■ 第18話 新たに玉座に座る者
街道の途中で、ユンを護送してきたはずの官軍の武士たちが、ユンに刃を向ける。
「お前たちは、かっての王をこのような場所で殺そうとするのか。」
しかし、ほどなく、二分し、斬りあいを始める武士たち。よく見ると、ヘリョンの手の者がユンを守っている。
「中殿様の指示で参りました。」
さすが、ヘリョン!あら、とうとう、ヘリョンを褒めるようになっちゃった(笑)
「皆、控えよ。お前たちが崇拝すべきは誰だ? この国の王か、それとも 地下に住む吸血鬼か。今、私は王の立場にない。よって、命令を出すことはできぬ。しかしながら、民のためを思う気持ちに変わりはない。お前たちが殺し合いをする必要などないのだ。てぶらで、クィのもとには帰れないだろう。逃げるがよい。しかし、私とともに戦う意思のあるものは、剣を持ち、ついてまいれ。」
「王様、死ぬ罪を犯しました。領相を恐れるあまり、王様にたてつくなど、あってはならないことでした。どうか殺してください。」詫びる兵士たち。
「私には、それを命ずる立場にない。私こそ、国と民に対し、許されない罪を犯したのだ。私は、私の贖罪のために戦いをいどむのだ。」
剣を置き、ひざまずく兵士たち。
クィはユンを流刑に処し、重臣たちの前で自分が王だと宣言する。
一方、ソンヨルは無事に目を覚ますが、狂暴化していた間の記憶は失われていた。
ヤンソンと初めてあった日のことや、ミョンヒと同じように自分の犠牲となって死んでいくヤンソン、クィがいつのまにか「黒ソンヨル」に変わっていたり、すべては夢の中の出来事だった。
「覚えていらっしゃらないのですか?」
「お前を救おうと、地下宮殿に行ったことは覚えている」
なにかがおかしい・・・自分の身に起きている違和感に、不安を感じるソンヨル。
~地下宮殿~
「嘆願書は読むべきものであって、踏みつけるものではありません」
「どれもこれもくだらぬことばかりだ」
高官達が父と一緒になにかをたくらんでいるようだ、と知らせにきたヘリョン。
ふふ、私欲で蓄えた銀を供出しろ、と命じたから、焦っているのだろうと、小ばかにしたような態度に、彼らの一声で民が武装蜂起することも可能なのだ、と忠告する。
「国政について、ずいぶん 知ったような口をきくな」
「あまり、人間を見くびらないほうがよろしいです。彼らは、自分の支配者を選べませんが、一度、敬わないと決めたら、そこまでです。」
「俺を心配しているのか。それとも、お前自身のことを言っているのか。そのとおり、俺は人間を見下している。だが、人間がいかに弱く、邪な存在だということが じきにお前にもわかるだろう。少し出てくる」
ソンヨルが目覚めたことを話し合うホジン、スヒャン、ヤンソンの3人。記憶がなかった時のことは、伝えないように示し合せる。だが、吸血鬼となった姿を街の人々に目撃されていることを心配するスヒャン。
「どういうことだ」ヤンソンに確認するソンヨル。
「この傷はどうして負ったのだ?」ソンヨルは彼女の鎖骨あたりの傷に気づき、おぼろげながら、「黒ソンヨル」の言葉が脳裏に蘇る。
「確認する必要がある」
町に出て、人々が、自分のことを吸血鬼だと知っていて、なおかつ、その姿におびえる様子に戸惑うソンヨル。断片的に戻ってくる記憶が、ソンヨルを苦しめる。
実際、クィは国中に吸血鬼を放って民を襲わせ、自ら退治に向かう。
民はクィを救世主と崇め、王と認め始め、逆にソンヨルのことを宮殿に棲む吸血鬼だと誤解して恐れるようになる。
宮殿にやってくるソンヨル。
「来たか、キム・ソンヨル」
「なぜ、お前が玉座に座っている?お前ごときが座れる場所ではない」
「ならば、ここから引きずりおろしてみるか?あの子をかみ殺して、力を得れば、できないこともなかろう。そうすれば、俺よりもさらに残忍な鬼が この玉座に座ることになるな」
「世界中がお前の死を願っている。お前も俺も、ここで生きていてはいけない存在だ」
「いや、俺たちは、人間を狩って 永遠の命をながらえるのだ。」
「話にならない。真剣にお前に従おうとするものはいない。」
「そこまで言うのは、俺がお前の恋人を殺したからか。それとも、多くの民を殺したからか? では、おまえが無実だといえるか?お前も、人間の血なしでは生きられないのに?今、民は お前に恐怖を感じているようだがな。」
