『高宮尚斗。』
お兄ちゃんの名前を聞いただけで、彼はなぜか数歩、後へ下がる。
『でも、な・・・なわけねぇだろ?高宮に妹なんて・・・そしたら、すでに・・・』
『すでに、何だ?』
慶人が、あっさりと私の正体をばらすなんて、何かあるんだろうけど・・・
でも、学内の人にはやっぱり知られたくない。
彼が誰かに言わないなんて保証は無いし、まして言い触らされたりすると困る。
そんな私の心情なんかお構いなく、どんどん話しは展開していく。
『高宮は、天涯孤独なんじゃねぇのかよ?そういう話だろ?
捨てるものも守るものもねぇから、あんなに冷徹で極悪なんだろ?』
『アイツだって家族はいるさ。けど、尚斗を敵にまわすのは、ある意味自殺行為だ。
だから俺なら即、解散。
けど、そういうわけにいかねぇんだろ?
死んだ野郎の意志だったんじゃねぇの?
俺が、その位置に着く事は、あの野郎が一番嫌がることだろ?
だからお前で良いんだよ。その位置に立つべきなのは、お前しかいない。
悪いけどガキの集まりに、クビを突っ込んでいる暇ねぇから、俺。
で、最後に冷徹極悪野郎から距離を取れって忠告は一応してやるよ。』
一方的に話を終わらせ、再度歩き出した慶人。
私の頭の中には、彼とは別の疑問が一つ。
「ねぇ慶人・・・冷徹極悪は、解るけど・・・天涯孤独ってどういう事?」
『ははは・・・そこ?真菜、冷徹部分は納得?尚斗も案外可哀想なのかもな。』
廊下に響く慶人の笑い声。
『表向きは、そう言う事になってる。尚斗が、高宮になった最大の理由だよ。』
あぁ・・・お兄ちゃんは、結局のところ私の為に高宮姓になったって事なんだ。
タタタッ・・・また大きな足音を立て近づき、私達の前に立ちふさがった高杉さん。
『けど・・・苗字が違うじゃねぇか。それに、お前が高宮とつるんでたのは、修に
対抗してのことじゃねぇのか?海藤も手に入れたのなら、俺たちの仲間になって
上に立つのが当たり前の話だろ?』
妹のくだりすら納得できないらしい彼の苛立ちは、更に増した様で、顔が妙に赤い。
『お前の言ってる位置に俺は、いない。ただの代行って肩書きだ。』
海藤にもお兄ちゃん率いるグループの様なものが存在するらしい。
そのトップに慶人のお兄さんの後釜として彼が抜擢されたらしい事は、何となく
解ったけど・・・私からすれば、それで良いじゃん!って話だと思うんだけど・・・
簡単にいかないのが、彼のプライドの問題なのかもしれない。
『だから無理・・・てか、お前が適任じゃん。
奴等から見れば、俺は海藤でも海藤じゃない・・・ただの偽者だろ?
それに・・・お前が俺に簡単に渡して良いのかよ?
その地位は、お前が本家に認められて、渡されたモノなんじゃねぇの?
くれると言うなら貰ってやっても良いが、俺に任せた時点で即、解散。
なあ、高杉・・・その地位は、お前がうまく利用しない限り、意味の無いものになる。
ただ与えられたものであっても、自分が動かねぇと手に入れたことにはならねぇ。
案外、簡単に手に入れられたと思ってるだろうが、簡単なモノほど簡単じゃねぇ。
握ったつもりで隙間から零れ落ちる。だから確かなものにする為に、自分の手で
捕まえる行動を起こせ。
まっ、偉そうに言ってるこの俺も、他人に教えられた事なんだが、頭の良いお前なら
理解できるだろ?』
『・・・』
ただただ今の慶人の言葉に困惑の彼。
再び歩き出した慶人。
『真菜、これからは俺の許可無く誰彼かまわずついて行くな!』
なんて、小さな子供の様に説教される私。
この件、まだまだ拗れちゃうのかな?
はぁ・・・どう考えても私に平凡な日々なんて、訪れないよぉ・・・・
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