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行動経済学の原点/ダニエル・カーネマン 心理と経済を語る:ダニエル・カーネマン

「人生の満足を高めるためにどうしたらよいか」

ーそれは3つある

1.時間の使い方を変えなさい。時間は究極の希少資源だから、そうであるように使うべき
2.人生を悪くするようなことではなく、人生を豊かにするようなことがらに注意を向けるべき
3.注意を払い続けるような活動に時間を投資すべき。新車を買って運転しても、車にはそれほど注意を払わなくなる。しかし、友人と社交しているときには、その活動に注意を払っている(p.13~14)

2002年、アルフレッド・ノーベル記念スウェーデン国立銀行経済学賞
通称「ノーベル経済学賞」を受賞したダニエル・カーネマン氏
彼は「心理学の研究、人間の判断と意思決定に関する研究を経済学に統合した」ことでノーベル経済学賞を受賞しました。

この受賞により関心が高まり、基礎が固められたのが「行動経済学」です。
しかしなんと、カーネマン氏は経済学の授業を受けたことが一度もないそう。
経済学教育を受けていない初めてのノーベル経済学受賞者ではないかと本書では言われています。

これまでの経済学では、経済行動は「合理的な判断」に基づくものとされていました。
それに対し行動経済学では、人の判断は感情に基づくものであり、その場の状況や感情に行動は左右され、必ずしも合理的な行動をとるわけではないという考え方です。
儲け方や損得などではなく、感情で行動するという考え方です。

「行動経済学」=「人間の非合理性」
という誤った理解を解き、正しく、深く理解するための一冊。


ダニエル・カーネマン心理と経済を語る/ダニエル カーネマン
¥1,995
Amazon.co.jp
【著者紹介】
ダニエル・カーネマン
心理学者。プリストン大学名誉教授。
2002年ノーベル経済学賞受賞(心理学的研究から得られた洞察を経済学に統合した功績による)
1934年テル・アビブ(現イスラエル)に生まれ、フランスで育つ。
1948年英国委任統治領パレスチナ(現イスラエル)へ移住。ヘブライ大学で学ぶ。専攻は心理学、副専攻は数学。イスラエル軍での兵役を務めたのち、米国へ留学。カリフォルニア大学バークレー校で博士号(心理学)取得。
その後、人間が不確実な状況下で下す判断・意思決定に関する研究を行い、その研究が行動経済学の誕生とノーベル賞受賞につながる(Amazon著者略歴より抜粋

【ポイント】
・行動経済学の基礎を学ぶ
・人はどうゆう時に判断を誤るのかを知り、思い返し、実感し、改善に努める
・自分の行動や考え方に置き換えて考えてみる

【内容】
この本で言われているのは次の3点です。

①直感的な判断(ヒューリスティックス)と認知における偏り(バイアス)について(高度だがエラーも生む「直感」)
②プロスペクト理論について(「変化」には敏感に反応するが、「同じ状態」が続くと反応しなくなる人間の判断)
③効用(満足度)概念の再検討と幸福について(幸福や満足について経済学から考える)

この3点は、カーネマン氏の「行動経済学に関する業績」でもあります。
本書は4章構成になっていますが、

1章:ノーベル章受賞講演の訳
2章:ノーベル賞受賞の際に発表された自伝の訳
3章&4章:それぞれ行動経済学についての(わかりやすい)カーネマンの論文の訳


といった感じで、バラバラのコンテンツから構成されており、厳密に言うと「一冊の本」ではないです。
もう一つ言えば、この本のためにダニエル・カーネマン氏が書き下ろしたというものではなさそうです(違ってたらごめんなさい)

では各章を少しずつ紹介していきたいと思います。
ちなみに各章のテーマは自分が勝手に作ったやつですので、本物の目次とは違います。

《1章:知覚に関する2つの特性~高度な直感、エラーを起こす直感~》

この章では次の3つのことについて、「直感とは何か?」という背景のもと書かれています。

①意思決定について、心理学研究をする際の内容と方法の紹介
②限定合理性を特徴づける重要な要素に関する実験事例の紹介
③直感についての一般的仮説


ここでは多くの心理学のテストや実験などについて、図などを利用して解説されているため特別な知識がなくても視覚的に理解することが出来ると思います。

また、「直感とは?」の質問に、著者は以下のように答えています。

1.人間だけが持つ知的メカニズムの進化したもの
2.努力して考えるとは対照的にあるもの、素早く働く思考。人はだいたい直感的に考える。高度であるがエラーを犯す。

直感が起こすエラーとは「最初に出てきた考えが結局最後まで頭を支配してしまっている」というものです。
ここで取り上げられている、知覚に関する2つの特性はそれぞれ以下の通りです。

①「変化」に集中し、「状態」を無視する
②足し算をすべき時に平均値を求める


他にも、「効用(満足度)を決めるのは「変化」であって「状態(富の絶対量)」ではない、という「プロスペクト理論」について書かれています。知覚について、プロスペクト理論については実際に読んでもらえればと思います。

《2章:ダニエル・カーネマン自伝(年譜付き)》

ダニエル・カーネマン氏の生い立ちや人物像について書かれた章。
面白かったのは「フレーミングと心の会計」というテーマのところ。

「伝染病で600人が命の危機。あなたはどちらかの公衆衛生プログラムを選ばなければならない」という質問で

(A) 200人必ず◎ or 600人全員◎=1/3 600人全員×=2/3 (◎は助かる、×は死亡の意味)

