テロ等準備罪を分かりやすく解説

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今国会政府提出のいわゆる「テロ等準備罪法案」(「共謀罪法案」とも言われる。)について、一般人が居酒屋で総理の悪口を言っただけで捕まるとか、戦前の治安維持法の復活だとかあまりにも内容を理解していない酷すぎるデマも多く、詳しい説明も少ない中で複雑すぎて正直よく分からんという方のために、この場を使ってその詳細を説明しようと思います。テロ等準備罪法案とは? 共謀罪法案って何? という疑問になるべく分かりやすくお答えします。

 

長文なので読むのが面倒な人は、下線部だけでも大意はつかめるように記載しています。

 

この法案、正式名称は「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案」といい、その略称として「テロ等準備罪法案」とか政治的立場によっては「共謀罪法案」と呼ばれています。

 

まず、この法案の提案理由(なぜ、いまこの法律を作る必要があるの?)については、

 

提案理由

近年における犯罪の国際化及び組織化の状況に鑑み、並びに国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約の締結に伴い、テロリズム集団その他の組織的犯罪集団による実行準備行為を伴う重大犯罪遂行の計画等の行為についての処罰規定、犯罪収益規制に関する規定その他所要の規定を整備する必要がある。

 

これが、 この法律案を提出する理由となっています。

早速小難しいので解説を加えながら簡単にいうと、

 

IS(イスラム国)などのテロ集団とか麻薬密売組織とか、今の世の中、犯罪が国際化してるので日本の警察もその情報をきちんと世界の捜査機関とやり取りして未然に防止すべきだよね。でも、日本は国連の条約「国際組織犯罪防止条約(略称:TOC条約、パレルモ条約)」を結べていないので、そうした国際的な犯罪集団の情報についての他国との綿密なやり取りができない。条約を結ぶためには条件があって、そのために国内の法律を改正しなきゃいけないんだよ。

 

ということです。

この背景には日本は東京オリンピックも3年後に控えているという事情もあります。

 

法案の名前からもテロのみを規制する法案というイメージがありますが、注意が必要なのは、決して法案がテロのみを取り締まり目的としているのではなくて、テロリストも含めたあらゆる組織犯罪が取り締まり対象であり、そもそもの条約が求めているのもテロだけでないのです。(与党審査で「テロリスト集団その他の」という文言が入った政治的過程があるのですが、あまり意味のある文言ではありません。役所もこの文言は例示であって、その文言の有り無しで意味の違いはないと明言。)

 

つまり、そもそもこの法律をつくらなければならない最大の理由は、上記の国際条約を批准(結ぶことです。)するために、国内法を整備するということなのです。そして、その条件とは何か。それは、この条約の第2条と第5条あたりに書かれています。

 

----- 条約 -----

第二条 用語
この条約の適用上、
(a)「組織的な犯罪集団」とは、三人以上の者から成る組織された集団であって、一定の期間存在し、かつ、金銭的利益その他の物質的利益を直接又は間接に得るため一又は二以上の重大な犯罪又はこの条約に従って定められる犯罪を行うことを目的として一体として行動するものをいう。
(b)「重大な犯罪」とは、長期四年以上の自由を剥はく 奪する刑又はこれより重い刑を科することができる犯罪を構成する行為をいう。

 

第五条 組織的な犯罪集団への参加の犯罪化
1締約国は、故意に行われた次の行為を犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。
(a)次の一方又は双方の行為(犯罪行為の未遂又は既遂に係る犯罪とは別個の犯罪とする。)
(i)金銭的利益その他の物質的利益を得ることに直接又は間接に関連する目的のため重大な犯罪を行うことを一又は二以上の者と合意することであって、国内法上求められるときは、その合意の参加者の一人による当該合意の内容を推進するための行為を伴い又は組織的な犯罪集団が関与するもの
(ii)組織的な犯罪集団の目的及び一般的な犯罪活動又は特定の犯罪を行う意図を認識しながら、次の活動に積極的に参加する個人の行為
a組織的な犯罪集団の犯罪活動
b組織的な犯罪集団のその他の活動(当該個人が、自己の参加が当該犯罪集団の目的の達成に寄与することを知っているときに限る。)
(b)組織的な犯罪集団が関与する重大な犯罪の実行を組織し、指示し、ほう助し、教唆し若しくは援助し又はこれについて相談すること。

