埋められたフェロニッケルスラグは本当に商品だったのか? | 日向製錬所産廃問題ネットワーク

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住友金属鉱山㈱の子会社㈱日向製錬所が排出する「フェロニッケルスラグ」による公害問題を追求します 
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以下『鬼蜘蛛おばさんの疑問箱』ブログより転載


毎日新聞が、スラグ問題を考える上で非常に重要な記事を掲載した。記事は「八ッ場あしたの会」のサイトに転載されている。

有害スラグに関する毎日新聞の解説記事

-クローズアップ2014:広がる有害スラグ 根深いリサイクル偽装-

 八ッ場(やんば)ダム(群馬県長野原町)の移転代替地の整備工事などで有害物質を含む建設資材「鉄鋼スラグ」が使われていた。

国土交通省が26日に公表した分析結果では、スラグ使用の疑いがある国発注の56工事のうち27工事で環境基準を超える六価クロムなどが検出された。

スラグを巡っては過去にもトラブルが繰り返されており、その背景に本来は産業廃棄物であるスラグの再利用を巡る「リサイクル偽装」とも言える構造的な問題が浮かぶ。【杉本修作】

 ◇「手数料」付け販売

 問題となったスラグは、大手鉄鋼メーカー・大同特殊鋼(名古屋市)の渋川工場(群馬県渋川市)から排出され、その大半を渋川市の建設会社が販売または自社の工事に利用したとみられる。スラグは本来、環境基準を下回っていることを前提に道路の路盤材などに許可を得て使用できる。

だが今回は、群馬県内の公園や駐車場で使われたスラグから基準を超える有害物質が次々と検出され、本来使用が認められていない宅地にも使われていた。

 スラグは鉄精製時に出る副産物で、石や砂利の形状をしている。さまざまな化学物質が残存することがあり、そのままでは廃棄物処理法上の産業廃棄物となる。一方で、建設資材などとして以前から再利用され、1991年施行の「再生資源の利用の促進に関する法律」(リサイクル法)でも指定対象となった。

 大同の渋川工場も90年代半ばからスラグの製品化を始め、最盛期で年間2万トンを建設資材として出荷した。だが、毎日新聞が入手した2009年の売買契約書によると、大同側は渋川市の建設会社に1トン当たり100円で販売しながら「販売管理費」として1トン当たり250円以上(出荷量に応じて変動)を支払っていた。製品を売る側が販売額以上の費用を別の名目で支払うこうした取引は「逆有償取引」と呼ばれる。

 スラグを廃棄物として処分するには遮水などの管理が必要で、1トン当たり2万~3万円の費用がかかるとされるが、逆有償取引なら輸送費などを負担しても同数千円程度とみられ、格段に安価だ。一方、買い取る側は購入した分だけ逆に収入が増えるため、適正な使途のあてがないのに取引を続けることになりかねない。渋川市の建設会社OBは「大同から『スラグを取りに来い』と言われれば全て引き受けた。使い道がないから許可されていない工事にも使わざるを得なかった」と証言する。

 逆有償取引は07年、山陽特殊製鋼(兵庫県姫路市)でも発覚し、リサイクル販売とされた約10万トンのスラグが淡路島で野積みのまま放置されていた。山陽は買い取り業者に運搬費など1億数千万円を支払ったとみられるが、仮に全量を廃棄物として処分していれば20億~30億円の費用がかかった計算だ。

 スラグは原材料の3~4割、年間約4000万トン生成されているが、鉄鋼スラグ協会(東京都中央区)のまとめによると、99%が再利用され、廃棄物などの埋め立て処分はほとんどないとしている。再利用の約半分を占めるセメント製造は100年以上の実績がある一方、近年は路盤材などの「逆有償取引」が繰り返されている。ある製鉄関係者は「スラグを廃棄物処分すれば鉄鋼価格に反映され国際競争力は保てない」と打ち明け、「リサイクル偽装」の根深さを示唆した。

 ◇格安、行政にもメリット

 有害スラグの拡散を生んだ別の理由として、建設業界からは行政の不作為を指摘する声も少なくない。

 スラグを使った建設資材は元手があまりかからず、競合する別の資材と比べて価格が3~4割ほど安いとされ、費用を抑えたい自治体にとっては「渡りに船」という。群馬県では10年6月に県内工事での使用が認められたのを機に、市町村や国の出先機関で利用が広まった。だが、行政による資材の検査は行われず、安全管理は業者任せだった。

