『黒岩さん、娘は学生ですが、菓子作りは小学生の時からさせてます。
そこらの菓子職人よりも、腕はいけるんですが・・・どうでしょう?』
父さんの提案は、学校が終わった後と早朝に、この家でベースを作らせてもらい
デコレーションと盛り付けの指示をすれば良いと言う・・・なんとも無責任な話。
云わば・・・結局、自分は関わらずに、私に丸投げって事???
『簡単に言われますが、当リゾートのディナーの代金に沿ったものをゲストに
提供できなければ意味が無いんですよ・・・申し訳ないですが、お嬢さんに
それができるとは思えませんが?』と冷ややかな目で私を見る。
ムムッ・・・なんだか・・・ムカつく!!!ただでさえ馬鹿にされてるのに・・・
私、これでも・・・数あるスイーツコンテストで、いくつも賞を取ってきたのよ。
スイーツ界の新星と呼ばれてんだから。見てなさいよ、やってやろうジャン。
馬鹿にされてばかりも、なんだか気にいらない。
「父さん、私やる!今まで店にいた時間を、こっちにくればできない事は無いもの。」
突然の私の宣言に、黒岩さんは『遊びじゃないんだぞ』と不服そうな表情。
「私で不服?」私の質問に
『あぁ・・・まあね、お前が繊細な物を作れるとは思えねぇ。』と気に食わない返事。
「じゃあ、一度此処でテストしてみてよ!」フフッと笑う私。
黒岩さんは『やる気満々じゃん。』とニヤリと笑う・・・んんっ?何だ?・・・???
さっきとは表情が違って見える・・・してやったり顔???もしかして・・・
『さすが自信あんだな・・・世界の名の知れたパティシエ達を差し置いて・・・
取った金賞の数・・・片手じゃ足りないっていう女子高生だけはある。』
えっ・・・なんで知ってんの・・・取材も全てお断り。名前も仮名で出場してるし・・・
『で、明日は土曜だから、早速テストさせていただくよ。』話を進める黒岩さん。
やられた・・・全て計算だったんだ・・・パティシエに断られた処から全て・・・
「最悪・・・ひどい・・・もしかして嵌めたの?」恐々と訊いて見る。
『心外ですね・・・嵌めるなんて、さっき、やるって言ったのは貴方じゃなかったけ?』
有無も言わさない程のオーラと気を感じたのは、父さんも同じらしい。
『亜子・・・どうするかな・・・正体バレてるらしいぞ・・・やってみるか』
自分より娘を選ばれた屈辱もどこへやら・・・それでも軽い感じな父さんは
よく言えば・・・とても良い人、悪く言えば・・・究極のお人好し。
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