投資家対国家の紛争解決 

 

Tecmed事件

産業廃棄物処理施設の居住地からの最低距離要件を定める事後法を理由として、Tecmed社がメキシコに設立した子会社Cytrarの産業廃棄物処理事業の免許更新が拒否された件についての仲裁事例である[16]。 この法律は遡及効を持たない事後法であったが、Cytrarは、代替地での事業継続を条件として、費用の自己負担による移転に同意していたが、免許更新申請時には代替地は見つかっていなかった[16]。 仲裁廷は、正当な規制目的と投資財産の保護の均衡性(比例性)が取れていれば間接収用にはならないとしたうえで[16][17][18]、Cytrarの法令違反が軽微なものであったこと、住民による反対運動はCytrarに責任がない理由であること、Cytrarが移転および費用負担に同意していたこと、環境や公衆衛生上の危険が証明されていないこと、住民の反対運動が比較的小規模であったこと等を理由として[16]、許可更新を拒否するほどの正当な理由はなく、メキシコ政府の措置が環境保護目的に偽装した規制であるとして[16][17]、Tecmed社の訴えを認めた。

Etyl事件

カナダ連邦政府はガソリン燃料添加剤メチルシクロペンタジエニルマンガントリカルボニル(MMT)使用を禁止しようとしたが、その有害性を証明できず[† 3]に州政府との環境規制交渉が難航したため、連邦政府の専権事項である通商権限に基づいてMMTの輸入と州間の流通のみを規制した[19]。 1998年、カナダのMMT規制によりアメリカ法人Ethyl社が操業停止に追い込まれたとして提訴した[20]。 これと並行して、アルバータ州がカナダ国内の国内通商協定(Agreement on Internal Trade)[† 4]紛争処理手続を利用して提訴し、規制にあたって必要な協議が十分に尽くされなかったことや規制の目的と手段等の基準を満たすことを証明できなかったこと[14]から、カナダ国内裁判にて国内通商協定違反が認定され、カナダ連邦政府の規制が撤回された[19]。 これを受けて、カナダ政府は仲裁を取り下げてEthyl社に和解金を支払った[20]。 本件は、「投資家 vs. 国家」、「環境保護 vs. 貿易・投資の自由化」のような単純な図式ではないより多様な利害の交錯であり、アルバータ州が国内市場の自由化制度を利用して地域的な利害の実現を図ったものである[20]。 民主党金子洋一議員は、カナダ専門委員会でAgreement on Internal Trade違反として認定されたことによりカナダ連邦政府が失策を認めて和解したものなので、化学物質に対して十分な検討をせず規制を課すべきではない教訓と解釈するのが正しく、環境安全規制に対して法外な和解金をむしり取られたという表現はミスリーディングであるとしている[21]