DSM-5の姿を予想する (PD限定) その1 | 離婚訴訟おぼえがき : 境界性パーソナリティ障害(BPD)とDV冤罪の深い関係

離婚訴訟おぼえがき : 境界性パーソナリティ障害(BPD)とDV冤罪の深い関係

境界性パーソナリティ障害(Borderline Personality Disorder)と覚しき妻と「黒弁護士」から、事実無根のDV冤罪訴訟を提起されてしまった夫が、DV冤罪訴訟やBPD等についていろいろ書いていきます。

DSM は、ただいま19年ぶりの改訂作業中です。

次版となるDSM-5は2012/11/30には最終稿が公表され、2013/05/18に正式に発表される予定です。


I→IIが16年、II→IIIが12年、III→IVが14年、IV→5が19年だったことを考えると、次版の耐用年数は15~20年くらいになるのでしょうか。


現在の自分が置かれている状況からも、次版との付き合いは一番長く&深くなってしまいそうです。


自分は、本件騒動に関連して、2009年後半からDSM-IV-TRの Personality Disorder セクションを引きはじめ、2010年春以降は何度も繰り返し参照するようになりました。

ただ、なんとなくDSM-IV-TRの「ごちゃごちゃ感」になじめずにいたところ、2010年末に DSM-5.org と DSM-5 Draft を知りました。

DSM-5 Draft での Personality Disorder はかなり整理されていたので、DSM-IVよりわかりやすいな、と気に入ったこともあり、ちょこちょこと予習をしていました。


なお、Personality Disorder の Draft は2010/02から提示されていましたが、各方面からの意見を受けて2011/06/21に改訂されました。

この改訂は、自分の目から見ても非常に納得いくものだったのですが、いかんせん Proposed-Revision であって、抜け漏れが目に付く内容でした。

それ以来、次のRevisionがあるのかな、と待っていたんですが、2012/11/30の最終案まで残すところ半年になっても動きがない上、2012/05/01にはAPAから「Rationale for the Proposed Changes to the Personality Disorders Classification in DSM-5 変更内容の理論的根拠リスト」がダメ押し的に出ましたし、おそらくこのまま進むことになりそうです。

※現在、パブリックコメントの最終受付期間(6/15締め切り)ですが、あくまでパブリックコメントであって、有力な研究者や臨床家間での協議は完了済だと考えるべきでしょう。

実際、2011/07/07のAPAステートメントでも、
Underlying the work group’s recommendations are longitudinal studies and other clinical research since the early 1990s that have revealed the shortcomings of the current behavior-based criteria. Because behavior can be intermittent and changeable over time, the criteria can hindrance accurate diagnosis and even impede treatment.
とあるので、DSM-IVまでの「行動ベースの診断基準」がスクラップになる=Draft(2010/02)が基本線になることは鉄板でしょう。

また、DSM-5.orgトップページにおける注意書きも、
Among the other significant changes in this posting is a more extensive Personality Disorders rationale for change with the reliability of dimensional measures and the categorical diagnosis of Borderline Personality Disorder now supported by Field Trial data. However, additional data analysis in this area is ongoing.
と、BPDがらみの意見に関するデータ解析をしてる最中だよ(だから横やりを入れないでね)という内容ですので、Proposed-Revision(2011/06/21)以降にPersonality Disorder全域への影響がある意見提供はなさそうに思えます。


そんなこんなで、結局のところ、DSM-5 の Personality Disorder 部は、2011/06/21版にDraft(2010/02)版を継ぎ足した内容になるのでしょう。


で、「半年後には明らかになる&一年後には邦訳が出るものを今ごろ予想してどうなるんだ?」とも感じますが、まあ何かの座興にでもなればということで、拙訳・拙解をしてみようかなと思います。


※ある意味「超訳」ですのでご容赦ください(汗
※大ハズレだったら笑ってやってください(涙


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DSM-5における「パーソナリティ障害」の再定義
Changes to the Reformulation of Personality Disorders for DSM-5


1. 定義
The essential features of a personality disorder are impairments in personality (self and interpersonal) functioning and the presence of pathological personality traits.

