った容姿に彩りを添えている。
 一方、ローズマリーは髪も瞳の色も兄とそっくり同じ、癖のある黒髪と、琥珀色の瞳だ。
 兄のデュオンは自分には劣ると言ったが、ローズマリーに言わせれば、レイドリックと兄とでは美貌の種類が違う。
 所謂レイドリックは、派手な美貌だ。だからだろうか、彼の華々しい女性遍歴が余計に際立って感じるのは。

「とにかく、私はこの結婚はお断りです! どうせあなただって、私みたいなお子様はお呼びじゃないんでしょう? お互い気が進まない結婚は不幸の始まりだわ」
「そうは言っても、うちの両親も君のことを気に入っているからね」

 だからこの話をなかったことにするのは、なかなかに難しい。
 確かに親の発言権の方が強いこの社会で、親が決めたことを子が覆すのは生半可なことではない。大抵は親に命じられたことは逆らわずに、はいはいと受け入れるのが子の役目だ。
 判ってはいても、レイドリックのその一言が余計にローズマリーの苛立ちの火に油を注ぐ。

「結婚くらい、自分の意思で決められないの?」

 男のくせに情けない。じろりと多大な嫌味を含んで睨めば。さすがにレイドリックも、少しばかりムッとしたように眉根を寄せた。

「通常、貴族の結婚に本人の意思は無関係だって、君も知っているはずだよね? それにローズも不満だろうけれど、俺だって正直どうしようかと思っている。生まれた時からの付き合いで、妹のように思っていた子を突然、女として見ろと言われてもね。俺だって色々と考えるんだよ」

 これが彼の偽らざる本音なのだろう。なぜかそれはそれで、少し切なく寂しい気がする。
 でも確かにその通りだ。自分の不満ばかり口にしていたローズマリーだけれど、同じくらいレイドリックにだって言い分はあるだろう。少し言い過ぎたかもと、反省しかけた時。
 彼は、ふう、とそれはそれは悩ましく溜息をつき、しみじみと呟くように言った。

「このまま結婚しても、初夜で失敗したら洒落にならないよなあ」

 直後、ローズマリーの傍らにあったクッションが、レイドリックの顔面目掛けて宙を飛んだ。直接的な攻撃は片腕で防ぐことができても、耳を貫くローズマリーの悲鳴のような叫びは防げない。

「何を言っているの、この変態! すけべ、馬鹿じゃないの!?」

 人が必死に考えないようにしていたことを、良くもまあ言葉にしてくれたものだ。
 そう、つまり、結婚するってことは、そういうことで。既に先に結婚した友人や親戚の女性達から、面白がるように吹き込まれたピンク色の知識は、ローズマリーをそれなりに耳年増にしている。

「失礼な。男の沽券に関わる重要な問題じゃないか」
「だからって今それをここで言う!? 一度死んできたら!?」
「死ぬのは人生に一度限りで充分だと思うけどなあ」

 兄のデュオンが二人のいるサロンへと訪れたのはその時だ。

「いやあ、相変わらず仲が良いね、二人とも。私も何の心配もないよ」
「どこがっ!? ねえ、お兄様、どこが!?」
「デュオン。ローズは俺も可愛いと思うけどね、もうちょっと女性として持つべきものは持たせた方が良いと思うぞ」
「女性として持つべきもの?」
「そう。たとえば、色のついた気質とか」

 色のついた気質。つまりは。
 色気。

「尼っ! 私は尼になりますっ!! そしてそのまま枯れてやるわっ! 誰があなたなんかと結婚するもんですか!! 無理に結婚させられるくらいなら、このまま家を出ます、探さないで下さい!」
「おやおや」
「ローズ……」

 かくして幼馴染みと兄の溜息をよそに、ローズマリーのなんとも安易でありがちな家出が決行されたのであった。

~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~
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「小説家になろう」×「一迅社文庫アイリス」コラボ企画★
一迅社文庫アイリス恋愛ファンタジー大賞受賞作、続々刊行中音譜
本日は、アイリスNEO6月1日刊行の
新刊特典情報をお届けします↓↓↓

