文明の再生(8)
イスラームの万能人たち(3)
 後にパリの医学校は、もう一冊の医学書を教科書に加えた。イブン・スィーナー(九八〇―一〇三七年)が著した『医学典範』である。この本は、十七世紀まで、西洋のすべての医科大学で、最高権威の医学書として君臨し続けた。彼らは七百年の間、医学の知識において、『医学典範』に何かを付け加える必要を感じなかったのだ。
 西洋でアヴィセンナ(タジキスタンの紙幣に描かれたイブン・スィーナー)と呼ばれた彼もまた、万能の科学者だった。物理学、天文学に通暁し、地質学という新たな地平線を開拓した。いらだたしいほど難解なアリストテレスの『形而上学』を、生涯のうちに四十回精読し、第一の師を反駁した。
 不当に西洋に関心を集中する人は、レオナルド・ダビンチを「万能人」と誇称する。しかし、世界史を枠組みとすれば、それは神話にしかすぎない。芸術作品を除けば、彼の科学的知識は、イスラームの万能の科学者の模倣である。
 例えば、イブン・フィルナス(八一〇―八八七年)は、外科医、物理学者、天文学者、工学者、光学者にして、イスラームの発明王エジソンのような人だった。彼は八八〇年ころ、世界で初めて飛行機を製作、墜落しはしたものの、世界初の鳥人となった。彼は錬金術にも凝っていた。