福島県の小児甲状腺がん患者の増加と放射性ヨウ素131放射能汚染を考える | 福島原発事故★自主避難者として生きる

福島原発事故★自主避難者として生きる

福島原発事故の原因や汚染の現状、放射能や放射線の健康被害や影響。避難は必要か?など福島原発事故を判断する材料になる資料を集めました。

2012年9月11日福島県は、県民健康管理調査の検討委員会(座長は山下俊一福島県立医科大学副学長)で、甲状腺の検査をした子供のうち1人が甲状腺がんだったことを発表しました。


福島県の子供達の甲状腺の検査は、まだ始まったばかりです。対象者は、2011年3月11日時点で0歳~18歳だった者(約360,000人)で、2012年9月11日現在、検査対象の22%約80,000人の一次検査が完了しただけです。


この一次検査が完了した80,000人のうち、0.5%にあたる425人が二次検査(精密検査)が必要とされ、二次検査(精密検査)が必要な425人のうち、精密検査が実施されたのはまだ60人、このうちの1人が甲状腺がんだったということです。


甲状腺がんの子供が見つかったことについて、調査担当の福島県立医科大学の鈴木真一教授は


チェルノブイリでも甲状腺がんは最短4年。福島では広島、長崎のような外部被爆や、チェルノブイリのような内部被曝も起きていない


と話し放射能との因果関係を否定しました。この見解を構成する2つの文章についてそれぞれ考察してみようと思います。


【1】チェルノブイリでも甲状腺がんは最短4年


福島県立医科大学の鈴木真一教授がこの根拠としていると思われる資料は、山下俊一福島県立医科大学副学長がまとめた「チェルノブイリ原発事故と甲状腺がん※1」に登場する3枚目のスライドです。そのスライドは、チェルノブイリ原発事故の汚染地帯にあるベラルーシ共和国の資料で、10万人あたり何人が甲状腺がんの手術をうけたかが記録されています。この資料のうち、18歳以下の手術症例数だけ抜粋して表にしてみます(小数点以下は切り捨て)。


『ベラルーシ共和国10万人あたりの小児甲状腺がん手術数』


チェルノブイリ事故から小児甲状腺がん手術数
0年0人
1年0人
2年0人
3年0人
4年1人
5年2人
6年2人
7年3人
8年3人
9年4人
10年3人
11年3人
12年2人


なるほど確かに4年目から増えています。小児甲状腺がんは100万人に1人と言われていますので、10万人に1人になった時点で通常の10倍も患者が多いということになります。


もう一つ、山下俊一福島県立医科大学副学長の別の資料「チェルノブイリ原発事故後の健康問題※2」を見てみましょう。この資料はベラルーシ共和国のなかの、汚染のひどいゴメリ州の小児甲状腺がん患者数がわかります。上の表と比較するために同じように抜粋します。


『ベラルーシ共和国ゴメリ州の小児甲状腺がん登録数』


チェルノブイリ事故から小児甲状腺がん患者数
0年1人
1年 4人
2年 3人
3年 5人
4年15人
5年47人
6年35人
7年45人
8年56人
9年63人
10年57人
11年66人
12年52人


なんでチェルノブイリ原発事故から0年、最初の表ベラルーシ共和国全体で0人なのに、この表ベラルーシ共和国のゴメリ州の資料だと1人になるんだ。ヘンじゃないか、と思われるかと思いますが、上の表は比率でしかも小数点以下切り捨て、この表は実際の人間の数だからです。


チェルノブイリ原発事故の-1年前、1985年も小児甲状腺がんは1人でしたので、0年も平常として青く1人としました。


この表でも確かに4年目から小児甲状腺がんは、急増しています。しかし、1年、2年、3年を見て下さい。平常よりは増えているのです。数人は誤差の範囲と言われればそれまでですが、増えているのは事実です。


私個人的には、今の福島県はこのグレーゾーンの上にあるように思えてなりません。もちろん、日本全体で見れば上の表のように今のところ統計上わからないほどの小さな数字でしょうが。


【2】福島ではチェルノブイリのような内部被曝も起きていない


内部被曝は、(1)放射性物質があり、かつ(2)人間が体内に取り込むことで成立します。


(1)放射性物質はあった


国際的な尺度でいえば放射性物質が


京ベクレル(10,000,000,000,000,000)


外部に放出されれば、もっとも深刻な事故としてレベル7と判定されます。


2012年5月24日に東京電力が発表した放射性物質の大気中への放出量は102京ベクレルあり、レベル7の基準の100倍です。※3


今回は甲状腺がんとの関係で被曝を論じていますので、甲状腺がんの原因となる放射性ヨウ素、特に放射性ヨウ素131をピックアップします。福島第一原発事故で放射性ヨウ素131は、50京ベクレルと大気中への総放出量の半数をしめ、もちろん福島第一原発事故でもっともたくさん出た放射性核種です。