パーソナリティ障害の本質的な特徴は、人格機能(自己と対人関係)の不全病理的性格の存在である。

※『人格機能が不完全であるために、病理的性格が出てくる』と解釈すると良いかと思います。



2. 人格機能
The levels of personality functioning are based on the severity of disturbances in self and interpersonal functioning. Impairments in self functioning are reflected in dimensions of identity and self-directedness. Interpersonal impairments consist of impairments in the capacities for empathy and intimacy.
人格機能は自己と対人機能の重症度に基づきレベル分けされる。自己機能の不全はアイデンティティと自律性に区分され、対人機能の不全は共感性と親密性の不全から成り立っている。


人格機能は「自己機能」「対人関係機能」の2つに区分され、それぞれ「アイデンティティ」「自律性」「共感性」「親密性」の領域から成り立っています。

この4領域は、下記のような指標に基づいて「健全=0」から「極度の障害=4」まで5段階にレベル分けされ、その組み合わせで病状の重さが示されることになります。


Personality-Functioning 人格機能
 Self-Functioning 自己機能
  Identity アイデンティティ
    一貫した自己意識の経験と明確な自他境界線
    安定的な自尊心と正確な自己評価
    自分の感情を納めるキャパシティ及び感情の調整能力

  Self-Direction 自律性
    短期的な目標と人生の信念とが首尾一貫していて有意義である
    建設的で有用な・社会的な倫理観に基づく行動
    自省的に自身を作っていく能力


 
Interpersonal-Functioning 対人関係機能
  Empathy 共感性
    他者の経験や動機の理解と共感
    異なる立場への寛容さ
    自分の行動が他者に与える影響を理解している

  Intimacy 親密性
    他者との深く長い好意的な関係
    親密さを求め・提供できる能力
    立場に応じた対人関係




なお、上述のレベル分けの例として、Empathy 共感性 が、レベル0~4にかけてどのように変化していくか(=この尺度に応じて病状の重さを把握します)」を示します。

レベル0(健全):
・ほとんどの状況で、他人の経験や動機を正しく理解することができている。
・例え反対の立場でも、相手の視点を理解し評価できている。
自分の行動が他人に与える効果を認識できている。

レベル1:
・相手を認めたり他人の経験を理解する能力が損なわれ、他人に対し過度の期待やコントロール欲求を持つ傾向がある。
・異なった視点を考慮し理解できる能力は持っているが、そうすることに抵抗感を感じる。
・自分の行動が他人に与える効果の認識が一貫しないことがある。

レベル2:
・他人の経験に同調できるが、自分が重要視する事柄に関連しているものだけ
・他者の経験や別の視点を理解する能力が著しく損なわれ、過度に自己参照している(=自分の見解を押し付けている)。
・自分の行動が他人に与える効果が理解できないか無関心、またはありえない理解をしている(嫌がっている→喜んでいる)。

レベル3:
他人の考え、感情や行動を考慮し理解する能力が著しく損なわれている。なお、他人の経験のうち、非常に限られた側面「脆弱性」「苦しみ」は把握することができる。
・別の視点があることを考慮できず、異なった意見や別の視点によって自分が脅かされていると感じる
・自分の行動が他人に与えるインパクトについて混乱しているか認識できていない。しばしば他者の考えと行動に当惑し、他者への誤解を元に破壊的な動機を持つことがある。

レベル4(極度の障害):
他人の経験や動機をまったく理解できない。
事実上存在しない他者の視点に捉われている(自身の利益と損害の回避に対する警戒心≒被害妄想的な)。
混乱し、方向を見失った対人行動



上記のような、『共感性(人格機能)が失われるにつれてこのような特質が出てくる』というモデルは、非常に納得感のあるものだと思います。

※例えば、アベレージ1で「変わった人」、2で「要治療」といった線引きになるんじゃないでしょうか。



※なお、自分は、ここで言うアイデンティティを「自身の立ち位置、自律性を「自身の進む方向」、共感性は「他者の立ち位置の理解」、親密性は「他者への接近・距離感」と再解釈しています。

これにより、「人格機能の不全」は、
 (1) 自身の立ち位置がわからない・間違っている
 (2) 自身の進む方向がわからない・間違っている
 (3) 他者の立ち位置がわからない・間違っている
 (4) 他者との距離感がわからない・間違っている
と定式化できそうです。


その次には、
「わからない」人格機能不全=病理的性格「否定的情動」「孤立」
「間違っている」人格機能不全=病理的性格「敵意」「衝動性」「強迫性」
というリンケージが見えてくるように感じます。



3. 病理的性格

Five broad personality trait domains (negative affectivity, detachment, antagonism, disinhibition vs. compulsivity, and psychoticism) are defined, as well as component trait facets (for example, impulsivity and rigid perfectionism).
病理的性格の特性を示す5つの領域(負の情動孤立敵意衝動性精神病質的傾向)は、それぞれを特徴づける要因(例:「衝動性」や「頑固な完全主義」など)とともに定義されている。 

※2011/06版では5つの領域にまとめられた上に要因も簡素化されてしまいましたが、あまりにもまとめすぎてしまったために、2010/02版(領域6つ、DSM-IVと共通の要因)への揺り戻しがありそうです。また、項目間のダブりの修正(白字)もあるはずです。


