音楽偏遊

音楽偏遊

最近見たライブや気になるアーティスト、気に入った店や場所など偏った嗜好で紹介してまいります。アーティストさんへの言及などは、あくまで私個人の見解であり、特に中傷や攻撃を意図したものではないこと、ご了解下さい。

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バレンタインスペシャル『蘭華の恋するワンマンライブ♡』
出演:蘭華
サポート:坂本洋(ピアノ)、沈琳(二胡)、細田好弘(ギター)
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乗り込んだ電車はいつもより何割か かわいさを増量した女子たちでキラキラしていた。

4月並みの陽気に汗ばむバレンタインデー。ゆらゆら、ゆらゆらそこかしこに浮かぶハートが空気を暖めているようじゃないかラブラブラブラブラブラブ

案の定、連れと待ち合わせた正午前の渋谷駅は、まさにホットスポット。カップルが作り出す小さな熱気が数知れず渦巻き、束になり温度を上げている。

その中にふと爽やかな一抹の風が。見れば中学生か高校生とみられる2人。初々しくて、微笑ましい。いや羨ましい?あの頃に飛んで戻りたい(笑)

いや、僕の心はすでに飛んでいた。

「この日はいつもの私と違い、愛の歌をたっぷり歌いますドキドキ

僕らファンにきっぱり宣言していた「蘭華」のワンマンへ心は急ぐ。
会場は南青山のお洒落なライブハウス、MANDALAだ。

外苑前駅で下車。
わずか3分乗っただけだが、渋谷の喧噪が噓のように静かな休日の都会へ。
ぶらぶら外苑西通りを下っていくと、MANDALAが地下に入る建物が見えてきた。

ふと建物裏手の遊歩道を見やると人の連なりが。このライブハウス、人気の出演者だとこうして開場前に裏手に行列ができる。時計は12時10分、開場まであと20分。蘭華を愛する仲間たちの期待感がひしひしと伝わってくる。

列には顔見知りがちらほら。思ったより知らない人の比率が高い。あー、僕の知らない間に新しいファンが増えたんだなあと感慨ひとしお。




     太陽     太陽     太陽

快晴。蘭華は雨女じゃなかったのか?節目としてきたライブはいつも荒れてた。2014年11月29日の鎌倉建長寺法堂ライブは大雨雨2014年11月1日の鎌倉歐林洞ワンマンは暴風雨だった豪雨
その前の大きなワンマンといえば2012年3月24日の銀座BRB俳句ワンマンだが、天気はどうだったかちょっと覚えてないが… そんな訳で今日もきっと荒れると思っていたのに、予報通りの好天。天はついに彼女の苦に報いたか。

今回のバレンタインデーライブは、東京では2015年7月のメジャーデビュー後初のワンマン。キャンペーン続きだったため、しっかりしたライブは本当に久し振り。インストアライブで出会った人々も、これまでずっと応援してきたが最近ちゃんとしたライブを見られず歯がゆい思いをしてきたファンも、始めてがっつりメジャーの蘭華を聞ける貴重な機会だ。

それだけに、この日を待ちわびたファンが入り口前に列を作ったのだろう。12時30分の開場時には、外の遊歩道で30人超が蘭華のステージを待ちわびていた。

地下1階の入り口で受付を済ませ、さらに石造りの階段を降りると、天井の高い広い空間が待っていた。西洋の城の地下のような装飾。フロアと小さい段差で区分されたステージ上には、客席から見て左にグランドピアノ、右に演奏者用の椅子と譜面立てが2組あった。

この日のチケットは早々にSOLD OUT。そのため着席定員120席に加え、後から10席分の追加販売を実施した。客席はやや窮屈で、更にゲストが次々やってきたためライブ開演後も、通常は飲食カウンター前の空けているスペースに次々と席が追加されていく。いまの蘭華には、キャパ100程度ではもはや狭いことは明らかだ。

それでいながらお客さんは、いつもと比べなぜか静か。MANDALAで色々なアーティストのステージを見てきたが、客層が違うのだ。年齢高めの一人客が多い。蘭華とキャンペーンで出会った、あるいはラジオを聞いて好きになったファンだろうか。ざわつかず大人しく開演を待っている。こういうライブハウスは不慣れなのかもしれない。

ワクワク感を募らせながら、その時を待った。


    Piano    ♪    ♪    Piano       
     

暗転。

ベテラン坂本洋のピアノ前奏でステージが始まった。著名な二胡プレーヤー、沈琳の奏でるオリエンタルでどこか懐かしい弦の音色が心に沁みる。

そこに華やかな赤いドレスに細身の体を包んだ蘭華が、颯爽とステージに登場だ。

彼女が一番綺麗にみえるチャイナドレスでなく、ちょっと意外感。すぐ宣言通りの「愛のうた」を満載したステージを演出する、バレンタイン仕様の衣装なのだと納得。さあどんなラブソングを聴かせてくれるのだろう?

オープニング曲に彼女が選んだのは、高橋真梨子の「桃色吐息」のカバー。意表を突かれた。オリジナルでなく、高橋真梨子の1984年のヒット曲だ。その年に蘭華、生まれてたっけ??

強く美しいファルセット、悠久の時を思わせる伸び伸びとした歌唱、優しさと深みを合わせ持つ透明感あふれる声。その素晴らしい歌に酔いしれる。




ふと、さざなみのように客席に広がる戸惑いを感じた。
蘭華はどの分野の歌手なんだっけ?という戸惑いだ。

蘭華の歌は特定のジャンルに分類できない。
ファンの中には彼女を演歌歌手と思っている人も多い。歌謡曲の歌い手と認識する人もいる。僕はシンガーソングライターという受け止め方をしている。

ちらしなどには「J-POPと歌謡曲が融合した新しい形の歌謡ポップス誕生!!」と記される。
マネジャーの苦心が偲ばれる一文だ。彼女が昔から大好きだった古い昭和のうたや中国民謡などが彼女のなかで一つに融合し、昨今の類型化された楽曲と一線を画した歌を紡ぎ出しているからだ。

僕の戸惑いは、シンガーソングライターなのに大切なオープニングをオリジナルで飾らないの?という思い。演歌歌手と思う人は赤いドレスで高橋真梨子を歌う姿に惑ったのでは。歌謡曲歌手にしては彼女の歌い方はきれい過ぎて違和感を抱いた向きもあったろう。

