知らない人を見るような視線は、すぐに逸らされる。
ベッドに横たわるその人は、言葉にすれば透明で今にも消えてしまいそうだ。
それは生命力の無さからか、蒼白い肌のせいなのか・・・
久しぶりの慶人の姿に驚きもせず、まして微笑みすらしない。
まるで何事も無かったように、花瓶の花を見つめたまま無表情。
慶人もまた、何も話さず・・・ただ立ちすくむ。
『何しにきたの?』
聞き逃しそうなほどの細い声・・・その瞬間、慶人が溜息を吐く。
『フッ・・・だよな。何しにきたんだろうな。』
そのセリフと共に、繋いだ手から伝わっていた慶人の緊張が解ける。
『あの人に頼まれたのよね。そうだ・・・お金なら足りてるって伝えておいて・・・
ほら、あっちの世界には持っていけないから・・・今更欲しい物もないから。』
『自分で言えよ。俺はアイツ嫌いなんだよ。』
『そうね、そうだったわね・・・そうするわ。で、その子は噂の彼女かしら?』
突然、顔だけを動かし私に視線を向けた慶人のお母さん。
真正面から見ると痩せて頬はこけてはいるけれど、驚くほど美人。
「どうもはじめまして・・・渡会真菜です。」
『ワタライ・・・ふふっ・・・あの渡会歩のお嬢さんなのよね?あまり似てないわね?
噂は聞いてたけど、案外、その辺に居る普通のコと一緒なのね・・・』
頭を下げた私に注がれた眼差しは、吐かれる言葉とは違う感じ。
目だけで微笑んでるような・・・不思議な雰囲気を持つ人だ。
『同じ世界の人なら、お似合いじゃない。住む世界が違うと苦労するわ。
で、わざわざ彼女に会わせて何が目的かしら・・・今更な感じじゃない?
私達は、もう他人なのだから。』
『そっか・・・そうだよな。けど、コレで最後だ。爺さんに会長命令と言われりゃ来る
しかねぇから・・・他人の見舞いだろうが、仕方が無く来ただけだから・・・
で、そういう事だから、じゃあ。』
えっ?
来たばかりだと思うんだけど・・・帰るの?
慶人が、お母さんに背を向けて病室の扉に手を掛ける。
「慶人・・・」
慶人に続いて病室を出る前に再度、「お大事に」と、頭を下げる。
そして顔を上げた瞬間、その一瞬・・・私の目に思いがけない光景が映る。
それは、胸が苦しく痛くなるほどの思い・・・母親の愛情
〝慶人・・・やっぱり慶人は、ちゃんとお母さんに愛されてるよ。〟
だって・・・だってね・・・
閉じかけの扉の向こう、今にも溢れそうな涙を絶えるお母さんの口が、声無く
〝お願いします。〟と、動いたんだよ。
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