夕闇の蛍 | ムササビの星空ノート

夕闇の蛍

「お父さん、、あそこ!」
息子の声の方に目を向けると、不意に小さな緑色の光が目にとまりました。

水辺の一角に小さな緑色の光が明るくなったり、暗くなったりを繰り返しています。

うるさいほどの蛙の鳴き声。

小川の脇の小枝の下にひとつ、水田のあぜにもひとつ、息子の足元の草むらにもひとつ。
夕闇の中から蛍がひとつ、またひとつと姿を現しました。

東の空からはさそり座のアンタレスが姿を現し、西の稜線にはふたご座が沈みかけています。

水田の上をふわふわと漂っている蛍がひとつ、またひとつ。

気が付けば、私の足元の草むらにも蛍の光がゆっくりと瞬いています。

ホタルの光に誘われて、夕闇の中を歩き回る息子。
手のなかには素手で捕まえた蛍が光っています。

蛙の鳴き声が輪唱しながら、響いています。


「もう北斗七星が傾きかけているから帰ろうか」

残念そうに手のひらを開けると、蛍がゆっくりと舞い上がりました。

私たちは何度も後ろを振り返りながら、その場から立ち去りました。

今年も蛍の季節になりました。
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