蘭華は、かように人それぞれ受け止め方が違う。それがマーケティングの難しさにつながり、これまで日の目を見なかったのかもしれない。一方でこのユニークさ、唯一無二の存在であることが、彼女の価値なのだ。沢山の人がその価値に気づいてくれると嬉しいのだが。


    レコード   レコード    レコード     レコード


蘭華は2015年7月22日、「ねがいうた」と映画「海のふた」のテーマ曲「はじまり色」の両A面シングルでavex traxからメジャーデビューした女性シンガーソングライターだ。発売前から動き出した全国キャンペーンでは、沢山のレコード店やショッピングセンターを連日のように訪れ無料インストアライブを開催。各地のラジオ局にも出演するなど泥臭く営業を続けてきた。

飯能、大和、名古屋、横浜、大分、福岡、赤羽、東十条、錦糸町、巣鴨、大磯、成城学園、秋田、岐阜、島根、東久留米、和歌山、長崎、熊本、富山、福島、静岡、三重、茨城……ざっと数えてみたら、9月末までのわずか2カ月間に27回のインストアライブと、35回のテレビ・ラジオ番組に出演していた。ひぇー。

ごめんなさい。このキャンペーンの途中、一度も見に行きませんでした。個人的にはインストアライブ好きじゃないから、といつも申し開きしている。だけど改めて見返して、ファンを自認しておきながら彼女の労苦を少しも癒してあげることが出来なかったな、と歯がゆく思う。

睡眠時間1時間の日もあったという。ハードなスケジュールで全国を細かく歩き続けてきた彼女のがんばりは驚嘆だ。いつ見ても気合横溢、明るく朗らか、前向きで綺麗。厳しい営業の苦など微塵も感じさせない。どれだけ性根すえデビューキャンペーンに取り組んでいるのだろう。

プロになったんだなあ。
彼女のことはインディーズで無名の2010年ごろから見てきた。
長い長い苦汁の時を乗り越え、ようやくたどりついたデビューだと知っている。いま彼女がどれほど強く深い覚悟でこの大勝負に挑んでいるのか、多少なりとも推察できる。

そしてシングル発売した昨年7月度、「ねがいうた」はJ-POPジャンルで有線お問い合わせランキング10位にランクイン。続く8月には歌謡・演歌部門で10位。さらに9月も歌謡・演歌部門で9位をキープした。

有線によると同一曲が、「J-POP」と「歌謡・演歌」ランキングの両方にランクインした例は過去にないらしい。

彼女にジャンル分けは不要なのだ。オリエンタルであり、和の美を合わせ持ち、懐かしくもあり、普遍的でさえあるその音楽は、必ず沢山の人の心に響くだろう。

     カラオケ     カラオケ     カラオケ


「桃色吐息」を歌い終え、「こんにちわー、蘭華でーす」と挨拶。久しぶりの東京ワンマン。MANDALAは2010年に1度だけ企画ライブに出演しており素敵なライブハウスだと思っていたので、こうして単独公演できるなんて幸せ、素敵なミュージシャンがサポートしてくれてます、高橋真梨子は親が好きでよく…―――。

久々にステージから見る景色がテンションを上げたのか、お客さんを楽しませたいというサービス精神の発露か、たぶんその両方からどんどん話しかけ、客席とコミュニケーションを取っていく。基本、おしゃべり(笑)今日このステージを作り上げるために沢山のことを考え、様々な準備をしてきただけに話したい事が山のようにあり、湧き出してくるのだろう。

話しすぎたと思ったか、「最近は家族や故郷や恩人がテーマの歌が多いですが、実は私にも愛の歌があるんです」と引き締めて伴奏者に合図を送る。

2曲目、3曲目はオリジナルの「月」をテーマにした「揺れる月」と「花籠に月を入れて」を朗々と歌う。しみじみとしたバラードに、お客さんもしーんとして聞き入る。彼女の歌の世界が、ライブハウスの空気を優しく包んでいく。

この2曲はまさに恋愛がテーマ。音譜会いたくて会いたくて音譜と身を焦がす「揺れる月」。「濡れた首筋にくちづけした」「火照る体ごと連れ去って」といった詞がなまめかしく、引き込まれる。

二胡の艶やかな弦の前奏から始まる「花かごに月を入れて」は多分、道ならぬ恋のうた。それでも「あなたの帰る場所はここです。いつも、いつまでもあなたを待つ」と一途な女性の思いを歌い上げる。MCでは「花かご」は女性、「月」は男性を象徴しているとタイトルを説明。話しながら顔を赤らめた………となるほど子どもでないのも彼女の魅力だ(笑)

かつてのライブではよく歌っていた2曲。本日はたっぷり蘭華の楽曲を楽しめそうだと嬉しくなる。

彼女の愛の歌には「月」がテーマの佳作が多く、もう一曲「月」がモチーフで強い陰影を残す純愛を描いた「三日月の影」も大好きな曲だ。NHKBSドラマの主題歌にもなっている。今回は歌わなかったが。


ちなみに2010年8月30日、この南青山MANDALAのライブに蘭華はトップバッターで登場。
1)三日月の影、2)夢の途中、3)maama、4)蘇州夜曲、5)燕になりたい、6)ともしび、7)草原情歌の7曲を歌っていた。対バンは中村未来さんとTiny Sunの2組。この自分のブログに書いてあったw 蘭華のライブはこの時が2回目だった事を思い返す。あれから沢山、蘭華のステージを見てきたなあと感動ひとしお。

さらに脱線して自分のブログ読み返したら、初めて彼女を見たのがその5日前だった。2010年8月25日に代官山LOOPで催された「ともしび」というイベントで、見田村千晴、Ray、宝美(現BOMI)の3人と一緒だった。沢山の大きなキャンドルの炎がステージ上に揺らめく、幻想的な光景。懐かしいなあ。当時、蘭華は毎月開かれた「ともしび」のレギュラーで、僕も毎月彼女をこのイベントに聞きに通った。それから5年半、一人の歌手が山あり谷あり、苦難を乗り越えて、こうしてメジャーデビューに漕ぎ着けた課程を見守り続けられたことの幸せを感じる。