第3回金賞受賞作品キラキラ
結婚を拒否したら、不誠実な幼馴染と期間限定の恋人ごっこをすることに……!?
『臆病な騎士に捧げる思い出の花』

逢矢 沙希:作 増田 メグミ:絵
ジャンル:ラブファンタジー
四六判 本体1,200円+税


★ 書き下ろしショートストーリーA★
下記のアニメイト店舗様での購入者様に特典がつきます。
※配布店舗は記事最下段、応援店舗リストをご確認下さい。

★書き下ろしショートストーリーB★
応援店舗様での購入者様に特典がつきます。
※配布店舗は記事最下段、応援店舗リストをご確認下さい。


名前だけの新婚生活をスタートした、女嫌いの王太子レイン様と成り上がり男爵家令嬢の私。
人気作第2弾★ 外交旅行編、新キャラ+オール書き下ろしで登場ラブラブ
『男爵令嬢と王子の奮闘記2』

olive:作 山下 ナナオ:絵
ジャンル:転生ラブファンタジー
四六判 本体1,200円+税


★ 書き下ろしショートストーリーA★
下記のアニメイト店舗様での購入者様に特典がつきます。
※配布店舗は記事最下段、応援店舗リストをご確認下さい。

★書き下ろしショートストーリーB★
応援店舗様での購入者様に特典がつきます。
※配布店舗は記事最下段、応援店舗リストをご確認下さい。


結婚式直前に波瀾の予感!?
大人気作品の続編が大幅書き下ろしで音譜登場
『私の気の毒な婚約者2』

山吹 ミチル:作 雲屋 ゆきお:絵
ジャンル:ラブファンタジー
四六判 本体1,200円+税


★ 書き下ろしショートストーリーA★
下記のアニメイト店舗様での購入者様に特典がつきます。
※配布店舗は記事最下段、応援店舗リストをご確認下さい。

★書き下ろしショートストーリーB★
応援店舗様での購入者様に特典がつきます。
※配布店舗は記事最下段、応援店舗リストをご確認下さい。



配布店舗は、以下の通りになります。


★アニメイト購入者特典配布店舗★
【北海道・東北】
・アニメイト札幌
・アニメイト旭川
・アニメイトイオン釧路
・アニメイト八戸
・アニメイト青森
・アニメイト盛岡
・アニメイト仙台
【関東】
・アニメイト池袋本店
・アニメイト町田
・アニメイト吉祥寺
・アニメイト八王子
・アニメイト渋谷
・アニメイト秋葉原
・アニメイト蒲田
・アニメイト新宿
・アニメイト横浜
・アニメイト川崎
・アニメイト水戸
・アニメイトイオンモール土浦
・アニメイトイオンモール太田
・アニメイト大宮
・アニメイト南越谷
・アニメイト所沢
・アニメイト津田沼
・アニメイト千葉
・アニメイト柏
・アニメイト宇都宮
【中部】
・アニメイト新潟
・アニメイト長岡
・アニメイト福井
・アニメイト富山
・アニメイト金沢
・アニメイト名古屋
・アニメイト豊橋
・アニメイト豊田
・アニメイト静岡
・アニメイト浜松
・アニメイト沼津
・アニメイト四日市
・アニメイトイオンモール桑名
【関西】
・アニメイト京都
・アニメイトアバンティ京都
・アニメイト天王寺
・アニメイト京橋
・アニメイト大阪日本橋
・アニメイト梅田
・アニメイト三宮
・アニメイト姫路
・アニメイトイオン明石
・アニメイト和歌山
【中国・四国】
・アニメイトイオン米子
・アニメイトイオン松江
・アニメイト岡山
・アニメイト高松
・アニメイト高知
・アニメイト広島
【九州】
・アニメイト福岡天神
・アニメイトモラージュ佐賀
・アニメイト佐世保
・アニメイト熊本

・アニメイトオンライン



★応援店購入者特典配布店舗★
・文教堂書店 川口駅店
・文教堂書店 東川口店
・文教堂書店 行徳店
・文教堂書店 溝ノ口本店
・文教堂書店 中央林間とうきゅう店
・文教堂書店 溝ノ口駅前店
・文教堂書店 住道店
・文教堂書店 浜松町店
・文教堂書店 赤羽店
・文教堂書店 青戸店
・文教堂書店 三鷹駅店
・アニメガ 水戸店
・アニメガ 市原店
・アニメガ 武蔵境駅前店
・アニメガ 京都店
・アニメガ 新宿マルイアネックス店
・アニメガ 新宿アルタ店
・アニメガ 町田店
・アニメガ 二子玉川店
・アニメガ 札幌西岡店
・アニメガ 札幌大通駅店
・アニメガ 函館昭和店
・アニメガ 琴似駅前店
・アニメガ 熊谷ニットーモール店
・アニメガ 三軒茶屋店
・アニメガ 南大沢店
・アニメガ 松本店
・アニメガ 静岡109店
・アニメガ 梅田ロフト店
・アニメガ 天神ロフト店
・アニメガ 仙台ロフト店
・アニメガ ヴィーナスフォート店
・アニメガ 吉祥寺パルコ店
・アニメガ 横浜ビブレ店
・文教堂ホビー&アニメガ(通販)
・書泉ブックタワー
・紀伊國屋書店 新宿本店Forest
・有隣堂 横浜駅西口コミック王国
・ジュンク堂書店三宮店
・星野書店近鉄パッセ店
・ブックファーストコミックランド梅田店
・喜久屋書店 漫画館阿倍野店
・ジュンク堂書店福岡店


