それは、坤成殿に王妃をを訪ねたときのこと…
「医仙、これを見せたくて…
こちらへ、はよう」
「あらっ 金魚、ですか？」
やはり天界にもあるのじゃな、と華やいだ声を出し、王妃はことのほか嬉しそうだ
「ありますよ！
こんなにステキな水槽じゃありませんケド
天界でも、金魚って福を呼ぶっていわれてるんです
きっと、幸運をもたらしてくれるわ」
「チョナが、ワンピママへと、特別に設えたもの
しかし、天界でも見ないほどとは…
せんすがぐー（扇子が宮、と覚えたのだが…）
医仙、こういう使い方で合っておりますか？」
「さすが叔母さま！
このわたしが保証します
思いっきり粋でイケてるわ
こうして水槽を眺めているだけで
気が和んできますもの」
金魚がゆらゆらと泳ぎ、水草をやんわりと揺らす
ガラスをあしらった陶水槽はたいそう凝った作りだ
「名をつけろと、チェ尚宮がいうのじゃが…」
「まあ、それで、決まったんですか？」
「…チョナに、相談をして」
大きな瞳がキラキラと輝き、いつもは青白い頬はうっすらと朱がさして
夫人となった女人（ひと）特有の色香を漂わせている
それはごちそうさま、という、ウンスの明るい声が部屋に響いた
☆☆☆
お幸せそうだった
今頃、イングムニムと名前を決めてるのかしら
少々、うらやましくもある
ソウルが懐かしいのか…
そう問われたら、違う、と答えるだろう
たとえ戻れたとしても、心を通わせるような相手はいないのだ
無口で不機嫌そうで、たまにその重たい口を開くと
駄目です
という言葉しか口にしない男の顔が浮かんでくる
でも、すぐにこれを持ってきてくれたわ
さすがはパートナー！
三四日はかかると踏んでいたのに…
チェ・ヨンが抱えるようにして届けてくれたのは
ウンスが頼んだその日の夕方だ
十分に付箋を作り終えても、それは数枚ほど残っている
トントンと音を立てて揃えると卓の隅に置き
一枚を目の前に広げてみる
メモ替わりに使っていたタブレットもスマホもここには無い
この紙は一枚たりとて無駄にできない大切な物なのだ
覚えてるかな…作り方
ウンス
やってみよう！！！
そうそう
オリガミクスっていったっけ？
折って広げてまた折って…
広げるたびに、新しい幾何学図形が表れるのよね
高校のとき、状態分析課題とかいって、レポート書かされて
最初こそ規則性を探り、折り皺で記された図形に専念したが…
すぐにそれは形を別の為していった
子供の頃、父親がよく折ってくれたある形に…
おかげで、追試よ、追試…
あの時の折り紙に比べたら
一枚くらい失敗してもさ
ちょこっと折り目がつくだけだわ
☆
案ずるより産むが易し
ウンスの手と目が、しっかりと折り方を覚えていた
その顔に、子供のような笑顔を浮かべながら
ひと折り、ひと折り、確かめるようにして形を成してゆく
「ここを、ぎゅって摘まんで尾ひれに曲線を…と」
指を動かしてゆくうちに
ふさぎこんでいた気が、嘘のように晴れていく
「できた！
ふふん 結構覚えてるものね ♥️」
折り上がったばかりのそれを見つめているうちに
ある考えが浮かんできて…
☆☆☆
「天界にもないくらいにいけておる、そう医仙が太鼓判を押したものだから
ワンビママのお喜び様といったら、それはもう…
おい！ ヨン！！
聞こえてるんだろう？
…さっきからため息ばかりついて」
甥は、心ここにあらず、といったところか
チェ尚宮は、うっすらと気がついていた
ため息の原因は、医仙にあるのだと
ヨンよ
ならば、何故四阿に行ってやらない？
あの方は、毎日欠かさず足を運んでいるそうだ
…怖いのか、認めてしまうのが
引き返せぬ、そう思っているのか？
「話しはそれだけか？」
「…いやなに
その、市井ではあれだ
…夏物が出回ってる頃だろう
馴染みの店主に話しはそれとなくつけてある
あの方を連れて行ってさしあげるといい
じゃあな」
「コモ…」
俺がか…
という言葉を、チェ・ヨンは思わず飲み込んだ
それも、悪くない
今までのそれとは明らかに違うため息をつくと
いつものようにその女人（ひと）の様子を
少し離れた外から確かめるため
立ち上がった
その２へと続く
折り紙、最近世界的に人気が復活！
画像の折り紙作品は、どうやら鯉らしいのですが…
金魚にしか見えません！！！