チェルノブイリのような…と鈴木真一教授が比較していますので放射性ヨウ素の放出量をチェルノブイリと福島とで比較してみます。


『放射性ヨウ素131、大気中への放出量』※4


福島第一原発事故チェルノブイリ原発事故
50京ベクレル176京ベクレル

放出量だけ比べると、福島第一原発事故の約3倍の放射性ヨウ素を、チェルノブイリ原発事故は出したことになり、チェルノブイリよりは、たいしたことがないようにも思えます。


しかし人口密度はどうでしょうか。ベラルーシ共和国、ウクライナ共和国と比較してみます。


『1平方キロメートルあたりに何人、人がいるか?』※5


日本ベラルーシウクライナ
339人50人39人

日本の人口密度は、ベラルーシの6.7倍、ウクライナの8.6倍あります。放出量がたとえチェルノブイリの1/3だったとしても、その6~8倍人口密度が高ければ油断できないのではないか?ということが見えてきました。


(2)人間が体内に取り込む


人口密度だけでは机上の空論になってしまいますので、具体的に福島第一原発事故当時、放射性ヨウ素がどのように拡散したかを映像で確認してみます。独立行政法人の海洋研究開発機構の滝川雅之氏らの放射性ヨウ素拡散シミレーションの一部です。



※再生を押しても画面が真っ白な場合には右下にある全画面表示を押すと閲覧できます。


この動画を見てわかることは、放射性ヨウ素が2012年3月11~15日の間に少なくとも福島県、茨城県、栃木県、群馬県に高濃度で飛来していたということです。


これらの地域で避難勧告が出ていたのは、福島県でも双葉郡や南相馬市など一部にすぎません。東日本大震災の影響のなかった地域ではほとんどの人が、放射性ヨウ素の危険性を知らずにいつも通りの日常をすごしていたのではないでしょうか。


つまり、人間がいたのです。


同じくこれらの地域で、放射性ヨウ素による放射線障害予防のための安定ヨウ素剤を全住民に配布したのは福島県の三春町だけです。この状況で放射性ヨウ素を体内に取り込まなかったと主張するほうがおかしいのではないでしょうか。※6


なお事故当時、南関東や東京に住んでいた子供達の甲状腺に結節や嚢胞が見つかったとの連絡をうけています。少なくともと上で留保したのはそのためです。


福島県より北については、情報が不足しているためわかりません。少し参考になるのが2011年9月21日に公表された文部科学省作成の「ヨウ素131の土壌濃度マップ」です。一部調査が福島県を越県しています。これを見ると少なくとも宮城県南部に放射性ヨウ素が飛来したことがわかります。それから紫の部分は、非可住地域をあらわすだけですから、放射性ヨウ素とは無関係です。※7


福島県からの★自主避難者として生きる-ヨウ素131の土壌濃度マップ


放射性ヨウ素の資料が少ないのは、半減期が8日と短いのと…なにより国の対応が遅かったためです。ですので、未成年の子供さんがいるご家庭でもし不安があるなら南関東や東京の人達がやったように定期的に甲状腺の検査をすることが安心材料です。


なお放射性ヨウ素による小児甲状腺がんの患者数を、チェルノブイリ原発事故当時何歳で被曝したか?で分類した資料※2がありますので、わかりやすく抜粋してこの記事を締めくくります。それから小児甲状腺がんは、治療法がある程度確立しています。過度に心配する必要はありません。


『ベラルーシ共和国ゴメリ州年齢別小児甲状腺がん登録13年分の合計』

事故当時の年齢患者数合計
17歳11人
16歳12人
15歳13人
14歳12人
13歳12人
12歳2人
11歳12人
10歳12人
9歳18人
8歳23人
7歳19人
6歳36人
5歳44人
4歳39人
3歳56人
2歳55人
1歳55人
0歳16人


※1「チェルノブイリ原発事故と甲状腺がん」と3枚目のスライド出典へのリンク


http://depts.washington.edu/epidem/Epi591/Spr09/Chernobyl%20Forum%20Article%20Cardis%20et%20al-1.pdf※リンク切れ

※2チェルノブイリ原発事故後の健康問題リンク先のページの一番下にある表2から抜粋。


※3チェルノブイリ原発事故、放射性ヨウ素131は176京ベクレル


http://www.oecd-nea.org/rp/chernobyl/c02.html


※4福島第一原発事故、放射性ヨウ素131は50京ベクレル


http://www.tepco.co.jp/cc/press/2012/1204619_1834.html


※5面倒くさいのでウィキペディアの数字そのまんま使いました。


※6福島県内の市町村のヨウ素剤への対応。三春町は配布していたヨウ素剤を独自の判断で3月15日13:00に服用指示。富岡町は3月12日希望者にヨウ素剤を配布。楢葉町、双葉町は配布はしたが詳細は不明。いわき市は、18日から順次配布したが服用指示はでなかった。http://www.minpo.jp/pub/topics/jishin2011/2012/03/post_3382.htmlhttp://www.minpo.jp/pub/topics/jishin2011/2012/03/post_3383.html


※7http://radioactivity.mext.go.jp/ja/contents/6000/5047/24/5600_0921.pdf