自分の意志に反し、狂暴化した事実を受け入れられないソンヨルを追いつめる。反論できず、フラフラと出ていくソンヨル。
クィを地下宮殿で待っているヘリョン。
キム・ソンヨルがきたぞ。どうやら、奴は俺を倒す気力を失っているようだな。
そんなに簡単にあきらめるような方にはみえませんでしたが。
彼には守らなければならないものがたくさんあるからな。お前もそうだろう。人は、愛情をもつと弱くなるようだからな。
それが人の強さにもなるのです。
先王ヒョンジョやヘリョンが口にする「人間の強さ」という意味を、まだ理解できていないクィ。
旦那様があの日のことを思い出されたらどうなるのだ、と不安になるホジン。おそらく、恐怖をお感じになられるはず、今まで人間の心を失わないように、懸命に務めてこられた方だから、と心配するスヒャン。
屋敷に戻ってくるソンヨル。
「ペク・イノ殿はどうなった?」
「それが・・・、皇宮の門でヤンソンを脱出させようとした際、亡くなられました。」
自分がイノを殺めたのではないのか、と本気で心配するソンヨルに対し、ホジンは必死に、そうではありません、警備のものが・・と否定する。
「本当のことを言いなさい」
ホジンの言ってることは本当だ、とスヒャンも続けて説明しているところに、ヤンソンがやってくる。
「彼は、私を助けようとして亡くなったのです。学士様のせいではありません。これが、先生の身に着けられていた形見です。」
「私なら 彼を助けられたのに、おそらく彼のことをわからなかったんだろう。お前の血を取り込んだのは、害でしかなかった。」
「学士様の責任ではありません」
「秘策のことは、いったん、中断する」
息をのむヤンソンとスヒャン。自室にこもってしまうソンヨル。
黒衣団のアジトでは、クィが新しい王として戴冠したことや、吸血鬼が町で人を襲ったという噂が蔓延していることなどが ユンに報告される。
「民が恐れていることを、キム・ソンヨルは知っているのか?確かめなければ・・・」
何日も自室から出てこないソンヨル。
ソンヨルの部屋に入ろうとするホジンをひきとめ、あなたが行くべきだわ、とヤンソンをソンヨルのもとに送るスヒャン。
「学士様、1、2、3、4、5 私が覚えてるだけでこんなにありますね」
「突然、何のことを言っている?」
「私が学士様に命を救われた回数です。私だけではなく、多くの人があなたに救われたはず。」
「だが、罪のない人を襲うようになれば、それにどんな意味があるのだ。自分で制御できなくなったとき、どれほどの人に害を及ぼすか、見当もつかない。私は いつでも人間を殺せる獣なのだ。それが私だ。」
後ろから、ソンヨルを抱きしめるヤンソン。
「学士様は絶対にそんなことされません。見てください。今のあなたは、私の知っている学士様です。あのときは、私をクィから守るために、我を忘れるほどの多くの力が必要だっただけです。」
その言葉に少し、救われるソンヨル。ヤンソンと見つめあう。
そこへ、ホジンがバツが悪そうに入ってくる。
「お邪魔して申し訳ありません。あの・・・陛下がお越しになりました。」
ソンヨルに会いに来たユンは、部屋に向かう途中で、スヒャンに会い、彼女はかつてはクィのものだったかもしれないが、いまは、私のものだ、と宣言する。
秘策として、ヤンソンの血を自分に取り入れれば、クィを倒すほどの力は得られるが、犠牲も大きいと実感したソンヨル。
「一旦、秘策については忘れて、とにかく、クィに、吸血鬼にされた者が、各地で罪もない人たちを襲っている。それをなんとかしなければ。」
「私が、民にしたことをご存じですか?」
「その後のことも、自分でやったというのか?」
「正確に覚えていないことが問題なのです。クィのような化け物にならないと言い切れない。」
「馬鹿なことをいってはいけない。私が知っているキム・ソンヨルは無実だ。誰一人として危害を与えたりできない。そなたは、クィとは違う。」
「どこが違うのか、わからなくなりました」
「自分を信じるのだ。今、人々を襲う吸血鬼をクィが倒している。」
「それは、クィが自作自演しているとおっしゃっているのですか」
