某嬢の出所祝いと云う事で彼女と食事へ行った。其の帰り道、ラーメン「神座」の前を通った。以前この場所には「スカラ座」と云う名曲喫茶が在った。其の店の事を思い出したので、彼女に「ここに喫茶店があったの知ってる?」と聴いてみた。しかし、彼女は知らないと言う。まあ、当然か。店が在ったのは彼女がまだ中高生の頃だ。

私は何度かスカラ座へ行った事が有る。ツタの生茂った怪しげな洋館。新宿歌舞伎町のど真ん中に在るのに客は何時も少ない。店内に入って直ぐ目を引く豪華なシャンデリア。ロボットの様に無表情なメイド服の店員。この異様な雰囲気が好きだった。しかし、2002年の大晦日、老朽化の為に閉店となる。此の店は50年近くも歌舞伎町の様子を見続けていたのだ。

閉店の事を偶然に知り、仕事帰りに同僚の女の子と最終日に来店した。店は普段とは違って異様に込んでいた。テレビカメラまで来ていた。何時もは無表情な店員がみんな笑顔だった。最後の華々しさが余計に寂しさを誘った。

今は、新宿西口地下に「新宿 スカラ座」として店はある。しかし、普通の喫茶店だ。あの空間、雰囲気を2度と味わえないと思うと未だに寂しさを感じる。「金が有ったら俺が買い取ってたよ」と馬鹿な事を考えたりもする。其の位好きな店だった。