Negative Affectivity 否定的情動
(2010/02: Negative Emotionality 否定的感情)

・頻繁で激しい否定的な感情の経験
例:情緒不安定、不安、分離不安、固執性、服従性、過剰な感情表出、敵意、抑うつ、疑い深さ、自傷・自殺行動、悲観、低い自己評価、罪と恥の意識

Detachment 孤立
(2010/02: Introversion 内向性)
・人間関係・社会的関係からの逃避
例:感情表出の欠如、逃避、空虚感、親密さの回避、抑うつ、疑い深さ、引きこもり

Antagonism 敵意
・周囲の人たちと不和になるような言動
例:対人操作性、虚偽性、誇張・誇大、注目を集める、冷淡さ、敵意、自己中心性、攻撃性、反抗性

Disinhibition 衝動性
・後先を考えていないかのような衝動的な言動
例:無責任、衝動性、注意散漫、リスクテイク(無鉄砲)

Compulsivity 強迫性
(2011/06では「衝動性の逆概念」とされて込み込みになる)
・融通の利かない理想に従った考えや行動
例:完全主義、頑固さ、秩序志向、固執性、リスク回避(臆病)

Psychoticism 精神病質傾向
(2010/02: Schizotypy 統合失調性)
・普通でなく、奇妙な経験
例:普通でない信念や経験、風変わりな行動、認知と知覚の失調、意識の解離



4. 診断名
DSM-IV-TRでは、パーソナリティ障害の類型として12種類*1が定義されていましたが、DSM-5では6種類*2に整理されます。


*1 Cluster-A:妄想性、スキゾイド、統合失調型 Cluster-B:自己愛性、演技性、境界性、反社会性 Cluster-C:回避性、依存性、強迫性 Criteria sets and axes provided for Further study:抑うつ性、受動攻撃性

*2 統合失調型、自己愛性、境界性、反社会性、回避性、強迫性



ただし、パーソナリティ障害が6種類しかなくなるという話ではありません。むしろ、種類が無数になる(もしくは連続したスペクトルとなる)という話だと言えます。


DMS-5におけるパーソナリティ障害は、「人格機能の不全」のために「病理的性格が出ている」状態を指します。

従来の「○○性パーソナリティ障害」というような分類は、「5つないし6つの病理的性格のいずれが特徴的か」という判断基準によって行われることになります。


なお、この「病理的性格」についてもレベル分けがなされます。

これらの5ないし6領域それぞれにおいて、レベル0「全く・ほとんど当てはまらない」~レベル3「きわめて良く当てはまる」までの4段階にレベル分けされ、その組み合わせによって診断名を判断することになります。



現在のDSM-5で挙げられている6種類の診断名は、「よくある例」として例示されているのだと解されることになりそうです。

(診断名)   (特徴的な病理的性格)

統合失調型=精神病質的傾向・孤立
自己愛性 =敵意・衝動性の少なさ
境界性  =強い否定的情動・強い衝動性・敵意
反社会性 =強い敵意・強い衝動性
回避性  =孤立・否定的情動
強迫性  =強い強迫性(衝動性の逆)・否定的情動


一方、DSM-IV-TRにも挙げられている残り6種類も、以下のように特徴づけることができますし、「診断名が無くなる」という話にはならないように思われます。

妄想性  =精神病質的傾向・孤立・敵意・否定的情動
スキゾイド=強い孤立
演技性  =敵意・否定的情動・衝動性の少なさ
依存性  =強い否定的情動
抑うつ性 =否定的情動・孤立
受動攻撃性=敵意・否定的情動


それ以外の、既存の区分に入らないような珍しいパーソナリティ障害は、「Personality Disorder Trait Specified:PDTS」(特性指定済みのパーソナリティ障害)という味も素っ気もない分類に入れられます。

そういうものは、やはり「PDTS=衝動性:強 否定的情動:中、・・・・」といった逐語的記載になるのでしょうか。




5. 結論(個人的な)
世間的にパーソナリティ障害の定義がかなり明確化されるんじゃないかと思います。さらに、(例えば)2010/02版での定義が、

Personality disorders represent the failure to develop a sense of self-identity and the capacity for interpersonal functioning that are adaptive in the context of the individual’s cultural norms and expectations.