さらにちなみに、この日対バンだった見田村千晴は2013年9月にビクターエンタテインメントからメジャーデビュー。宝美はBOMIとして2012年6月に日本コロンビアからやはりメジャーデビューしている。出演者のクオリティが高いイベントで、LOOPのブッキングマネジャーの音楽通ぶりが伺え、敬意を表したくなる。この3人のデビュー、それぞれドラマがあったが、蘭華の物語が一番ドラマティックなのは間違いない。だから、知れば知るほど蘭華に引き込まれるのだ。

閑話休題。


     五線譜     五線譜     五線譜     五線譜


「どうですか、私のラブソングは。暗いですか。バラードが多いことは昔からのファンの皆さん、よくご存知ですよね。私の愛の歌聞いてどう思いますか、●●さん?××さんはどう思いますか?」

いきなりステージ前の席に座る常連ファンを、次々と3人指名して答えさせる。
「切なくて、心に迫ります」など突然当てられたお客さんは、ドギマギしながら回答する。目を見て歌うのは客を引き込む基本技。蘭華もこの日も当然のように実践していたが、さらにステージの上と下で直接言葉を交わすことで、よりアットホームな雰囲気を作ろうとしたのだろう。先に触れた客席の緊張、戸惑いをほぐしたかったのだろう。

「そんな切ない愛の曲を、ここからさらにお届けします」

歌ったのは、オリジナルのラブバラードで「悲しみにつかれたら」「4年前」「ぬくもり」。伴奏は二胡に代わって登場した細田好弘のアコースティックギターに。これら3曲、音源は無く、近年のライブではめったに歌わないレアな曲たちだ。

「4年前」は聞くの初めてか。他の2曲は蘭華と出会ったばかりの頃に何度か聞いた覚えがある。6年ほど前のことで、それも数えるほどだ。



実は長い歌手活動の中で、蘭華は一度大きく曲調を変えている。

歌手を志し大分から上京した2002年から、まさに恋愛をテーマにしたポップな楽曲を中心にシンガーとして活動していた。小沢健二をカバーしたりしてたそうだが、今からは想像つかない。ただよくいる女子シンガーの中に埋没し、芽が出なかった。仕事も恋愛も上手くいかないことが多く、オリジナルの楽曲は自らの失恋体験を元にした切ない悲恋の曲が多かったそうだ。

長い雌伏の時を過ごし、2010年頃からルーツである中国の二胡や和楽器を積極的に取り入れた独創的なアレンジで、オリエンタルな雰囲気や昭和歌謡っぽい癒し系の作品に軸足を移した。テーマは人生や親兄弟、故郷、自然などに変わった。シンガーソングライターとして、時間はかかったが自らの持ち味が生きる領域をようやく探り当てたのだろう。

おんぷあんなに愛し合って求め合ったことも今じゃ幻のようおんぷと嘆く「悲しみにつかれたら」などは、まさに2008、2009年頃のライブでよく歌っていた、いわば初期の作品だ。


メジャーデビュー後初の東京ワンマン。しかもバレンタインデー。

この日のセットリストにこれらの曲を並べたのは、この機会に自らの音楽活動の系譜を振り返るとともにファンの皆さんに知ってもらいたかったのかもしれない。だから伴奏も二胡を下げて、当時のようにアコースティックギターを入れて演奏したのだ。

最近歌っていないこれらの曲だが、歌唱力がずっと上達した今だからこその表現が光った。はるかに陰影が増し、悲しみ、切なさが当時より伝わってきた気がする。


     ハート     ハート     ハート     ハート


そしてライブはこの日、一番の盛り上がりをみせたコーナーへ。
国生さゆり「バレンタインデー・キッス」とオリジナル曲「ダーリン」だ。

セットリストここまでたどり着いた途端、「あー、もうやだ」
「今日、一番緊張しているのがこの後の2曲。私はやだって言ったのに、やれってマネジャーに強制されて…」
「ダーリンは本当はアイドル向けに作った曲なんですよ。自分で歌うこと想定していないのに、スタッフが見つけ出してきてやれって…」とぶつぶつ。

無駄な抵抗を続けなんとか緊張をほぐし、ハードルを下げようとしてるのがみえみえ(笑)そんな姿も新鮮で、ほほ笑ましい。

それでも何度もYou Tube見て覚えたというバレンタインデー・キッスの振りを、お客さんにも強要(笑) 自らの歌でしんみりしていた会場を一緒に盛り上げ、テンションを高める。似合わない選曲で下手したら滑るのではと危惧していたが、しっかりコミュニケーションを取り、皆を楽しませた。

「ダーリン」は多数のアイドルが交互に歌うことを前提にしたという、アップテンポで歌詞の展開が高速な1曲。音譜ダーリン、ダーリン、ダーリン音譜と、ブリブリにかわいらしい声で繰り返すさび。蘭華の新しい一面が見えた。歌いこなしていたのも流石。

イメージを壊すような試みだったが一番大きな声援が上がり、お客さんに大いに笑ってもらえて、やった甲斐があったというものだ。



この後2曲、蘭華らしい曲調に戻って「愛しい涙」と、結婚する友人のために作り結婚式でうたったという「ウェディングソング」。そろそろラブソングには倦んできたかな、と思ったタイミングで蘭華がステージから一旦、姿を消した。

     チャイナ服     チャイナ服     チャイナ服     チャイナ服


中央がぽっかり空いたステージ、やや暗くなった照明。

そこに耳になじんだあのメロディーが二胡の旋律で美しく響き渡る。
「蘇州夜曲」だ。

NHKの朝ドラ「ごちそうさん」の劇中、高畑充希が歌っていたあれだね。元々は1940年公開の李香蘭主演映画「支那の夜」の劇中歌。大ヒットして戦前戦中、国民がこぞっと口ずさんだという名曲。この曲は高畑充希より、まさに蘭華に似合う宿命の一曲だ。

戦前、日本と中国で熱狂的な人気を誇った李香蘭は、中国奉天で日本人の両親のもとで生まれ育ち中国語が堪能だった。そのことで中国では中国人と思われ、北京や上海で活躍していた1940年ごろ、日中が険な関係にる中で日人として出自を隠さざるを得なかった。日本の敗戦後は、日本人であったため国外追放処分になり帰国、女優山口淑子として日本映画にも多数出演した。後に参議院議員としても活躍。政界引退後は女性のためのアジア平和国民基金の呼びかけ人となり、同基金の副理事長を務めた。

