投資家対国家の紛争解決

 

 

実質的関税強化

ADMS事件

高果糖コーンシロップ(HFCS)を製造するアメリカ法人が、メキシコの砂糖以外の甘味料について課税措置が、砂糖事業者への優遇措置であるとして提訴した[12]。 仲裁廷は、NAFTA第1102条(内国民待遇違反)の「同様の状況の下」を意味を条約法に関するウィーン条約第31条に照らして通常の言葉で解釈したとし、HFCS事業と砂糖事業が「同様の状況の下」にあるとした]。 さらに、HFCSを生産するメキシコ系企業が存在せず、国内産品より高い税を課すことでメキシコの砂糖産業を保護する意図と効果があるとして、内国民待遇違反を認定した。

政府の契約違反

Azurix事件

米国企業Azurix社のアルゼンチン子会社ABA社が落札したアルゼンチンのブエノスアイレス州が実施した水道事業の民営化事業において州のコンセッション契約違反の訴えて提訴した[16][22]。 仲裁廷は、小売物価指数その他の理由による料金改定が契約で認められていたのに料金値上げを妨害したこと、水道事業の譲渡前に完了すべき工事を州が履行しなかったこと、州の義務不履行に起因する水道品質の低下をABA社に責任転嫁して料金の不払いを呼びかけたこと等を理由に[22]公正衡平待遇義務違反を認定したが、投資財産への影響が収用に相当する程度に至っていないとして収用違反は認定しなかった[16]

Vivendi事件

フランスのVivendi社の子会社CAA社が落札したアルゼンチンのトゥクマン州の上下水道の民営化事業において州と上下水道事業の州のコンセッション契約違反の訴えて提訴した[16]。 CAAのサービス開始後に水道水の濁りが発生し、CAAは濁りの除去に努め、住民に説明を行うなどの対応した。 トゥクマン州政府はCAAの行為を問題視していなかったが、政権交代後に態度を変え、健康上の問題は無いことを認識していたにもかかわらず、健康上の被害のおそれを表明したり、契約上既定の料金値上げを厳しく非難した。 仲裁廷は、トゥクマン州政府の行為は正当な規制的行為ではなく、違法な国家権力による行為であるとし、資金的存続性に破壊的な影響を与えたとして、トゥクマン州政府の収用違反を認定した[16]

少額賠償

Pope & Talbo事件

米国・カナダ協定によって軟材の輸出許可制がとられたことによって、輸出手数料が徴収されて損害を被ったとして、アメリカ法人が提訴した[12]。 仲裁廷は、内国民待遇違反や収用違反を認定せず、カナダ政府の再審査手続の不備によりアメリカ法人が不必要な支出を迫られたとして公正待遇義務違反のみを認定した[3]。 しかし、賠償額は約40万ドルしか認められず、これは仲裁費用(両当事者とも各約75万ドルずつ)と弁護費用(カナダ政府は約390万加ドル、企業側は不明)の合計よりも小さい[14]

却下事例

UPS事件

アメリカの宅配業者(UPS)が、カナダ関税法改正によってカナダの郵便事業が優遇されるとして提訴した[12]。 仲裁廷は、諸国における郵便事業と宅配業の認識の差等を根拠に両者が「同様の状況の下」にないとして内国民待遇違反はないと判断した[12]

Methanex事件

カリフォルニア州がガソリン添加剤MTBEの使用を禁止したことによって、原料となるメタノールを生産していたカナダ法人が添加剤ETBEの原料であるエタノールの生産事業者との差別を内国民待遇違反として提訴した[12]。 仲裁廷は、MTBE/ETBEとメタノール/エタノールの商品の違いを根拠として「同様の状況の下」にないとして内国民待遇違反はないと判断した[12]

Waste Management事件

Waste Management社の現地子会社Acaverdeがメキシコのアカプルコ市と締結した契約では、ゴミ収集サービスを排他的に行うこと、市がゴミ処理場を提供すること、アカプルコ市が毎月支払いをすること等を定めていたが、アカプルコ市が契約違反を行なったとして提訴した[16]。 仲裁廷は、収用に相当する政府による恣意的な介入が無い場合の事業の失敗を補償することは収用規定の機能ではない、投資協定はビジネス判断の誤りに対する保険ではないとしたうえで[16]、アカプルコ市の契約違反の背景にはアカプルコ市の責任だけでなくAcaverdeの事業見通しが楽観的すぎたことがあること、契約違反後もAcaverdeが顧客にサービスを提供し手数料を受け取ることができていたので投資財産(現地法人)の支配及び利用を失っていないこと等を理由として、Waste Management社の訴えを退けた[16]

Thunderbird事件

米国企業がメキシコでアーケード・ゲーム施設を建設・運営する事業計画を推進していたが、メキシコ政府がゲーム法違反を理由に事業許可を取り消したため、投資に損失が生じたとして提訴した[16][23]。 仲裁廷は、メキシコのゲーム法がギャンブルを禁止していること、当該ゲームにギャンブルの要素が含まれるにも関わらず会社がメキシコ政府にギャンブルの要素がないと説明したことによって許可を得たことを理由として、この許可が公正衡平待遇条項の「正当な期待」を構成しないとして、米国企業の訴えを退けた。