さらにフクロナガサ(叉鬼山刀)に突っ込んでみる vol.11 | 北欧ナイフでお気軽アウトドア

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こんにちは。

今日は、フクロナガサ(叉鬼山刀)関係の突っ込み記事の11回目。

 

 

今回は、今までの考察や実験を重ねてきましたが、いよいよ大詰め。

かなり核心に近い部分まで、判明したので、今回はそのご紹介。

 

 

実は、ちょっと欠けをおこしていた6寸のフクロナガサを、研ぎに出したんです。

もちろん、本家本元に送り研ぎ直してもらいました(叉鬼山刀には一代保証がついており、叉鬼山刀を作り続けている限り、修理やメンテナンスの面倒は無料で見てくれるのです! ただし、送料はこちら負担)。

その際、自分の抱えていた疑問・質問もちょっとざっくばらんに手紙にしたためたのです。

 

 

 

 

 

先日、そのナガサが研ぎから戻って来まして、私の質問の解答も本当に丁寧に教えて頂きました。

 

 

まず、研ぎあがったナガサを見て頂きましょう。

 

 

全体的に綺麗になって戻ってきました。

実は、「叉鬼山刀」の「刀」の辺りで鎬筋が少し乱れているのですが、これはもともとの仕様のようなものです。

 

 

ベタで平面の出た砥石にあてても、砥石に掛かるところかからないところがあり、結果鎬筋が乱れてしまったのですが、ナガサは手作りでありますから、そういうことはあります。

もちろん、使用には支障ありません。

 

 

裏面です。

裏面のホロー(裏スキ)を一度、全部入れ直してくれた感じですかね。

研ぎや使用でついた傷が綺麗さっぱりなくなっていますし、裏の「銘」のところに入っていた化粧研ぎのようなラインも消えています。

 

 

より実用的に研いでくれたようです。

ちなみに、裏スキを削り直してくれたことで、裏押し部の線が細くなってますね。

一般的な和式刃物の裏により近づいた感じ。

 

 

切っ先付近の研ぎ目の様子。

これは、アール部分からポイントにかけて「縦(たて)」で研いでますね。

一方でストレートエッジの部分は、砥石に対して斜めに刃を当てて研いでいるようです。

 

 

ちょっと角度を変えて撮ってみました。

ね? 縦に研いだ形跡がよりはっきりわかりますでしょう?

 

 

さらに角度を変えて。

ストレートエッジ部分が、「ベタで研がれていない」ことがお分かりになりますでしょうか?

そう、どちらかといえば「ハマグリ刃」に近い感じになっています。

 

 

これなんか、刃区のところで、そうした研ぎ方が分かりやすくなってます。

さて、ここで、ちょっと趣を変えて、私がいじりまわしていた4.5寸のナガサとの比較画像を。

 

 

 

で、実は4.5寸のほうも、研ぎ直してもらった6寸をベースにして再度私が研ぎ直しました。

 

 

刃を、ハマグリっぽくしてあります。

 

 

若干角度を変えて。

アールからポイントにかけては、私は「縦研ぎ」に不安があったので(上手く鎬筋を乱さず研げるか心配だった!)、いわゆるナイフ研ぎで、小刃を付けるような感じに研いでしまっています(普通に本式のハマグリ刃がつけられるならそれがベスト!!)。

 

 

質問とそれに対する回答、および仕上がって来たナガサを見て得た結論は、

 

 

  ・ナガサは実用品である

 

  ・研ぎは、好きに研げばいい

 

  ・ただし、指針はあって、刃はベタはダメ(刃こぼれが起こる)。また小刃付けというよりはハマグリ刃(や、それっぽい感じのものが推奨されそう)

 

  ・そうした指針を頭に入れ、「自分にとって馴染むように使っていく」

 

 

ということになりそうです。

個人的な見解を入れさせていただければ、「綺麗に研がない」というのも、ナガサの流儀みたいなものでしょうか。

 

 

私達はナイフなどで、綺麗にエッジのラインを揃えて研ぐことに慣れてしまっています(あるいは、それを目指しています)。

 

 