山崎豊子は小説「二つの祖国」で、第二次大戦中に日本と米国で苦悩した日系アメリカ人二世をテーマにした。同時期の日中戦争の最中、日本と中国の「二つの祖国」に翻弄され、後に両国の平和のため尽くした代表が李香蘭といえよう。


蘭華のイメージは、どこか李香蘭と重なる。


中国人の祖父母が1930年代に日本に移住。日本でその息子と娘が見合い結婚し、生まれたのが蘭華(本名)だ。名前の由来について蘭華は、かつて中国から上野動物園に贈られ大ブームとなったパンダの「蘭々」のように、人々に愛される人になって欲しいという思いが込められているとよくステージやラジオで話す。そして「歌手として、日本と中国、アジアの国々との架け橋となれれば」と続ける。

この数年、中国への音楽留学や日中友好イベントへの参加など、目に見える形で架け橋となりつつある。

また自らの恋愛など身近な題材を歌っていた初期を卒業し、音楽生活の第二期といえる現在、彼女は二つのルーツをより強く意識し、音楽に落とし込んでいる。二胡や和楽器、中国民謡や昭和歌謡、それらの音を効果的に使い、まるで日中の距離と時を超えて吹く風のようだ。

この日、「蘇州夜曲」は転換時のインストのみ。歌が聴けず残念。
かつてよく歌っていた蘭華の姿を思い描きながら、上記のような様々な思いが頭の中を交錯した。


なぜか長く続く後奏が終わり、再びそこに蘭華が。


艶やかなピンクのチャイナドレス姿。会場から「ほぉー」と感嘆の声が漏れる。美しい恋の矢




ここからは、まさに現在の蘭華の真骨頂といえるステージになった。

「花時」「maama」という両親への想いをつづった2曲。深い感謝の念を、美しい高音のファルセットで歌い上げる。思わず涙するお客さんの姿も。

MCで2011年の大震災とその直後の父の死に触れ、「私のことを最も応援してくれていたのが父でした」

父親は蘭華が東京でライブするたびに、大分から夜行バスで駆けつけてくれたこと。母親を題材にした「maama」を聞かせたとき少し寂しそうな表情を浮かべたがとても褒めてくれたこと。いつかお父さんの曲作ると約束しながら、突然、がんで余命宣告を受けてしまったこと…

とつとつと涙ぐみながら語る。


桜の咲くころを意味する「花時」。初春の病床で父親に一緒に桜を見ようねと語る歌詞に聞き入ってしまう。

存命のうちに何とか書き上げ、枕元で彼に歌ってあげられたAメロはこうだ
おんぷ水色の空 小さな窓
横たわるあなた かすかな寝息
あなたと交わした約束 何一つかなえられてない
こっち向いて もう一度だけ笑ってみせてよ
桜の花 あなたに見せたくて
春の足音聞こえる
どうか どうか かなえておくれ
あなたの笑顔が見たいおんぷ

そして父の死後に書き足したBメロ
おんぷ思い出の花 優しい色
あなたとの日々 思い浮かべる
夢かなえてゆく姿を あなたにも見てて欲しかった
もっともっと 親孝行できたはずなのに
桜の花 今年も咲き誇る
あなたとの夢 生きてる
父よ今も愛しています
あなたの娘で良かったおんぷ

MCで聞いていた境遇を思い浮かべながら聞くと、涙がこみ上げてくる。


続いて、大分に今でも住む母親への感謝をつづった「maama」。
おんぷお腹の中では10ヶ月 育ててもらって幾年月 あたえてくれたこの命おんぷから始まる冒頭から、心をつかまれる。


メジャーデビューを記念して蘭華は2015年8月9日、故郷の大分県中津市で凱旋コンサートを開いた。会場の中津文化会館大ホールは、なんと900席がSOLD OUT。ライブは大盛況で、大成功に終わった。地元の期待の大きさがうかがえる。中津に眠るお父さんと住み続けているお母さんは、故郷に錦を飾った蘭華をきっと誇りに思ったことだろう。


   sakura*01    sakura*01    sakura*01    sakura*01 


ついに最後の1曲。
彼女が選んだのは「ともしび」だった。

先に書いた「ともしび」というイベントのために作った曲ではない。ただタイトルとぴったりだったこともあり、同企画に毎回呼ばれ歌っていた。しかし2011年、震災や父の死が重なり、精神的にも落ち込み、レコード会社との大人の事情などでその後ライブはほぼ休止状態に。「ともしび」は事実上「封印」された。

彼女は何を想い、この曲を最後に持ってきたのだろう。
悲嘆の時期を通り過ぎ、悲願のメジャーアーティストとして新たな一歩を歩み始めた現在地を意識したか。一灯の明かりに希望が見える。

一つ確かなことは彼女の並外れて美しいファルセットが、最も儚く美しく響くオリジナル曲は「ともしび」だということ。(歌わなかった中国民謡「草原情歌」も相当いいですが)

二胡の奏でる弦の音色と美声が絡まりあい、感動なくして聞くことができない。

おんぷ限りある未来 私にできること
伝えたい あなたに 幸せ届けたい
ゆらゆら ゆらゆら 揺れ泣いて
笑ているよ
らゆら ゆらゆら 揺れて生きて
歌っているよおんぷ


盛大な拍手が会場に響き渡る。


やがて拍手が強く波うち、アンコールのリクエストに。

会場の呼びかけに応え、蘭華が晴れやかに舞い戻った。


    うみ。    うみ。    うみ。    うみ。


衣装は白のチャイナドレスに変わっていた。

感謝の言葉を述べて、最後はメジャーデビュー作となった「はじまりの色」「ねがいうた」を感情を込めて熱唱。

最後鳴り止まぬ拍手の中、サポートミュージシャン3人と並んでステージの上から挨拶。はじけるような笑顔が印象的だった。

これから蘭華がどんな歌手になるのか。まだメジャーでは始まったばかりだが、大いに期待していきたいね。


【セットリスト 】
1. 桃色吐息(カバー)
2. 揺れる月
3. 花籠に月を入れて
4. 悲しみにつかれたら
5. 4年前
6. ぬくもり
7. バレンタインキッス(カバー)
8. ダーリン
9. 愛しい涙
10. ウェディングソング
11. 花時
12. maama
13. ともしび