※特典は、なくなり次第終了となります。
※書籍搬入発売日は、地域や店舗様により前後する場合があります。編集部ではお答えできませんので、各店舗様にお問い合わせをお願いいたします。
※特典配布方法の詳細は各店舗様にお問い合わせください
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こんにちは!

6月発売のアイリスNEOの発売日ももうすぐ!
ということで、試し読み第一弾はこちら音譜

『私の気の毒な婚約者2』
著:山吹ミチル 絵:雲屋ゆきお

★STORY★

無理やり自分と婚約させられてしまった『気の毒』な王子様だと思っていたレオンとも無事に心を通わせ、結婚式の準備を進めていた伯爵令嬢のクリスティナ。
ところが結婚式二日前、事態は急転して――!?


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 どうしてこんなことになっているのだろう。
 さっきから何度も同じ疑問が、頭に浮かんでいる。
 馬車の小窓からカーテンの隙間を縫って、外の様子を窺っているけれど、およそ事態は好転などしそうにない。
 扉一枚で隔たれた外の世界では、緊張感に満ちたやりとりが行われ、たまたま街道に居合わせた不幸な人々が、固唾を呑んでただ嵐が過ぎ去るのを待っていた。
 ほんの数刻前までは、ここには旅人たちが行き交う、数多い街道の中の一つの、日常的な風景しかなかった。
 そしてわたしは幸せに満ち足りた気持ちで、馬車に揺られていればそれでよかったのだ。少し前までは。
 昨日、王宮でレオン様と別れた時だって、もうすぐ訪れるはずの、ずっと一緒にいられる未来のことしか考えていなかった。
 忙しさに目がくらみながらも、次に会うのは結婚式の日だと信じて、笑顔で言ったのに。三日後にって──。
 それなのに、もう結婚式どころか一生会えないかもしれない危機に襲われている。
 馬車を包囲している盗賊たちは、護衛の騎士たちよりも多く、更には巻き込まれただけの一般民たちを傷付けることに、一切の躊躇いがないように見えた。
 彼らの要求は初めから一つだけだった。
 騎士たちが一般民を巻き込まないために、剣を抜かずに時間を稼ぎながら交渉を続けているけれど、一貫して妥協点を見出そうとはしない。
 人命を優先して、持っている金品を全て差し出すと言っても、納得などしなかった。より大きな要求を突きつけてくる。
 彼らの目的はこちら側の、一番身分の高い貴人の身柄。
 つまりはわたしを、人質として要求しているのだ。
 貴族を誘拐して、身代金を求めてくる盗賊は、多くはないけれど珍しくもない。
 ずっと昔の、戦乱の時代から受け継がれている盗賊行為の一つだった。
 交渉が上手くいけば、襲った時にたまたま持ち合わせていた金目の物よりも、よほど多くのお金を手に入れることができる。
 ただ、今この馬車を襲っている盗賊の本当の目的はお金ではないと思う。
 彼らは馬車の中にいる人物がわたしであることを、二日後に式を挙げる第二王子の婚約者であることを知っていた。
 それなら当然、護衛がただの雇われ人ではなく、歴とした騎士であることも知っているはずだし、上手く事が運んでも、一級の指名手配犯になることは変えられない。
 わたしがまだ王族ではないのだとしても、王家がこんなことを黙って見過ごすはずがないのだから。
 そんな危険を冒してまで襲撃するのは、いくら大金が手に入るのだとしてもおかしい。同じ方法でもっとリスクの低い相手が、探せばいるはずなのだから。
 だからこの盗賊たちの目的はお金ではなくて、わたし自身なのだろう。
 それもわたしに危害を加えることなどではなくて、わたしとレオン様の結婚を阻止することが目的なのだと、この手口から感じる。
 貴族の誘拐はお金さえ渡せば、無事に人質を返してもらえるという認識がなくては成立しない。だから盗賊も人質をひどく扱うことなんてほとんどない。昔から行われているだけあって、賊側にもそういう決まりのようなものがある。
 でもほとんどが無事でいられるだけであって、必ず無事に帰される保証なんてない。
 もし嫁入り前の娘が誘拐などされたら、やはり傷モノになったのだというレッテルを貼られてしまう。そして結婚はかなり遠のく。
 まして王家に嫁ぐことなど完全に不可能だった。
 だからこの盗賊たちは、わたしを誘拐したのだという事実さえ作れば、目的が達成されるのじゃないだろうか。
 いくら何でも亡き者にしようだとか、痛めつけてやろうだとか思われるくらいの恨みを買った覚えはない。
 でも結婚を阻止してやろうと思われるくらいの恨み、いや逆恨みなら、覚えがないわけではなかった。
 やはり彼なのだろうか。
 この襲撃を指示したであろう人物が頭に浮かぶ。
 しかし今はそんなことを考えている場合ではなかった。これ以上の時間稼ぎは無理だろうし、やったところで意味はないように思う。
 わたしは小窓から顔を離した。
 馬車の向かいの席では、侍女のセーラが蒼白な顔で小さく震えている。