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またまたややこしいので、条約を簡単にすると、

 

条約を結ぶにあたっては、四年以上の懲役や禁固刑以上の罪をするような、犯罪を目的とする集団に対して、国内法で、合意した段階もしくはその集団の活動に参加した段階のどちらかで取り締まる法律を作ってね。ただし、合意の段階で罪にするという法律の方を選ぶときには、その中の誰かが準備する具体的な行為をした場合とかに限定してもいいよ。

 

というものです。

慎重意見の中には、条件をつけて留保できるのではという意見もありますが、条約の本筋の部分を留保して批准というのは如何なものかですし、今まで日本は本筋の部分を留保して批准した条約はないとのこと。また、この条約は世界でほとんどの国180か国以上が参加しているのですが、外務省が調べられる範囲で調べた結果、例えばOECD諸国において、この合意で処罰(いわゆる合意罪)も参加で処罰(いわゆる参加罪)もどちらもなしにこの条約を批准している国はないということでした。

▼そもそも国内法なんて整備しなくても条約結べるのでは、という意見に対する法務省正式見解は以下。

http://www.moj.go.jp/keiji1/keiji_keiji35-2.html

 

日本はこの批准を目指すにあたって、より要件がしっかりしている合意罪の方を選んでいます。それが今回の法案なのです。そして、法案自体はどういうもので、何をしたら罪になるのかというと、それは今回の法案の2条(現行法と変わらず)と改正案6条の2あたりに書かれています。

 

----- 法案 -----

第二条 この法律において「団体」とは、共同の目的を有する多数人の継続的結合体であって、その目的又は意思を実現する行為の全部又は一部が組織(指揮命令に基づき、あらかじめ定められた任務の分担に従って構成員が一体として行動する人の結合体をいう。以下同じ。)により反復して行われるものをいう。

 

改正案第六条の二 次の各号に掲げる罪に当たる行為で、テロリズム集団その他の組織的犯罪集団(団体のうち、その結合関係の基礎としての共同の目的が別表第三に掲げる罪を実行することにあるものをいう。次項において同じ。)の団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を二人以上で計画した者は、その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたときは、当該各号に定める刑に処する。ただし、実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する。
一 別表第四に掲げる罪のうち、死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮の刑が定められているもの五年以下の懲役又は禁錮
二 別表第四に掲げる罪のうち、長期四年以上十年以下の懲役又は禁錮の刑が定められているもの二年以下の懲役又は禁錮
2 前項各号に掲げる罪に当たる行為で、テロリズム集団その他の組織的犯罪集団に不正権益を得させ、又はテロリズム集団その他の組織的犯罪集団の不正権益を維持し、若しくは拡大する目的で行われるものの遂行を二人以上で計画した者も、その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたときは、同項と同様とする。

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これまたややこしいので簡単にすると、法案の中身は、

 

犯罪が主目的の組織で、更にその組織にはきちんと指揮命令系統と役割の分担があって、何度も反復して既に犯罪をやっている組織での活動として、個人ではなく組織として犯罪をやることを計画した場合に、その計画した人のうちの一人でもお金を用意したり、物を用意したり、現場の下見をしたりといった準備をしたら、その計画した人たちは罰するよ。計画を実行に移す前に自首したら罪は軽くなるよ。どの犯罪が対象になるかは後ろの表で並べるね。

 

ということです。

 