アンコール1. はじまり色
アンコール2. ねがいうた


祝日 ヒグチアイ ワンマンライブ 『全員優勝』@渋谷WWW 祝日


東京・渋谷のスペイン坂を上がりきった所にあるビル地下、キャパ450人の「WWW」。氣志團や神聖かまってちゃん、サンボマスターからフラワーカンパニーズ、N`夙川BOYS、ねごとや三浦大知、OGRE YOU ASSHOLE、はたまた最近はチャラン・ポ・ランタンまで、勢いあるアーティストが次々とステージに立ち、野心あるミュージシャンの憧れの地。そんなライブハウスがこの日、ヒグチアイによって最上段まで満員となったおんぷ

高い天井、素晴らしい音響、ずらっと並ぶ照明など設備面が素晴らしい箱だが、ここの特徴は何より元映画館だけあって、どこからでもステージが見やすい階段状の客席だ。座席は取っ払われてオールスタンディングだが、上の方でも他所の2階席より見やすい。さらにヒグチアイがこの箱を選んだ理由、それは後ほど。

3月18日の「全員優勝」レコ発ライブでゲットしたチケットは、通し番号008の一桁チョキ 早めに入場して、最上段に近い3段目の最前列中央というステージ全体が見やすい場所に陣取りワクワクしながら開演を待った。

見下ろせば、そこかしこに見知った顔ぶれ。興奮気味に何かを語りあっている。みんなこの日のライブが待ち遠しくて仕方なかったんだよね。何年も前からずっと応援してきてるから。

一歩一歩高いステージへ、確実に成長を続けているヒグチアイの最先端を、自分の目で確かめずにはいられない。今日はヒグチアイ史上節目といえるビッグイベントだから。

物販で缶バッジやブロマイド(ビックリマーク笑)とともに、彼女のことが全部分かっちゃうという小冊子「解体新書2」を購入。一昨年?のやはり大きなワンマンの際に発売した「解体新書」が彼女の本音に溢れていただけに、本日の物販ではこの「2」を最も楽しみにしていた。

開演まで30分以上あったので、早速読み始めたら面白いのなんのビックリマーク ヒグチアイと元?シンガーソングライターの嫁ムラタマリエの対談集となっているのだが、「全員優勝」やヒグチアイの音楽人生について本音を引っ張り出すマリエちゃんのヒグチ理解度の高さ、楽曲の聞き込みの深さ、質問の上手さといったら、素晴らしい。

さすが音楽番長!!子番長大先生(懐かしい!)ヒグチアイも、だからこそ彼女に音源をいち早く渡して感想を求めたのだと、よく分かる。ヒグチアイを知るこの上ない解説書で、開演前に本日の公演への興味が益々掻き立てられた。(分かる人にしか分らないネタ満載でごめんなさい)

     ピアノ     Piano     ピアノ

オープンから約1時間、そわそわと開演を待っていた客に、照明が消えて最初に投じられたのが映像だった。このワンマンから1年弱後にライブを振り返るヒグチアイの架空近未来映像だった(笑)

ステージ上方に、300インチの巨大映像スクリーン映画 鮮明な動画が映し出される。

従来にない大人びた衣装のヒグチアイが渋谷?の街を歩いていく。WWWワンマンから何が変わりましたか、の質問に「セレブになったことかな」とジュエリーをキラキラ。

WWWワンマンはいかがでしたかと問われ、「いやー、ツンデレでみんなが手を振り上げたり、大きな歓声送ってくれたり、『アイちゃん、かわいい』と声援をくれて嬉しかったー。最後の曲は予め配った歌詞カードを見ながらお客さんが一緒に歌ってくれたし。物販も沢山売れて…」って(笑)客、それ現実化させなきゃいけないじゃん(爆)

ワンマンの口火を切ったこの映像、笑いの中で2つ強く印象づけたことが。


その1。ついにヒグチアイが武道館ライブ実現を宣言したぞー!それも1年後に!!
待ちに待った武道館がついに……www

といっても物販がばか売れし、そのお金で旅したベトナムで現地の人に頼まれて作ったエビの養殖ソング!?が大ヒットし、日本でも逆輸入で大売れ。武道館ライブが急遽決まり、同時に金持ちになったという設定。だからセレブ。ありえねえ(笑)


その2。音と映像の融合。ヒグチアイの新たな表現手法が、素朴な歌い人を洗練されたアーティストへ昇華し始めたことだ。

昨年2月7日の夜、三軒茶屋で開いたワンマンが生んだ出会いが、ヒグチアイの表現の幅を広げるきっかけとなった。そのライブ空間の演出を手がけた集団「シネチュウ」との出会いだ。

この頃、アルバム「三十万人」発売(2月26日)に合わせて、中野咲さんのアニメーションがやさしい「ホームタウン」や、白い画面に歌詞が飛び交う島田隆将@ALTOGRASS監督の「東京」のMVも公表された。

その後、シネチュウ企画制作でヒグチアイは次々にMVを発表し始めた。最初は単なるライブ映像だったが、2015年に入り何人ものスタッフが監督や構成を努め、女優・武田玲奈や清水葉月まで出演する本格的なMVの数々が産み出された。

それはアルバム「全員優勝」のリード曲「まっすぐ」「まぼろしの人」や、初期代表曲「ココロジェリーフィッシュ」。ヒグチアイはライブの人です、というキャッチコピーが出回るほど彼女はライブでこそ本領が伝わるアーティストだったのだが、これらの映像作品では、ライブに決して劣らず彼女の魅力をひりひりと伝える。ヒグチアイのマグマのようなコアの部分に触れられるメディアが広がった素晴らしい出来事だった。


その映像とライブが、WWWという箱を得て、重なり合い絡み合い二つが一つとなって心を突き動かす、そんな新しい表現がこの夜繰り広げられた。先に言ってしうとこの日のライブ終盤はまさに生声と映像の波状攻撃。その映像も単なるイメージやメッセージビデオではなく、作品世界を作り上げる重要な構成要因だ。

ORDINARYや3月15日の渋谷PLUGレコ発ライブでも一部、映像を交えた表現があったが、今回は巨大なスクリーンと数多くの映像がスケールの大きい世界観を作り上げ、歌とあいまって総合芸術ともいえる領域を感じさせてくれた。ひとつの完成形を紡ぎだしたといえるだろう。


     ピアノ     8mm     Piano     8mm   ピアノ


オープニングムービーが終わりつつあるなか、バンドメンバーが入場。そしてヒグチアイも大きな拍手に包まれてステージへ。おもむろにキーボード、高音の技巧が光るきらきらした音色から始まる「朝に夢を託して」でスタート。その音はヒグチならではの硬質さ。ぞくっと鳥肌。

かわいらしい、あるいは女神の笑顔のように優しいピアノを弾く女性シンガーは結構いるが、このダイヤモンドが砕け散ったような硬質な音で、激しい展開を予想させるピアノ弾きは数少ない。彼女ならではのピアノにはいつも惹かれるのだが、この日はもう出だしから感動ものだ。

赤のドレッシーなシャツに黒のスカート。きれいに整えられた黒髪。これまでで一番大人っぽい雰囲気ではないか?