であれば、大半が前者を選ぶにも関わらず

(B) 400人必ず× or 600人全員×=3/2 600人全員×=1/3

であれば、後者の「ギャンブル性が高いほう」を選ぶという矛盾が発生するという法則。
詳細についてはぜひ本で。

《3章:あなたはそれで本当に幸せになれますか?~効用の最大化について~》

「効用」
経済学で、消費者が財やサービスを消費することによって得る主観的な満足の度合い
(Yahoo辞書)

人は未来の経験を予想をする(t0という地点で、t1という地点に自分が経験するはずの効用を考える)にあたり、効用の最大化に失敗します。とてもわかりにくいので紹介されてる分かりやすい例を2つ。

(1)腹ぺこの状態(t0)で1週間分の食材を買い物に行く→その時の気持ちでついつい買い過ぎる→必要なかったと後悔する(t1)
(2)健康のことを気にしてスポーツクラブに入会する(t0)→健康のことをそこまで重要視しなくなってくる→利用しなくなる(t1)


という感じです。どちらの例も思わず「あるある~」と言ってしまう例です。
ここでもう一つ面白いのが「ピークエンドの法則」
簡単に言ってしまえば「終わり良ければ全て良し」で、ピーク(最良or最悪)よりも、エンド(いかに終わったか)のほうが重要であるという法則のことです。こちらも詳しくは本でどうぞ。

《4章:U指数~主観的な満足(well-being)を測るものさし~》

U指数とは簡単に言えば「不快な時間の割合」のことです。
Uとは「unpleasant(不快な)」「undesirable(好ましくない)」のことを表しています。

ここでは「主観的な満足に関する質問に対する解答が、状況を含めたその他の要素によって、いかにさまざまに変わるか」(p.178)について書かれています。これについては冷水を使った実験などが行なわれておりその研究は非常に面白いものとなっています。

主観的な満足を測るのは非常に難しいです。
例えばAとBの2人がいるとして、それぞれ10段階で「満足度」を答えてもらった時、Aが7、Bが4と答えたとします。パッと見た場合、Aのほうが満足度が高いように見えますが、2人が同じように数値のレベルを使うとは限りません。もしかしたら、Aの10とBの5が同じくらいの評価だということも有り得るというわけです。

そこで提案されたのが「U指数」、つまり「不快度」を測る指数です。満足や幸せというのは漠然としていますが、不快さは具体的なコンセプトで上げられることが多く、また国をまたいで比較することにも適しているそうです。

以上が各章の面白いと思った部分です。
様々な実験、心理学用語なども登場するので非常に勉強になります。

【感想】
ノーベル経済学賞受賞者にして、行動経済学の創始者が、自らの研究を初めて語る。
予備知識なしでもわかる、行動経済学入門の決定版。

これがこの本のうたい文句です。
というわけで、今回は
「経済学の知識も心理学の知識もない男が行動経済学のパイオニアが書いた本を読んでみた」
状態だったわけですが、正直若干難しかったです(笑)
「ほんとに入門書?」と聞きたくなるくらいでした。

わかりいくいと感じた理由の1つが翻訳にあるのではないかと思います。
自分が読んでいて思ったことを何点か挙げていきます。

・たんたんと訳しているだけ
・ややこしい言い回し、ただでさえ難しい内容がさらに難しく感じる
・専門の知識が無いのでは(著者の主張を変えず、読者に伝わりやすくという工夫が必要では)
・日本語の使い方が「?」なところがある


本を読む本 』という内容、構成、訳のどれも素晴らしい本を読んだあとだったということもあってか、非常に読みづらい部分がありました。特に第1章は講演を文章にしているためか、読みにくく、途中で挫折しかけました(笑)
カーネマン氏の話自体はめちゃくちゃ面白いと思います。さすがノーベル賞です。
英語が出来るようになったらぜひとも原著や論文を読みたいと思います。

ページの端には、出てきた用語のわかりやすい解説がされているので、特に勉強していない人でも大丈夫です。
心理学を専攻していない人間からすれば、なじみのないものばかり出てきますが、読んでいると心理学への興味がむくむくと湧いてくる内容です。

もし自分のように経済学も心理学も知らないという人がいれば、まず各章の「まとめの部分」から読むと理解しやすくなると思います。

では最後に、この本の中で特に印象的だった言葉をいくつかあげていきたいと思います。

【印象に残った言葉】
・あなたがそのことについて考えている時に重大だと思うほど、人生において重大なことは何もない(p.166)

・うまく効用を最大化するためには、起こり得るさまざまな結果が、果たして自分にとってどういう経験になるかを予測するところから始めなければならない(p.171)

人間はよく、自分自身の幸せに単純にはつながらない選択を行なっている、一貫性のない選択をすることもしょっちゅうだし、経験から学ばず、取引を嫌がり、他人と比べて自分はどうだということに満足の基準を置き、その他ありとあらゆるところで合理的な経済主体の標準モデルから外れている(p.176)

・政策立案者にとっても、幸せという漠然としたコンセプトを最大限に大きくしようとするよりも、苦痛という具体的なコンセプトを最小限に抑えるという考え方をする方がより楽に取り組めるのではないだろうか(p.216)


最後の「苦痛を最小限に」というのには非常に共感しました。
よく考えると、日常にも行動経済学の考えがかなり存在していると思います。
色々調べていて行動経済学について面白い記事を書かれているサイトがありましたのでよかったら見てみてください。


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今回で行動経済学はめちゃくちゃ面白いということを知りました。
これから色んな本を読んで勉強してみたいと思います。

記事:米