 スラグ以外の資材を扱う業者は「あれだけ安く売られたら勝負にならない。行政もそのことを知りながら(有害物質拡散の懸念を)放置していた」と憤る。

 26日に国交省が公表した調査結果に対しては、八ッ場ダム移転代替地の住民に国への不信感ものぞく。今回調査された無許可の56工事の大半は国の管理地で、住民に分譲された土地については「調査に地権者の同意が必要」だとして、一部しか行われなかった。

 ある住民は毎日新聞が八ッ場ダムの問題を報じた8月以降、国交省八ッ場ダム工事事務所の担当者が住民説明会で「住宅地にスラグは使われていない」と強調していたと証言。宅地の下にスラグが使用されていれば土壌や住民の健康に影響を及ぼす可能性もある上、撤去も困難だ。26日の国交省関東地方整備局による記者会見でも担当者は「使われたのは家の下ではなく敷地内。庭の一部」と強調し、影響を最小限に抑えたいとの思惑が垣間見える。長野原町の70代男性は「国が調査結果を公表しても、それだけでスラグの使用がとどまるとは思えない。調査で幕引きしようとしている」と危機感を募らせる。

 一方、スラグを取り扱った渋川市の建設会社は、群馬県以外に長野県などで工事を受注しており、そうした工事に有害スラグが利用された可能性も否定できない。環境問題に詳しい粕谷志郎・岐阜大名誉教授(環境生態学)は「行政は安全管理を業者任せにせず、汚染防止に主体的に取り組むべきで、スラグについても問題がある以上、使用されている資材を徹底して調査すべきだ」と話している。

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 ◇鉄鋼スラグを巡る主な事件やトラブル

2005年
 7月 「神鋼スラグ製品」(神戸市)が親会社の神戸製鋼からスラグを買い取った価格が通常より高く、親会社に所得を移転したとして大阪国税局が所得隠しと認定していたことが発覚

10月 JFEスチール東日本製鉄所千葉地区(千葉市)で、スラグの堆積(たいせき)場から汚染水が海に流出しながら水質測定データを改ざんしたとして社員3人を水質汚濁防止法違反で略式起訴

2007年
 8月 山陽特殊製鋼(兵庫県姫路市)がスラグをリサイクル販売した形を取りながら引き取った業者に販売額以上の運搬費などを支払う「逆有償取引」を行っていたことが判明。スラグは野積みされ健康被害を訴える苦情が相次ぎ、山陽が自社で撤去

2010年
 2月 新日鉄名古屋製鉄所(愛知県東海市)でスラグを積んだ敷地内から高アルカリ水が名古屋港に流出していたことが発覚

2014年
 1月 大同特殊鋼(名古屋市)の渋川工場(群馬県渋川市)でスラグの逆有償取引が判明。群馬県が同社を立ち入り検査  

8月 八ッ場ダム(同県長野原町)の移転代替地でも大同渋川工場から出たとみられる有害スラグが使用されたことを毎日新聞が報じる

10月 名古屋市上下水道局が発注した水道管の取り換え工事で特定の数社が請け負った約220カ所で道路が盛り上がるなどのトラブルが生じていたことが判明。埋め戻し材にスラグが使われ、水を吸って膨らんだためとみられる

 これは八ッ場ダムの工事に関わる整備事業で有害物質を含む鉄鋼スラグが使われていたという問題だ。本来は産廃である有害なスラグを、リサイクルの名の下に建設資材として工事に使っているという実態がある。スラグが商品であるなら、鉄鋼メーカーはスラグを販売して収益を得ていなければならない。しかしメーカーが別の名目で販売額以上の費用を支払う「逆有償取引」を行えば、販売に見せかけて安い費用で処分することができる。

 逆有償取引であることが立証できれば、製品(商品)ではなく産廃と言えるだろう。また、スラグを道路の基盤材などに使用するためには、環境基準を下回っていなければならない。リサイクル偽装によって有害な産廃を工事に使用しているなら、違法行為としか思えない。刑事事件として実態を解明すべきことではなかろうか。

 黒木睦子さんが訴えられた日向製錬所の事例は鉄鋼スラグではなく非鉄金属のフェロニッケルスラグであるが、このスラグの取引でも同様の疑惑が浮かび上がってくる。つまり、逆有償取引をして有害なスラグを埋めたという疑惑だ。

 黒木さんのこちらやこちらの記事によると、日向製錬所は運搬会社サンアイにスラグを売ったと説明したそうだ。また、サンアイは日向製錬所から運搬費をもらっていると言ったそうだ。サンアイの社長は地権者がスラグを買っていると言っているが、それでは地権者はどう言っているのだろう?