2曲目は一気にテンポを上げ、ハンドマイクを手にステージ中央を所狭しと動き回りながら、のりのりに「ツンデレ」。上も下も真っ白な服で現れた「退屈な貴公子」もちづきやすのりキーボードもさく裂。やっくんは激しい曲が結構得意で、こうした展開はお手のもの。ルックスもいいしねー。話すと超天然だけど(笑)。妹ひぐちけいのギターと絡みながら、思いっきりグルーヴを作り上げ、ヒグチアイのボーカルが一段と弾んでいく。

ちなみに、やっくんと並んでフロント中央に位置したけいちゃんも上下真っ白。バックで支えるBa.きーぼーとdr.マシータは全身真っ黒。衣装考えて合わせたのだろう。しかし、けいちゃん…もう少し!w


3曲目は一転して、静かに「書きかけのラブソング」を優しく歌い上げる。この曲、デュエットで歌う「三十万人」バージョンが一番好きだが、この日の優しさは沁みる。

ヒグチというと、昔は激しく吠えていた印象だが、この曲とか聞いていると、本当に優しい歌い方が上手くなったなあと痛感。ただ解体新書2にも書いていたけど、優しくばかり歌っていて強い曲が下手になったなあと思った時期もあった。声帯が強く歌えなくなってしまうのだ。本当、ボーカルは難しい。


4曲目は「あなたが一番」。♪もしもあなたが死んじゃった~♪からしみじみとした歌い出し。どこか懐かしいハモニカbyやっくんの伴奏が。ツンデレからのこの緩急の妙。

やっくんが退場して、ヒグチアイ自らが激しいキーボードの前奏を叩く。けいちゃんのギターがむせび泣くなか「雨の交差点」。青春の曲というがそういう感じはせず、むしろ黒い影のような激しさがマグマの噴出っぽくていい。

続いてけいちゃんも退場し、リズムの2人だけ従えてヒグチアイがどダークな前奏の「ペーパームーン」。かといってしっとりする訳ではなく、終盤はまるで爆発。暴力的にたたかれる鍵盤と激したドラムとベース、衝動が突きつけ抜ける。破壊的な演奏は、ヒグチアイが単なる暗いうた歌いでないことの証明だ。

そんな証明をしておいてベースとドラムを退場させ、1人残ったヒグチアイはこの日、初めてステージ左奥に据えられていたグランドピアノへ移動。暗ーく♪あの子、死んじゃった~♪笑
この曲を書かずにいられなかったと本人がいう「つばめの巣」だ。セットリスト構成の妙。すごく考え抜いたんだろうなあ。



ここでようやくMC。

「3月15日に告知して2カ月でWWWをいっぱいにできるか、すぐに始まったツアー中も考えていた。今夜はそんなツアーで出会って、遠いところから来てくれた人も。
あ、ここ(グランドピアノ)って客席から遠いね」と、マイクの伸びるぎりぎりまで客席ににじり寄る。
「ツアーで沢山土地の美味しい者を食べさせてもらって太りました。昔は遠征先のライブハウスにお客さんが3人しかいないことも。ごはんも食べられず、お客さんに貰ったお菓子で食いつないだり。
すごく幸せになった。それがどんどん普通になって当たり前になって、でもそれでいいのかって。ここWWWのように大きい箱にチャレンジして凄いよかった。私幸せだよ。」
彼女の現在の立ち位置がわかる言葉だった。

ツアー先で知り合った二十歳の女の子に「幸せになってください」とファンレターを貰ったが、私幸せにみえなかったのかなあ、と呟きそのまま久し振りの曲をやりますと歌い始めたのが、本当に懐かしい「カレーライス」。本当、久しぶりに聞いたなあ。それは、まさにささやかな幸せの曲。ヒグチアイというアイコンがどんどん大きくなっている気がするが、彼女はいつでも身近なささやかな幸せを歌にする、繊細な感受性の持ち主なのだと思った。



ここでヒグチも退場。誰もいないステージ上に、見たことのない無音の映像が流れはじめる。そしてここから、映像と音楽の織りなす新しいヒグチアイワールドが繰り広げられていく。

映像は、微妙な距離感の女の子と男の子が接近し、そして仲睦まじく青春を謳歌するけど、やがて…そんなストーリー。そこに白いワンピースに衣替えしたヒグチアイが現れ、映像に音をつけるように「ポケット」。

とてもきれいな情景。音楽から引き出される感情と、映像のなかで幸せそうにほほ笑む若い2人への共感。


バンドメンバーが戻り、ヒグチもキーボードへ移ると映像は、雨だれのようなシーンにシャボン玉 水槽?その雨を受けるかのように、今までになくしっとりとやわらかく「ココロジェリーフィッシュ」の前奏。丁寧に激せず歌っていく。過去のバンドライブなどでは最初から激しく展開することも多かったが、こういう曲調だと、しみじみと歌詞の世界に入っていける。

上から下へ降っていた光の粒が、やがて下から上へ浮き上がる泡のように。いつしか映像は深海へ。光の粒のなかに静かにクラゲが浮かびあがってくる。海上の光を求めるかのようにうごめくジェリーフィッシュ。終盤にかけてフォルテッシモで力を増す演奏とヒグチの声。最後は映像と演奏が激しく突き抜ける。

映像はそのまま「まぼろしの人」へ。少女が新宿の路上で美しく気持ちをぶつけながら踊る素敵なムービー。激しいドラムから本日最高の盛り上がりを見せていく。会場にはムービーの中で踊っていた清水葉月さんの姿も。憂いを含む表情とりんとしたたたずまい。アーティスティックで美しい。ステージのバックに巨大に映し出される彼女の物憂げな表情と、さ迷う心を表現したかのようなダンス。ああ、この世界観!!