これまで何度かいわゆる共謀罪法案という形で、同様の法案が国会に提出されて廃案(つまり成立せず。)となっていますが、今回出されてきたものは以前提出された法案よりも更に、罪になるかどうかの要件がかなり絞られています。

 

本法案での絞りこみや要件の縛りをぱっと列挙するだけでも、

「多数人、組織的」… つまり個人は当てはまらない

「指揮命令、任務の分担」… 指揮命令系統や役割分担がない組織は当てはまらない

「行為の反復」… 今まで何も犯罪をしていない組織の一度きりの話は当てはまらず

「結合関係の基礎としての共同目的が犯罪」… 組織の”主”目的が犯罪の場合のみ

「二人以上で計画」… そうした犯罪集団の構成員でも一人での計画は当てはまらず

「準備行為」… 計画しただけでは罪ではない、計画者の誰かが準備行為をしなきゃ

 

の縛りがあり、さらに対象の犯罪を絞り込むことで、何でもかんでも入らないようになっています。その対象犯罪については大きく分けると5分類、277罪まで絞り込まれています。

 

▼なお、5分類については以下の時事通信の記事を。

http://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_pol_seisaku-houmushihou20170321j-01-w400

▼また全ての対象犯罪については法文別表をみれば書いてあるのですが、確かに分かりにくいので、以下の東京新聞のツイート画像が分かりやすいかと。

https://twitter.com/tokyoseijibu/status/844406610525073409

 

 

さてこれまで、内容をなるべく分かりやすく説明しようと思って書いてきましたが、長文過ぎて、また、説明が下手過ぎて分かりにくければすみません。その場合、かなり複雑だということだけでも分かっていただけたら、それだけでも書いた意味があるかと。

 

そして言いたいのはここからなのですが、

法案内容が知らない人から見ると複雑なのに加え、政治的思惑も加わり、デマも含めた情報が世の中に飛び交っています。例えば、以下、世の中に出回っている内容をいくつか列挙しつつ、それについての回答を書いてみました。

 

●居酒屋で上司の悪口や、安倍総理死ねといっただけで罪になる

答え:組織の行為でなければ罪になりません。さらにその組織も犯罪が主目的の組織でなければなりません。悪口を言ったり、死ねというだけでは計画ではないので罪になりません。加えて準備行為すらないので罪になりません。

 

●「賃金UP、ストライキだ、ブラックな勤務はダメ!うんと言うまで社長を返さないぞ」 ← え?こんな会話でタイホなの!?話し合うことが罪になる

答え:なりません。まず会話だけ、話し合うだけではならない。その一員の準備行為が必須ですよ。そもそも、犯罪を目的とし、何度も実行する集団の一員で、記載のような社長を監禁する(犯罪です。)ための下見や物品手配を計画準備するような人は一般人ではないですね。

 

●同人サークルで二次創作の同人誌を作ったら逮捕されるように変わる

答え:なりません。指揮命令系統がはっきりしていないサークルや一個人の場合はそもそも当てはまりませんし、万一会社組織などで指揮命令があるとみなされるものでも著作権者の告訴がなければ警察は動けません。(「親告罪」といいます。)これは今の法律でも同じで、現行法でも著作権者から訴えられたら罪になる可能性があります。

ただし、この例示だけは少々他のものと比べても特殊だと考えています。なぜなら、列挙されている罪をすべて確認しましたが今のところ、それらの罪を主目的に活動している集団で、今すでに存在し、活動がほとんど違法性・悪質性がないといえるものはこういった二次創作団体ぐらいしか思いつきませんでしたので。(他にあれば教えていただきたいです。確認すべきなので。)

逆に言えば、こうした二次創作活動が萎縮する可能性もないとは言えないので、政府に主意書などで確認。著作権法違反を含む現行法で親告罪のものは、この法案でも親告罪のままとの回答を得ました。また、海賊版製作販売などは暴力団やテロ集団の資金となり、犯罪集団の隠れ蓑になる場合もあるので著作権法違反は外せず、他との並びを考えても海賊版に限定する若しくは同人誌作成団体のみを外すといったことも難しいようですね。親告罪については、法務省は明文化しなくても法の構成上当然にそうなるという考えのようですが、明文化してもよい(すべき)とも考えられます。

