動物の教師なしの学習アルゴリズムとして有名なのが、コホネンの自己組織化マップである。初期状態では、脳の知覚野はランダムに配置されていても、外界から継続的に刺激を受けるうちにうまく順応していく様子もよく説明している。このアルゴリズムは、画像解析や音声認識、データマイニングなどにも活用されているそうだ。
 このアルゴリズムは簡潔である。
Mi(t+1)=Mi(t)+Hci(t)[X(t)-Mi(t)]
時刻tにおける神経細胞iの情報処理能力をMi(t)、外界からの刺激をX(t)、といずれもn次元ベクトルである。近傍関数Hci(t)=Nc(t)α(t)、でNc(t)は近傍サイズ、α(t)は学習率係数でいずれも時間が進むにつれて小さくなる。ある時刻tで外界からの刺激ベクトルXに近い神経細胞ベクトルMほど、次の時刻t+1で刺激ベクトルにより近づく、時間が進むにつれてその近傍も近づき方も小さくなって絞られる、というアルゴリズムである。このアルゴリズムで、13次元の動物種別の属性データが、鳥と哺乳類、草食と肉食といった感じに2次元で位置づけられる。常識的な概念形成が、教師なしの簡潔なアルゴリズムで出来るという意味で超強力だ。アメーバや粘菌の捕食パターンもこのアルゴリズムで説明できるだろう。
 そうすると、認知から学習という過程は、量子論理から自己組織化マップという流れで説明できる。まず量子干渉を受けて連峰型になった確率分布で、極大値に近い細胞ほど量化信号を受容する。そうしてベクトル(運動量と位置)がある程度確定する。ここまでが量子論理。そして信号を強く受容した細胞ほど、受容したベクトルに自分のベクトルを近づけ、刺激が繰り返されるほど一層近づくという自己組織化マップで学習される。こうして行動パターンが確立される仕組みが分かる。
 また人間の認知バイアスも、この自己組織化マップで結構説明できる。直前に示された情報に判断が左右されやすい(大津波が来ると避難できないからマラソン大会を中止する)、相手の行動パターンをずっと一定だと考えがち(逆手にとると、最初は信用させて最後に騙し取る)、大事な情報をつい無視してしまう、選択肢を自分で狭めてしまう、といった習性である。最初の方に記述した式を見れば、こうした認知バイアスが働く方が実は無意識では当たり前になる。学習できたからこそ現に子孫まで存続できた。そして認知バイアスがあるから余計なことを考えたり迷ったりで停止状態にならずに済んだ。そんなことなんだろう。
 でも自己組織化マップだけで、ちゃんと合理的に考えて判断していないと、分かっていたのにどえらい失敗を招くことはいうまでもない。理由の後付けにすぎないにしても。