そこにエレキバイオリン柴さんが加わり、演奏は一段とヒートアップして「黒い影」。もはや客席は興奮状態。スタンディングで良かったー。バイオリンが高音で空気を切り裂いていく。とてもかわいらしいのに、体全体で踊るように弦をかき鳴らしていく姿が、さらに客席のテンションを上げていく。

「年をとるとできない事が増える。でも香川のおばあちゃんがやりたい事がどんどん増えて時間がなくて困ると話していた。そういう大人になりたい。なれるかな。知らないことを知ることで、幸せになれたら」とMCしてからの「東京」。

けいちゃんがエレキをアコギに、柴さんが通常のバイオリンに楽器を持ち替え、抑えた前奏から徐々に上げていく。やっくん、けいちゃんのコーラスが入って歌い上げた最後のサビは感動的だった。かつてたった320円だけ握りしめて東京から逃げ出そうとした少女は、もう一人じゃないんだよ、と語っているかのようで。



そして、ついに「もう終盤だよー」と声を上げて歌い出したアップテンポな「青春の日々」。いきいきと充実感溢れるヒグチアイの笑顔につられて、こちらも笑顔になる。青春を思い出しながら歌うなんて、お前はおじさんか、と心の中で突っ込みを入れつつ共感。


最後は、オープニング映像でリクエストしていた通り、配られた封筒の中にあった歌詞カードをお客さんが取り出して準備が整うのを待って、「まっすぐ」。400人規模だとお客さんどうしも知らない仲が多いので、照れもあるのか大合唱とまではいかなかったが、それでも会場は一つに。

♪ゴーストレイト さよならじゃない

思うままに進んでゆけ それでも

ゴーストレイト さみしい時はいつでも

思っていること忘れないで

ゴーストレイト 君の道は

分かれたりくだったり それでも

ゴーストレイト 間違いじゃない

そのおかげで出会えた~♪



感動的な大団円。



盛大な拍手を受けてアンコール。1人で現れ、まずはグランドピアノで定番の「かぞえうた」。みんなで「イチ!ニィ!サン!」。

さらにバンドメンバー呼び込みなんとアップテンポな新曲。曲名は「らんぷ?」だったかな?♪君がくれた生きている意味 抱きしめるよ♪というサビが印象的。今後、いろいろなライブで歌っていくことだろう。

アンコール3曲目は「メグルキオク」。スタッフが入場の際にお客さんに紙飛行機を配布していたから、きっとこの曲がアンコールであるのだろうと思っていたが、やはり。後から読んだら手紙に書いてあった(笑)歌の冒頭の歌詞 ♪紙ヒコーキの折り方を僕は忘れていたんだよ~♪に合わせて、何十という紙ヒコーキがライブハウスの空間を切り裂くように飛び交う。その後、曲が終わるまでずっと紙ヒコーキの乱舞とどまらず。

     紙飛行機     紙飛行機    紙飛行機     紙飛行機


大拍手でステージを去る。もちろん、こんないいライブを見せられたら、もっともっと彼女を見続けたいもの。ダブルアンコールを求める手拍子は止まらない。

しかし、その拍手のなか、エンドロール映像が流れ始める。関係者や出演者一人ひとりを紹介していく。冒頭にやっくんを紹介した「退屈な貴公子」もそこでの紹介文句。けいちゃんは「リアル3Dおでんくん」だったかな(笑)そして我らがヒグチアイは「ツンデレ歌姫」。

3分以上あろうというエンディングロール中、途切れなかった手拍子に応え、映像が終わったところで再びアイちゃんが一人でステージへ。

本当に最後です、といってこれも定番の「ホームタウン」をしんみりと弾き語って、長い夜を締めくくった。

     くらげ     海月     海月     くらげ


ああ、いいライブだった。余韻に浸りたくて、数日間、音楽を聴かなかった。だって頭の中で彼女のさまざまな曲が勝手にリフレインして止まらないから。

彼女の大きなイベントはこれだから外せない。必ず大きく成長した姿がそこにあるからだ。今後、どこまで彼女が成長していくのか。楽しみでしょうがないな。
あけましておめでとうキラキラ

皆様、よい新年を迎えられましたでしょうか。

自分は今年も正月から親戚らと飲んだくれ、駅伝を見て3が日が終わってしまいました。
いつものごとく全く生産的なことはしなかったなあガクリ

そして1月4日(日)は、斉藤麻里の感動的なO-EASTワンマンが。詳しくは次回書くけど、3時間近いライブのハイライトは何と言ってもアンコールの最初に演出した、弦楽カルテットとバンドをバックに美しくドラマチックに、しっとり歌い上げたバラードメドレー。「心臓の音」「タイムカプセル」「SAKURA」をつないだものだが、とりわけ後ろの2曲の神々しいまでの美しさといったら。至福のアンコールでした。もちろん、それだけでアンコールが終わった訳ではないですよ(続く)


それにしても昨年後半は全くブログを書かなかったね。アメブロのIDパスさえ忘れてしまいそうなので、久しぶりにご挨拶。

ライブに関していえば、10月ごろまでは相変わらずのハイペースで沢山見たのだけど、年末にかけて仕事が忙しかった上に忘年会も多々あり、回数は激減してしまったのが残念でした。

それでもいくつか面白いライブはあったねー。

なかでも印象深かったのが、河野圭佑の渋谷duo Music Exchangeでのワンマンだ。

圭佑のチャーミングな人柄、キャッチーな声、仲間との厚い交遊ぶり、心に響く楽曲、そしてその深ーい音楽愛が滲みまくっていて、最初から最後まで心がキュンキュンしっぱなし。これほど暖かい音楽の時間を楽しませてくれたアーティストは、ほとんどいないと断言しよう!