▼主意書内容はこちら:

http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a193139.htm

 

●「違憲の戦争で自衛隊員が殺される前に安倍総理を打倒しなければならない」と複数の国会議員が議論。議論の後に「宿舎で一杯やろう♪」とコンビニで食材と一緒に果物ナイフを購入。打倒を殺人、ナイフ購入を実行準備行為とこじつければ共謀罪で国会議員を逮捕できる。

答え:ありえません。国会議員が犯罪が主目的の組織に所属しているのでしょうか。そもそも具体的な計画がありませんし、逆に議員が総理をナイフで刺す具体的な計画をしていたらそれこそ犯罪計画ですね。また、打倒とナイフの因果関係すら証明できない外形だけの法適用は司法現場では通りません。

 

●戦前の治安維持法と同じだ、みな捕まるようになる

答え:人権に対する考えが現憲法と明治憲法では根本的に異なります。現憲法では人権は永久不可侵の権利として明記されており、現憲法下でかつての治安維持法のような結社の自由そのものを侵す法案をつくったり、実際に逮捕したり拷問したりしようものなら裁判で明らかに「違憲」となります。三権分立が機能し、国会や特にマスコミの監視も強い中で、不可能な話。今回の法案は上記の様に要件もかなり厳格化、治安維持法とは明らかに異なります。

 

 

まだまだ例を挙げるとキリがないのですが、まずはこれぐらいで。

なお、色々文句やいちゃもん付ける方もいるので明記しておきますが、上記はこれまでの法務省や外務省、警察庁、法制局、賛成反対両方の立場の学者や弁護士らとのやり取りを基に丸山個人の議員としての文責で記載したものですので、これらの点について不安があるのであれば、確かに一つ一つ国会で政府に確認していかなければならないでしょう。

しかし、少なくとも、挙げたような不安を煽るだけのものは、例示そのものがあまりにも酷すぎて苦笑せざるを得ません。

 

最後に、

本法案、確かにしっかりと議論しなければならない法案であることは異論はありません。また、おそらくほぼありえない状況ですが、万が一、一般の方が捕まっても警察によって自白を強制させられないようにするための取り調べの可視化や、9.11や地下鉄サリン事件などの過去例を見たときに本当にこの法案だけでテロを未然に防止できるのかということを考えると、GPS捜査や通信傍受などの捜査手法についての合憲の範囲内でのルール化を進めるなど、問題点をフォローするための政策がまだまだ必要だと考えます。しかし、どう考えても、上記のような例を上げて不安をいたずらに煽るのは適切ではない、ということを理解いただけたでしょうか。

 

 

以上です。ツイッター等で、あまりにも法案についてのご質問が多く、しかし、すべてに返信できないのでこちらに書かせていただきました。時間の限られた中にて記載したので、誤字等あればすみません。また、明確な間違いなどが万が一あれば訂正いたします。

 

後半国会でしっかりと議論してまいります。

 

▼本法案の全文や改正の新旧対照表は、以下の法務省HPをご覧ください。

http://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00142.html
▼国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約(略称:国際組織犯罪防止条約)については以下の外務省HPを。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/soshiki/boshi.html

 

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  • ”テロ等準備罪を分かりやすく解説”

    テロ等準備罪の全文を読もうとしたのですが、読み慣れない文章で、途中で読むのが嫌になってしまいました。そこで、分かりやすい解説がないかと調べてみると、あの「丸山ほだか衆議院議員」がアメブロで解説を書いていました。長文ですが読みやすい文章なので、興味のある方は、お読みください。

    ま~さ

    2017-05-24 20:54:12

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