けど、ナガサはそういう「ビシッと綺麗な研ぎ」というよりは、さっと研げて、十分な刃がつく。

ガンガン使う実用の道具、という趣があり、実際、マタギの人たちなどの多くもそうして研いでいるようです。

 

 

ですから、仕上げの砥石の番手も、#12000なんかで仕上げることはしないみたい。

まぁ、やってもいいと思うんですが、ナガサの実用性と合わない部分はありますよね。

 

 

で、肝心の表面(鎬がついてるほう)の研ぎ方なんですが、どうやら、

 

 

  ・ベタ研ぎの要領で、まず刃を砥石に当てる

 

  ・そこから、刃先に力をかけ、砥石に押し付けるようにして研ぐ(若干背を浮かせる)

 

 

ようなんです。

これにより、圧力をかけた際に砥石が若干たわみ、凹みます。

また、ナガサの刃先それ自体も柔らかくしなやかさがあるので、少しはもたわみ、刃先だけが砥石に当たり、結果、疑似ハマグリっぽくなる、というわけです。

 

 

私も拙著『北欧ナイフ入門』でも触れましたが、

 

 

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革砥を使った時、こうした疑似ハマグリが出来てきます(革砥の場合は微々たるものですが)。

 

 

革の弾性により、刃先が沈み込みながら研磨されるため、刃先が若干丸みを帯びるんですよね。本式のハマグリ刃とは違うものですが、それと似たような原理が、ナガサの研ぎでも働くようです。

 

 

革砥でなく普通の砥石を使いますから、綺麗で、横方向に均一な丸みが出来るというわけでもなく、刃先だけ見れば、割と乱れている感じになります。が、それがナガサの研ぎのようです。

 

 

三代目西根正剛氏のパーソナルユースのナガサの写真もありまして、

 

 

こんな感じなんですよね。

他にも、同じような刃先を持ったナガサの写真もありますし、先日書いた「刃先はファクトリーナイフに慣れている人からすれば、雑に見える」なんて添え書きがナガサにつけられていた時期もあって、それはこうした研ぎ方によって生じる刃先の乱れのことを指すようです。

 

 

ここで、また私見を入れると、「そうは言っても、ベタで少し研いでおく」のは大事なことだと思います。

 

 

まず、ベタで研いでおいて、それから、刃先に力を入れ疑似ハマグリを作るというわけです。

なぜなら、一度全体を研ぎ下ろしていかないと、ハガネ部分(青紙は正確には合金ですが)だけが削れていってしまいますし、鎬筋のシェイプを保つという意味でもそうしておいたほうが、無難だと思っています。

 

 

 

とりあえず、鎬がついた面の研ぎに関しては、これが一つの答えでしょう。

綺麗に研がない(綺麗に研ぐ必要がない)。徹底して実用品。究極的には好きに研げばいいのだけれども、刃こぼれを起こさないような工夫をしておいがほうがいい。で、それは疑似ハマグリを作るということで、刃こぼれを防いでいる。

 

 

こうしたものが、ナガサの「スタンダード」な扱いだというわけです。

そうそう、研ぎ直しでやってきたナガサなんですが、多分、砥石の番手は結構粗いと思います。

 

 

#1000より粗く、見た感じ、触った感じ、刃先に指をあえて薄皮を切ってみた感じでは、#800ってところじゃないかな。

 

 

また、力を込めて刃先だけ圧力をかけ、疑似ハマグリを形成する関係上、「平面が保持されているダイヤモンド砥石」なんかは不向きです。また刃の黒幕なんかも、しっかりとした硬さがありますから、あまり向いていると思えない。

 

 

極めてスタンダードな、キングの#800~#1000なんかが向いているんじゃないかと思いますよ。よーく水を吸わせて圧力かけると、ちょっと砥石へこみますからね。

 

 

 

さて、問題はナガサの裏なのですが、この段階でずいぶんと長い記事になってしまったので、今日はこの辺にして、裏に関してはまた後日、お話しするとしましょう。

 

 

この裏の問題が、どうしても最後まで残ってしまったナガサの謎なのです。

次回は、その問題について突っ込んでみようと思います!!