それほどいいライブだったよ。


そして28日の坂本麗衣15周年スリーマンライブも良かった!麗衣ちゃんのロックな歌心は、見ているものを心から突き動かす。なぜか急速に懇意になった里果チャンや、J-45仲間の斉藤麻里とのコラボもあり、素晴らしく楽しい夜だった。特にソロステージでのJumpからJumping to the freedomへの激しいロックな展開にはぞくぞく鳥肌たったねー。

麗衣ちゃん、15周年おめでとう。15年間も続けてくることの大変さ、麻里ちゃんも里果ちゃんも話していたけど、本当にそうだと思う。これだけクオリティの高い格好いい音楽をやり続けているからこそ、多くの人が彼女を支え続け、だからこそ続けられた面が大きいはず。もちろん、彼女自身の才能、努力、忍耐があればこそなのだが。これからもずっと応援したいミュージシャンです。


それでは、昨年12月に見たライブだけ振り返ってみよう。

    音譜    音譜    音譜

2日(火) 河野圭佑Band お世話になりますBrothers ~焼酎とおれワンマンライブ~「Because」@渋谷duo Music Exchange

3日(水) MIDWEEK BURLESQUE vol.17 - Xmas Burlesque Extravaganza! @渋谷7th floor
Coco Flame, Odile, Margaret Igorroom, Violet Eva, 紫ベビードール


7日(土) 紫ベビードールがやってくる!in JAPAN フェスティバル@吉祥寺 Star Pine's Cafe

16日(火) Echo&Refrection #34 @赤坂グラフィティ
針先愛実、水鏡、とかげのわかば、児玉梨奈、かをる★

21日(日) TAWOYA-meeting Vol.12~6執念かよワンマンライブ~@代官山LOOP
たをやめオルケスタ

22日(月) その名はスペィド真っ黒逆さまハート はつばいきねんすぺしゃるパーテイィィ★@渋谷Under Deer Lounge
    ダウン   ダウン
ChampadeliC vol.16 その名はスペィド「真っ黒逆さまハート」リリースパーティ☆合体スペシャル!! @渋谷Under Deer Lounge
その名はスペイド、Coco Flame, Rune Glitter, TenTen, Marilyn

25日(木) Tassels presents "Burlesque Restaurant" @渋谷GUINGETTE by MOJA

27日(土) PIE PARTY 2014 @六本木・音楽実験室 新世界
『ボッチン道中』(クンビア・オペレッタ)、PIE PARTY 2014スペシャルライブ、野佐怜奈とブルーヴァレンタインズ、エルナ・フェラガーモ
    ダウン   ダウン
文角歌謡大賞2014@渋谷Saravah Tokyo
文角、ソワレ、吉川純広、玉置孝匡、かんだ♡みのり、メイリー・ムー、香月

28日(日) カホン村岡広司 Presents ~せっかくですから2014~@恵比寿・天窓Switch
木下直子、斉藤麻里、Kayo、UEBO、はるのまい、川島敬治、ききまたく、きしのりこ、野崎有真、都竹宏樹
    ダウン   ダウン
坂本麗衣15周年記念スリーマンライブ『Cheers!』@渋谷gee-ge
坂本麗衣、斉藤麻里、松岡里果

    音譜    音譜    音譜

12月は通常のライブよりも、年末らしいイベントが多かったね。

特に22日(月)の「その名はスペィド」のリリパからのシャンパンがぶ飲みオールナイトパーティの流れは、したたかに酔ったよー。手ごろ価格のシャンパンを、DJの音楽やBurlesque Dance、Pole Danceを楽しみながら、じゃんじゃん空けて、誰彼かまわず注いでは乾杯を繰り返す。うーん、まさに酒池肉林!てほどじゃなく健全なクラブのパーティだったけどね。でもシャンペン4本空けたけど。

この夜の第一の目当てはBurlesqueのCoco FlameとRune Glitterの二人。僕のお気に入りだ。数多いるCocoちゃんのダーリンの末席に僕も加えて頂いているしね(笑)それにRuneちゃんのお尻は最高に格好いいのだ。彼女たちをはじめて見るお客さんたちにも、そのショウは大うけで、ステージにかぶりつき、チップまで渡して盛り上がってたねー。

そんな2人が加入している、Burlesqueダンサーだけの世界初?のバンド「Tassels」がまた何とも楽しいのだ。音楽はまだまだこれからなのだけど(笑)クリスマスの夜はそんなTasselsのメンバーによるソロステージに、バンドライブもあった素敵なレストラン&アフターという一夜を堪能。思い出深いクリスマスになったね。

Cocoちゃんのステージは、なんと毎月恒例のMIDWEEK BURLESQUEでも見たんだよねー。ということは、12月に最多回数見たアーティストはCoco Flameだったのだね。うん、彼女をしているのだよ(笑)


そして、12月のMIDWEEK BURESQUEにも出演していた紫ベビードールの、年末恒例のお祭りが7日(土)にあったのだが、これがまた素晴らしいエンターテイメントだった。

勿論、バーレスクなので少しずつ脱いでいくセクシィさ、妖艶さも重要な要素なのだけど、何より楽しいエンターテイメント性と、エロよりビューティな芸術性が欠かせない。その点、紫は徹頭徹尾、エンターテイナーであり美しいのだ。その証拠に、お客さんの半分以上が女性なのだから。

今回は半分以上が新作のダンスで、どれだけメンバーのみんなが練習に明け暮れたのか苦労がしのばれるのだけど、ステージでは最後の1秒まで心から楽しそうな笑顔で、お客様を楽しませようという姿勢。頭が下がる。

しかも2時間の長丁場を踊りっぱなしなのに、みな元気そのもの。僕は行けなかったけど、この後深夜スタートの祭り第2幕もあって、多くのお客さんが通し券で入場していた。みんな朝まで楽しんだんだろうなあ。羨ましい。紫べびードールはまさに、日本最高峰のバーレスクグループなのだ。


27日のパイパーティは、最後はパイをぶつけ合う超楽しいイベント。だったのだけど、最後までいられずそこは来年のお楽しみに。でも、わが最愛の「野佐怜奈とブルーヴァレンタインズ」のステージも年末最後に拝めて満足、満足。

ちなみに小ネタを話すと、野佐怜奈は「その名はスペィド」の第2代ボーカル「ルビィ」だったんだ。当時は女王様だったようだが、今も「悪い女」だから通じるものはあるね(笑)27日のパーティの本編は”オペレッタ”で、そこにはエルナさんも登場。久々に笑える世界の男をめぐる歌を聞かせていただきました。曲タイトルは忘れてしまい申し訳ない。

第1部だけで抜け出して見に行ったのが、文角のステージ。パーカッション女子の2人が様々な楽器や、小物を使って織り成す珠玉の音楽は素晴らしいの一言。すごい才能を持つ2人でしか作り出せない世界を、間近で堪能できて面白かった。お二人さん、今年もよろしく!


それでは、2015年も皆様にとり幸多い一年になりますようにおんぷ