壱&佐和7~
『佐和、佐和・・・雨止んでるみてぇだから、今の内に帰るぞ』
少し眠っていた私の頬を、撫でる様に優しく触れる壱。
ゆっくりと瞼を開けると薄明かりの中、壱の微笑む顔が目の前に・・・
『悪い、明日ちょっと用事あってさ、朝までココにいると間にあわねぇから』
目をこすり近くで光るデジタル時計の数字を見る・・・AM1:48・・・
「うわっ、私・・・知らないうちに寝ちゃった。ごめんね」と、慌てて起き上がる。
『どうして謝る?俺が無理させたからな・・・大丈夫か?動けんの?』
ニヤリと笑う壱。私は、数時間前の行為を思い出し、恥ずかしさで頬が熱くなる。
「からかわないでよ。そんな事言うなら、もう壱とはしないんだか・・・んっ・・・」
突然、後頭部に壱の手がまわり・・・そのまま唇が塞がれ身動きできない。
息も間々なら無い激しいキスが終わると、壱は真剣な表情で私に忠告する。
『俺以外の奴に身体触らせるような真似してみろ、ソイツの命は無いから』
本気で言ったセリフじゃ無いのに・・・冗談も通じないんだから。
「分かってるよ・・・私、好きな人としかできない・・・あんな事・・・」
近くに置いてた服をベッドの中でゴソゴソと着ながら、ソファに座った壱を見る。
既に着替えも済ませ私を待つ壱は、携帯に目を落としている・・・何気ないしぐさが
この場に慣れている様に映る。
きっと私と付きあうまでは、当たり前の様に色んな女の子と来てたのだろう・・・
と考えると、今の私は壱を独り占めしてるはずなのに・・・胸の奥がモヤモヤと
複雑な心境になる。そう、なぜか抱かれた後は、壱の過去に嫉妬する。
こんな風に壱に愛されたのは、私だけじゃないんだと思うと・・・分かってるけど・・・
許せない気分になる。
『佐和、どうした?本気で立てないとかじゃねぇよな?』
着替え終わった私が一向に動こうとしないから、壱は携帯を閉じて立ち上がり
私に近付くと顔を覗き込む。
「立てるよ・・・ほらっ」ってベッドから降りた私は、モヤモヤを振り払う為に、振り向き
目の前の壱に不意打ちのキスをする。
触れた唇から、気持ちが伝わったのかもしれない・・・
『佐和だけだから。こんな風に女を抱くのも、キスすんのも佐和だけだ。』
何も口にしなくても、全て通じるのかもしれない。
『時間まで一緒に居るだろ。』私の返事も待たず、壱の家に向かうバイク。
バイクの後で壱の身体に抱きつき、壱の温もりと匂いを独り占めする。
付き合い始めの頃、バイクに乗せてもらった時の言葉を思い出す。
『コイツに女を乗せるのは、お前が初めてだ』
壱の家の前、バイクを降りメットを脱いで見上げた空・・・無数の輝く星
雨が降ったとは思えない、綺麗な星空。
「壱、見て・・・凄く綺麗。」壱を引き止めて二人で、少しの時間黙って星を見上げる。
こんな広い宇宙の中で、私は壱に出会って恋をした。とても奇跡的な素敵な事。
そう考えれば、壱の過去なんて些細なことだ。今と未来を大切にしよう。
気がつけば・・・私の中の不快な嫉妬のモヤモヤは消えていた。
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