文明の再生(5)
知恵の館(4)
 カリフがビザンツ皇帝に使節を派遣した出来事について、興味深い逸話が残っている。ある皇帝は、国民がギリシャ文明の書物を読めば、キリスト教を捨て、帝国が滅亡してしまうのではないか、と心配でならなかった。そこでこの皇帝は、これらの書物をすべて秘密の倉庫に隠した。これを聞いたアッバース朝の宰相は、それらの書物を貸してくれるように皇帝に要請した。皇帝は、アラブがそれらの書物を読めば、背信して、イスラーム帝国が滅亡し、国家の脅威が取り除かれる、と欣喜雀躍して喜んだ。皇帝は、「返却には及ばず」、との手紙を添えて、倉庫の書物を送った、という。
 また、学問の支援者であった宰相が、翻訳者と書記に二千ディナールの月給を払っていた、との記録も残っている。当時の一ディナールは、純金四・二五グラムに相当した。これは針小棒大にしても、彼らがかなりの高額所得者であったことは、疑いない。
(最先端建造物はよく似た形をしている。バグダッド市街とアップル本社屋)。