商法・会社法

平成16年問32-4

営業譲渡において譲受人が譲渡人の商号を続用する場合は、譲渡人の営業によって生じた債務については、譲受人は常に譲渡人と連帯してその弁済をしなければならない。

○か×か?



【解説】

営業譲渡の「営業」とは、営利活動のことです。
商法・会社法では、個人商人の営利活動を営業といい、法人(会社等)の営利活動を事業と言って区別しているようです。

まずハッキリさせておくべきなのは、営利活動(営業や事業)の譲渡と商号の譲渡は、そもそも別物でありリンクしていないということです。営利活動だけを譲渡することは、もちろん可能です。この場合、譲渡人の営利活動によって生じていた債務について、譲受人が連帯して弁済するということは普通ありえません。他人の債務を弁済する必要などないからです。(例外は、譲受人が譲渡人の債務を引き受けますよ、とわざわざ広告したときぐらいです。)

問題となるのは、それらの営業の譲渡とともに、商号まで譲渡した場合です。逆から言うと、譲受人が営業だけでなく商号まで譲り受けた場合です。
この場合、商号(名前)まで譲り受けているので、「他人の債務を弁済する必要などない」と割り切れなくなってしまうわけです。
譲渡についてなんの説明も受けていない第三者からすれば、同一の営業主体が存続しているものだと思われても仕方ないでしょう。

たとえば譲渡人(A商店の前店主)の債権者が、弁済期がきたのでA商店に借金の催促にいったところ、なぜかそこに新しい店主がおり、その新店主が「ああ、その借金ならうちと関係ありませんよ。あれは前店主が作った借金ですから、そっちに催促してください」と言われても、なかなか納得できないでしょう。

仕方なく前店主の家に催促に行ったところ、その前店主が夜逃げなどしてようものなら、「ふざけるな! 何の説明もないからA商店は(前店主のまま)ずっと存続しているもんだと思ってたんだ。そんな事情など知るもんか! お前が払え!」と新店主に言いたくもなるだろう。

そういうときの調整ための条文が商法17条です。

商法17条…① 営業を譲り受けた商人(譲受人)が譲渡人の商号を引き続き使用する場合には、その譲受人も、譲渡人の営業によって生じた債務を弁済する責任を負う。
② 前項の規定は、営業を譲渡した後、遅滞なく、譲受人が譲渡人の債務を弁済する責任を負わない旨を登記した場合には、適用しない。営業を譲渡した後、遅滞なく、譲受人及び譲渡人から第三者に対しその旨の通知をした場合において、その通知を受けた第三者についても、同様とする。

つまり、営業とともに商号を譲り受けた場合でも、
(1)譲受人が譲渡人の債務についてまったく払う意思が無い旨を登記した場合
(2)譲受人、譲渡人の双方から第三者に対し、「営業の譲渡がありましたからね(→商号は同じでも今後は別会社になりますから、借金は前店主に請求してくださいね)」と通知をした場合
―――には、ちゃんと説明したんだからグダグダ文句言うなよ、ということです。

結局、以下のようにまとめられるでしょう。
営業とともに商号まで譲り受けた場合 → 原則として譲受人も(譲渡人の債権者に対し)弁済責任を負う(ただし例外が2つある)
 
答 ×



《補足》
本肢のように、「常に………しなければならない(……である)」の文言があるときは、例外が一つでもあれば×になるわけですね。
例外が一つもないということは、無くはないが、極めて少ないので、この手の肢は×である可能性は高くなるでしょう。