 地権者の言い分は黒木さんが「それぞれの地権者の言い分」で書いている。それによると三人の地権者うち二人は買っていないと言っている。もう一人はグリーンサンドを買って、サンアイに施工を頼んだと言っているようだ。しかし施工費用について尋ねると二転三転しているようで信ぴょう性に疑問が残る。砂による造成は地震や土砂災害に対して弱いとしか思えない。それにも関わらず地権者が人工砂をわざわざ購入して山林を造成するのはとても不可解だ。

 これらのことから、日向製錬所はサンアイにスラグ代金以上の運搬費を支払い、地権者はタダで自分の土地に埋めさせたという疑惑が浮上してくる。これが事実であるなら逆有償取引になるし、明らかに商品ではなく産廃だ。黒木さんはゴミだと言っているが、その主張は正しいということになる。

 有害性に関しても黒木さんが沈殿池の水を採取して検査した結果から、有害なスラグを埋めた可能性が高い。黒木さんの検査が信頼できないなどと言っている人もいるようだが、私には黒木さんの検査を否定する根拠は何もない。

 スラグを使った工事の許認可を出す行政は、本来なら造成に使ったスラグの検査をして有害物質が含まれていないかどうか確認する責任がある。しかし、宮崎県は検査をしていないという。つまり製錬所のグリーンサンドの検査結果をそのまま認め、有価物だから検査しないと言っているのだ。しかし、上記の毎日新聞の記事にもあるように、許認可に関わっている行政の責任はきわめて大きい。黒木さんが知事に説明を求めるのも当然の行為だ。

 日向製錬所はグリーンサンドが無害であり製品だとしている。しかし、「無害な製品」が本当に埋め立てに使われたのだろうか? 製品とするには粒径などが規格に適合していなければならない。さらに、有害物質を除去しなければならない。そのためにはかなりの経費がかかるだろう。だとしたら、安価で売ることはできないだろう。しかも、粒径などで規格に合わないものが必ず出るが、それらの処分はどうしているのだろう? こういうことを考えるなら、製品として規格に適合したグリーンサンドだけを資材として出荷しているとは考えにくく、実際に工事に使っているのは有害なスラグである可能性が高いのではなかろうか。

 以前の記事で、これは公害問題であり公共性、公益性があるので黒木さんのブログが名誉毀損には当たらないと私は書いた。この意見は今も変わらないが、名誉毀損における「真実性・真実相当性」を主張するに当たり、逆有償取引の有無や、埋め立てに使われたスラグが有害性も含め規格に適合した製品であるか否かといった点は重要なポイントになると思う。

 これを証明するには、被告が裁判長に求釈明を行い、原告らの取引関係の書類を提出させる必要がありそうだ。地権者の証言も有効だろう。しかし原告側が取引書類の捏造をしたり、製錬所とサンアイ、地権者が口裏合わせをする可能性も否定できない。となると、当事者と裁判所の立ち合いのもとで現場に埋められたスラグを掘りだし、規格に適合した製品であるかどうか検査するという方法が確実だ。裁判所が原告に対してこうした指示をすることができるのかどうか私には分からないが、埋められた現物こそもっとも確実な証拠である。

 ところで、黒木さんの裁判は、黒木さんがブログに関係者の名刺や顔写真を掲載したことによる名誉毀損であり、また抗議行動での業務妨害だと主張している人がいる。しかし、名刺や顔写真の掲載なら名誉毀損ではなくプライバシーの侵害になるのではなかろうか(ただし責任者の職場の名刺がプライバシー侵害になるとは思えないが)。また、それらは会社が訴えることではなく当事者個人が訴えるべきことだ。

 妨害行動については訴状の内容や黒木さんの主張が分からないので何とも言えない。しかし、グリーンサンドを販売したり運搬している会社は、工事について地域住民に十分な説明をして同意を得るべきだ。仮に黒木さんの行為に行き過ぎがあったとしても、刑事事件になっているわけではない。業務妨害と言えるかどうかは、産廃の不法投棄疑惑のことも含め全体の流れの中で判断することではないかと思う。全体的な流れを見たなら、この裁判は名誉毀損と業務妨害を名目にしたスラップではないかというのが私の理解だ。

 有害スラグの埋め立て工事は、全国で行われているようだ。これをそのまま放置していたら河川や地下水などの環境汚染につながる。地域住民が行動を起こしていかないと、取り返しのつかないことになるだろう。