あっという間に陽は沈み、あたりは真っ暗な闇に包まれた。


夜になると、今度はたくさんの亡霊たちが道のまわりに集まって、列の場所で口々に演説をはじめた。モグラたちはもう皆、道の傍の穴に潜ってしまって列には誰もいないというのに。亡霊たちはあいかわらず力説していたが、その声は小さく、草原を吹き抜ける風にかき消されて途切れがちだった。


ホリねずみレヴィの旅

ギルのネグラの中で、二人はたくさん語り合った。レヴィも自分の旅の目的を簡単に伝えたりはしたが、もっぱら話し手はギルのほうで、レヴィはうん、うんと頷きながら聞いているばかりだった。


ギルは一族の歴史を語る時ひときわ力が入った。彼はトウブモグラのかつての指導者の一族だった。行列を考案したのは彼の祖父だという。そのアイデアもまた、賢者デロイの知恵を仰いだものだった。デロイは祖父に、「留まるな、先駆者は森へと進め。」と言ったそうだ。ただそれだけを。

 

デロイは、世界を旅して真理を見つけた賢こいホリねずみだ。つまり彼はその時、繁栄を貪ったトウブモグラたちが、次に何をすべきか知っていたのだろう。けれどもデロイは、誰に対しても決して答えを教えることはないという。答えを見つけるヒントだけを与えるのだそうだ。



「それでオレのジィさんは考えたんだ。とにかく森へ行く。けれどただ進むだけでは今までと変わらない。オレたちは何でも一生懸命になって、何でも貪ってしまう。足踏みをしながらゆっくりと時間をかけることを選んだんだ。それに、そうすれば、体が鍛えられるし陽をあびることで、太陽にも強くなる。余計なことを考えない練習にもぴったりだ。」


「どうしてゆっくり進むのが良いことなの?」

「うん。詳しいことはオレにもよく分からん。ジィさんはそこまで言わずに死んじまったからな。いや、死んじまったというより、第一群として森の奥へ行ったっきりなんだがな。」


そういえば、この列はほとんど一生かけて森を目指すのだと最初に聞いていたのだった。だけど何よりも、考えない練習中のトウブモグラの中で、どうしてギルだけが沢山のことを考えているのか、それが知りたいレヴィだった。

ギルは簡単に答えてくれた。

「オレだって、時々はサボるけど並んでる間はちゃんと集中して、あ、つまり考えないでってことだが、真面目に足踏みしてるぜ。でもな、オレには他のヤツらと違って目的があるんだよ。」

「それは、どんな?」

「確かめることさ。」

「チビ、オマエはさっき、「言葉」を探す為の旅だと言っただろ? オレは意味を探している。そして意味を確かめるために。」


ギルは、足踏みや行列には、体を鍛えるといった単純な意味以上のもっと大事な意味があると信じているという。それに森という目的地にも意味がある筈だという。デロイが示したのだから。でも、今はそれが何なのかは分からない。長い行列を通じてしか分かり得ないものだろうと言っていた。そしてギルは、それがギルの「家族の言葉」だからとも言った。



ギルは久しぶりの喋り相手に満足したのか、そのうちにゴウゴウとイビキをかいて寝てしまった。


草原に昇った冷たい月が、青い薄雲に隠れたかと思ったらまた顔を出し、その度に穴の入口の輪郭を描き出していた。入口のシルエットを一人眺めながらレヴィは思っていた。ギルは「家族の言葉」に従っていたのだ。それはレヴィの家族が失ったものであり羨ましくなかったかといえば嘘になる。けれども、そのことを聞いたおかげで、レヴィはギルやトウブモグラたちの奇怪な行動を、これまでほど不可解に思わなくなった。



そして、幽霊は呟き、夜風は吠え、月は冷たく突き放すこの草原の真ん中で、ギルと出会えた自分の幸運に心から感謝した。レヴィは、まあるい自分の背中をギルの硬い背中の毛にぴったりとくっつけて安堵の眠りにおちていった。 (つづく)