「人々は無知ではないが、クィは恐怖を利用する。誰が黒幕なのか、正確な事実を知らずして、どうやって 真の敵と戦えるのだ?」
ユンは苦悩するソンヨルを励まし、自分も黒衣団と共にクィと戦うと告げる。
改めて、ユンと話をするヤンソン。
「ジナ、そなたに何と言って謝罪すればいいのかわからない」
「私もしばらくの間は、殿下を許せませんでした。でも、もうそんなことはありません」
「私は、民を救うために、キム・ソンヨルとそなたの助けを必要としている。しかし、そなたを犠牲にするくらいなら、その選択はしない。」
「学士様は、クィのようになってしまうことを恐れていらっしゃるのです。私のせいで、気力を失ってしまったのではないかと・・・。」
「私は、そうは思わない。守るべき人をもっていると、人は強くなれる。それを そなたとキム・ソンヨルから学んだのだ。」
微笑むヤンソン。少しずつ、ユンが大人になってきたようで、うれしいです。
書庫にやってくるソンヨル。
「自分の考えを整理するために、本でも読もうかとおもったのだが、そなたは何をしている?」
「私は、これでも 2冊も本を書いた作家なんですよ。」
ヤンソンは、恐怖のために正しいことが見えないでいる民の誤解を解くため、小説の執筆を再開する。
そして・・・すぐ寝る(笑)
そのまま、離れようとするが、ヤンソンの描きかけの物語を目にする。
寝所に運ぶソンヨル。自分のことが「超絶美化された物語」を読む。
夜士は、恋人と慕う者の血を飲み、一度は理性を失ったが、すぐに正気を取り戻し、改めて、クィとの戦いをつづけた。人々は、はじめは、自分たちを救いに来た夜士を、クィと同様の吸血鬼だと思い、恐れたが、やがて 彼が何のために戦っているのか、その真意を知るところとなる。
「私も、お前の物語に出てくる夜士になりたいものだ。」
自作自演しようとして、放っていた吸血鬼が、すでに誰かにやられていたと知るクィ。
「王様(←クィのことです) なぜ、遅くこられたのですか? 今日は、黒いマントの男と、学士が来て、助けてくれました。」
それを聞き、目撃者を殺すクィ。
「たまたま、今回は近くで起きたので、救えたが、これからもこんなことが起こるのか」
「続けて行くしかないでしょう」
「学者様 いらっしゃいますか?」
ソンヨルの机の上の「夜学士伝」に気づき、ソンヨルがそれを読んだことを知るヤンソン。
町では、クィの評判があがり、ソンヨルが悪者扱いだと嘆くホジン。一番辛いのは、ソンヨル自身なのに、彼なりに今、できることを続けているのだから、あまり騒ぎ立てないように、と言い聞かせるスヒャン。
「微力ながら、私も学士様のお手伝いしたいと思います。これは、『夜学士伝』の最新作の原稿です。みんな、これを読みたがっているはずです。」
「我々は、資金は十分に持っています。たくさん 複写させて、皆に読んでもらいましょう。」
はりきるホジン。クィに殺された冊契の家を回る。お金などいらない、全面的に協力を申し出る冊契の家族たち。徐々に広まる「夜学士伝」。
吸血鬼化した者たちと戦い、疲れ切ってしまうユンとソンヨル。
興奮状態に陥ったソンヨルを、吸血鬼だと恐れる民。
「この方は、夜学士様ですよ。」
少女に助け起こされるソンヨル。
★第19話に続く★
人間の心だけは失わない、と固く決意して、120年もの時を過ごしてきたソンヨルにとって、
一番避けたかった事態。
自分がコントロールできなかったということを知ってしまうこと。
苦悩するソンヨルが不憫でした。
そんなソンヨルの耐えがたい思いを理解するスヒャン、ホジン、ヤンソンだけでなく、ユンもまた、今は自分にできることで ソンヨルを助け、クィを倒そうとします。
そのことが、少しずつ、ソンヨルの心を戻していくことにもなっていきます。
特に、『夜士伝』の働きは大きかったようです。ソンヨルを愛しているヤンソンの筆です。人々に、想いが伝わらないはずがない。
民の心を操るクィの狡猾さも、ソンヨルとユンの前に、少しずつ、ほころびを生じてきました。
ソンヨルが救ってきた命が、ソンヨルを救う。
まさに、情けは人のためならず。
クィの(ちゃんとした)王様姿も、かなりイケてます。