「クリスティナ様、わたしが身代わりになります。わたしならクリスティナ様の代わりができますから」

 彼女はぎゅっと拳を作って、気丈にもそんなことを言ってくれる。
 確かにセーラはわたしと背恰好がよく似ているし、以前もわたしのフリをしてもらったことがある。
 それに専属の侍女なので使用人のような恰好ではなくて、少し地味な貴族婦人といった出で立ちだから、彼女が王子の婚約者だと言っても、無理があるわけではない。
 でもそれはとても危険な賭けだった。

「そんなの駄目よ。あなたが危険な目に遭うだけではないわ。すぐにバレてしまったらどうするの」

 相手がわたしの顔を知っている可能性だってある。
 盗賊たちはすでに一般民を人質に取っている状態なのだから、危ない橋を渡るわけにはいかない。
 この状況でわたしにできることなど、一つしかなかった。
 でも心がそれを強く拒否する。
 一緒にいられなくなるなんて嫌。その権利を守るためなら何だってするのに。それなのにその方法が何も思い浮かばない。
 心臓が握り潰されているかのような痛みを訴えていた。
 怖い。怖くて仕方がない。
 これから起こることを思えば、目の前が真っ暗になって、倒れ込んでしまいそうだった。
 でもわたしは毅然とした態度で彼らに立ち向かわなくてはいけない。
 ちゃんと決めたのだから。レオン様に選んでもらったのだと知った時に、この国に尽くす人間になるのだと。
 ここで何の罪もない人々を守れないような人間が、今後国のためになる存在になどなれるはずがない。
 わたしは自らの手で馬車の扉を開けた。
 セーラが悲痛な声でわたしの名前を呼ぶ。それを無視して一人で馬車を降りた。
 護衛の騎士たちがわたしの姿を見て息を呑む。

「お戻りください! ハーレイ嬢」

 この場のリーダーである近衛騎士副団長が慌てたように言った。そんな彼の方を向いて、何かいい解決策でもあるのかと、目で問いかける。
 彼は苦悩に満ちた顔で口を閉ざした。
 責めたかったわけじゃない。彼がわたしを守れなかったことの責任を取らされるかもしれないと思うと申し訳ない気持ちになった。
 この事態を防ぎきれなかったことの原因は、彼の妄執を甘く見ていた自分のせいだった。これだけ計画性のあることをできる人物だとは思っていなかったのだから。
 一体いつから仕組まれていたのかと、そんな場合ではないのに考えてしまう。
 彼の報復の対象は初めはエレンの父親であるティリル伯爵で、その次はエレンだった。ティリル伯爵がいつから狙われていたのかは定かではないけれど、エレンはあの青年に目を付けられた時には、彼の魔の手に掛かっていたのかもしれない。
 夜会で得意げに青年のことを語るエレンが思い出される。
 盗賊たちの方へゆっくりと歩いていきながら、わたしは彼がいつから行動したのかということばかり考えていた。

~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~

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