『パーソナリティ障害は、個人の属する文化的規範から期待される自己同一性の感覚と対人関係機能の発達不全に代表される(疾患である)』

であったことから、今後はかなり「発達障害」*3的なニュアンスをもって議論されるのではないかと予想しています。

*3 事前に充分な情報提供と鑑別を行い、「発達障害」との混用を避ける必要があります。




これにより、真の病因である『自我の確立が未熟か誤っている』『対人関係の発達が未熟か誤っている』が明確となる上、「○○性だ」「○○性かも」という当てはめや性格テスト的な断定は無くなりそうに感じます。
(なお、今回のDSM-5による再定式化で、新たな「○○性」の発明や提案は不要になりました)


ただ、一般的な場所や臨床の場で「衝動性:強 否定的情動:強、・・・」と逐語的表現で病態を説明するのはあまりに煩雑で解りにくいですし、DSM-IV-TRでの表現が残るんじゃないかと思います。


例えば、

「境界性」=衝動性+否定的情動+敵意 を前提として、

「境界性」-衝動性         =「演技性」
「境界性」-衝動性-否定的情動   =「自己愛性」
「境界性」-衝動性      -敵意=「依存性」
「境界性」衝動性-否定的情動敵意=「反社会性」

という定式化ができるため、病態が良く知られた「境界性」を基準に考える人が多くなりそうです。

このため、結局のところは、一番メジャーな境界性パーソナリティ障害を軸にして、「○○傾向の境界性パーソナリティ障害:重症度=大」といった表現がポピュラーになるんじゃないかなと思います。


※我田引水的ですが;
上記のような定式化は、自分の仮説として(以前(03/09)のエントリで)、DSM-IV的な解釈を元にした上記5種のPD「対人関係:独立的/従属的」「行動パターン:積極的/消極的」2軸を置いた平面上にプロットしてみた件とも上手く合致しそうに思います。

離婚訴訟おぼえがき : 境界性パーソナリティ障害(BPD・ボーダー) と DV冤罪(でっちあげ・逆DV)の深い関係-20110309_1




6. 診断基準の例
DSM-5の2011/06/21版 における境界性パーソナリティ障害の診断基準はこんな感じになります。

これまでのものよりだいぶスッキリしたように思いませんか?

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A. 人格機能の不全
 1. 自己機能の不全(aまたはb)
  a. アイデンティティ:
    著しく未発達で不安定な自己イメージ
    しばしば生じる過剰な自己嫌悪の感情と結び付けられた慢性的で空虚な感情
    ストレス下での解離性症状

  b. 自律性:
    不安定な信念、抱負、価値観、キャリアプラン等

 2. 対人関係機能の不全(aまたはb)
  a. 共感性:
   他者の感情やニーズを感じ取る能力の不足
    (他者軽視や侮辱と解されるような)
    欠点や弱点に偏った他者像

  b. 親密性:
    現実に、または想像の中で見捨てられることへの不安から、
    しがみつきと遠ざかりが交互に訪れ、
    理想化とこき下ろしの両極端を揺れ動く、
    不安定で激しい対人関係



B. 以下の各領域における病理的性格特性
 1. 否定的情動
  a. 情緒不安定:
    不安定な感情の経験と頻繁なムードチェンジ
    出来事や状況により惹起される激しい興奮の感情

  b. 不安:
    しばしば生じる対人ストレス起因の神経質・緊張・パニック性の激しい感情
    過去の不快な記憶に基づく将来への不安・おびえ・不確実感
    (現状からの転落やコントロール喪失の恐怖)

  c. 分離不安:
    親密な相手への過度の依存
    相手からの拒絶や分離による自律性喪失への恐怖

  d. 抑うつ:
    頻繁に生じるみじめで絶望的な回復しづらい感情
    悲観的で全般的な恥や自己否定の感情
    希死念慮や自殺関連行動

 2. 衝動性
  a. 衝動性:
    気分反応性による瞬間的な行動化
    後先のことを考えていないような予測できない行動
    精神的苦痛を感じたときの自傷行為

  b. リスクテイク:
    不用意な危険への接近や自信を傷つけうる危ない行動
    自分の限界や安全に対する関心の欠如

 3. 敵対心
  a. 敵愾心:
    些細な悪口や批判に対して惹起される、常時または頻繁な怒りの感情


C. この人格機能の不全と病理的性格は、長期にわたり安定的で一貫している。

D. この人格機能の不全と病理的性格は、個人の発達段階に見られるあり方や、文化的・社会的規範として理解される様式から著しく逸脱している。

E. この人格機能の不全と病理的性格は、物質(例:乱用薬物、投薬)または一般身体疾患(例:頭部外傷)の直接的な生理学的作用によるものではない。


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以上です。
(とりあえずこれにて終わります)

本シリーズ次回予告:DSM-5以降の治療を妄想する(パーソナリティ障害限定)