【内容】
短くて人を笑わせる話──単にネタを暗記するのではなく、笑いの構造を理解すれば、臨機応変・自由自在に小咄を作り出せる。
本書では、日本人離れしたユーモアセンスの持ち主である著者が、世間に流布する笑いの法則を突き止めて分類し、自作も含めて豊富な例をあげながら笑いの本質に迫る。詐欺にも似た相手を錯覚させる方法、同じ内容の順番を変えるだけで悲劇が喜劇になる方法、マクロとミクロを反転させる方法など、思いがけないオチをつけるテクニックをマスターして、窮地に立ったときこそ周囲に笑いを呼び込もう。
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紹介文の「日本人離れしたユーモアセンスの持ち主」という
文言に若干の引っかかりを感じたものの
オチのつけ方を学んでみる意味でも購入。
小咄とはアメリカンジョークの
「そしたらマイケルが言ったんだ、○○ってね」「(会場大笑い)」
みたいなアレです。
それの分析本。
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面白く感じたものをいくつか。
新任の教師は担当するクラスの生徒たちに「まぬけのモイシャ」とからかわれている少年のことが少々気になった。さっそく休み時間になぜそんな呼び方をするのか生徒たちに尋ねる。
「だって先生、こいつ本当にまぬけなんだ。サイズの小さな十セント硬貨と大きな五セント硬貨を出して好きな方を取りなって言うと、必ず五セント硬貨の方を取るんだもの」
そう言うと少年はポケットから硬貨を取り出してモイシャに選べと促した。モイシャはいつも通り五セント硬貨の方を選んだので、教師は驚いて、なぜそうしたのか尋ねると、モイシャは答えた。
「こっちの方が大きいんだもの」
放課後、教師はモイシャを呼び止めた。
「五セント硬貨はサイズが大きいだけで十セント硬貨の方がたくさん物が買えるってこと、まさか本当に分からないの?」
「そんなこと分かってますよ」
「じゃあ、なぜ五セント硬貨を選ぶの?」
「だって僕が十セントを選んだりしたら、ヤツら僕にお金をくれなくなるもの」
(第一章 詐欺の手口より)
記憶力がおぼつかなくなった山田夫妻が記憶訓練の特別講座を受講することになった。そこでは記憶を補うために、連想という方法を用いる訓練がされる。しばらくして山田氏は隣人に講座の成果を自慢した。そこで、隣人が質問した。
「講師は何て方なんですか」
「ちょっと、お待ちください」と山田氏は考え込み、隣人に尋ねた。「えーとですね、紫色の小さなかわいい花がありますよね。香りのいい。あれ何て言いましたっけ?」
「スミレですか」
「ああ、そうそう、スミレ、すみれ」山田氏は自宅に向かって、夫人に大声で呼びかけた。
「なあ、すみれ、オレたちの講師の名前、何だっけ?」
(第七章 誇張と矮小化より)
男が森の小径を歩いていると、川に行き当たった。橋はなく行き止まりだ。浅瀬なので、歩いて渡ることにした。川の真ん中辺りまできたところで、いきなり水の中から手が出てきて、あろうことか、むんずと男のキンタマを捕まえた。そして、どこからともなく声が聞こえてくるのである。
「プラス二、それともマイナス二?」
虚をつかれて男は考えたのだが、手は催促するようにキンタマをいよいよ強く引っ張るので、男はあわてて、
「プラス二」
と答えた。そのとたんに、手はまるで何事もなかったかのように離れ、男は川の向こう側に辿り着くことができた。恐る恐る見てみると、キンタマが四つになっていた。男は最寄りの病院に駆け込んだ。
「助けてくれ!」
医師は男の話を聞いた上で、患部を診察し、こう切り出した。
「手術で余分なのを切除することもできますが、微妙な場所ですからね、費用も馬鹿になりませんし、リスクも覚悟していただくことになりますよ」
「というと?」
「下手するとインポテンツになるってことです。それより、またその川に行かれて、その化け物に『プラス二、マイナス二?』と尋ねられたら、今度は『マイナス二』と答えるのが一番安全で無痛で安上がりかと思いますよ」
男は医師の良心的なアドバイスに感謝もし納得もして、ふたたび森の中にあるあの川を渡ることにした。川の真ん中辺りで、ふたたび見覚えのある手が男のキンタマを捕まえた。そしてまた、どこからともなく声が聞こえてきた。
「プラス四、それともマイナス四?」
(第十章 悪魔は細部に宿る)
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よくできたネタです。
そして、このオチの解説と作り方を説明しているのがこの本です。
面白い本です。
関西人は話の全てにオチがある、といわれますが
話の構成テクニックを幼いころから自然と目にして耳にして
身につけた結果なのでしょう。
ただ、オチを作るにはネタが必要です。
たくさん転がっているネタの中からどのネタが面白くなりそうかを判断するには
センスが必要です。
センスを磨くには日頃から接していなければ磨かれません。
なかなか難しいことですが
そういう意味では関西人はセンスを磨くことも日常的に可能なわけで
吉本芸人パワーをはじめとして
関西人恐るべしと思うわけでした。