空海―KU-KAI― 美しき王妃の謎 (妖猫伝) | 千紫万紅

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中国の文学、映画、ドラマなどの感想・考察を自由気ままにつづっているブログです。古代から現代まで、どの時代も大好きです。

 
日中共同製作の歴史ファンタジー映画。監督は陳凱歌。夢枕獏の「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」が原作となっている。
ストーリーは若き留学僧・空海と唐の詩人・白楽天による謎ときもの。都で不可解な事件に遭遇した二人は、その真相を追ううち事件の発端が三十年前に死んだ玄宗皇帝の妃・楊貴妃にあったことを知り……。
 
感想としては、陳凱歌も随分落ち着くべきところに落ち着いたなぁ、という感じ。こんな普通に面白いエンタメ作品を作れるようになったんだ。実に今風の、中国映画らしい中国映画だった。陳凱歌の作品って、そのまま現代中国映画の発展史を見せられているようで面白い。あの「黄色い大地」を撮っていた人とは思えないほど、感性が時代と一緒に変化している気がする。CGも凄く上手に使いこなしてるし。
中国映画の何が魅力か、と言われれば人それぞれ意見はあるんだろうけど、自分はまず「スケール感」だと思う。本作でも唐の描写でそれが存分に発揮されてる。王宮から妓楼から寺から屋敷に至るまで、とにかくデカい。絶対唐代には存在しなさそうな楼閣とか見せられると「嘘つけ!」と思ったりするんだけど、そこはやっぱ中国だから(ついでに舞台が夢の大王朝・唐だからというのもある)妙に納得させられてしまう。他にも宮中の書庫の描写とか、寺の無駄な階段の長さとか、あらゆるところに巨大さがある。こういうスケール感って、狭い島国の日本を舞台にしたら難しいし、かなわない部分だと思う。
 
あと、最近の中国映画やドラマにつきものだけど、本作も色づかいがひたすら派手。赤がまぶしい。中盤以降はファンタジックな描写も多いから、余計にそう感じた。映像美が凝縮された極楽の宴のシーンは本当に最高。冷静に考えたら何もかもおかしいんだけど、大仰に嘘をつくから、かえって説得力があるという不思議。これも昔の通俗小説から受け継がれてる中国エンタメの特徴だと思う。
ストーリーは半分勢いみたいなもんで、内容よりも要所のドラマチックな演出やどんでん返しを楽しむ作品。そもそもがファンタジーだし、史実うんちゃらは気にしない方がいい。一応、李白の靴ネタとか有名どころは盛り込まれてるので、中国史を知っていればより楽しめる。
 
邦題が空海になってるから誤解するけど、実際のところ彼は単なる狂言回しで、真の主役は原題の「妖猫伝」が示す通り猫ちゃんだったにゃあ。色んな歴史上の人物が登場するけど、それらも割とどうでもよくて、とりあえず猫が全ての作品だった。オープニングで控えめに「KUーKAI」の邦題が出た一分後、「妖猫伝」の原題がドデデンと現れたところで、全てを察してしまった。これは空海の映画じゃありません、猫映画なのです!と。
 
日中共同製作だけれど、本作は根っからの中国映画なので、普段中国映画を見ない日本人が見ても、あんまり楽しめないんじゃないかと思った。これを国内に売り込む日本人制作側は、色々苦労したに違いない。
 
以下、登場人物
空海
若き留学僧。本作の狂言回し。ミステリアスな雰囲気の中に時折見せる人間臭さが良い。しれっと「見聞を広げるため」妓楼にあがったりするなど、なかなかいいキャラしてる。なんか法術みたいなものを使うので、てっきりそっちの能力で事件を解決するのかと思ったらそんなことは無かった。いい意味で裏切られた感じ。
 
白楽天
唐代の著名な詩人。インテリを気取る割に色々俗っぽいが、史実の白楽天も大層な遊び人だし、意外とこんなもんなのかもしれない。この映画を見ると、とりあえず長恨歌が読みたくなるね!
 
楊貴妃
本作の鍵を握る人物。ふくよか美人で凄く楊貴妃らしさに溢れてる。演じてる女優さんはフランス人と中国人のハーフ。
 
阿倍仲麻呂
遣唐使。ぶっちゃけ、謎解きのために用意されたようなキャラ。それにしても、阿部寛が阿倍仲麻呂を演じたのって、ネタか何か? 日本人より胡人の役をやった方が似合ってた気がするぞ。
 
玄宗
唐の最盛期を生きた皇帝。もうちょっと枯れたビジュアルだった方がそれっぽかったかな。せこい悪役ぶりが良かった。
 
妖猫
本作の真の主役。正体は映画を見てのお楽しみ。