『ねぇ・・・あれって、加奈・・・バレー部のキャプテンじゃない?』
部活も休みで、仲の良いミキとナオと出かける約束をした。
そして、その待ち合わの駅の片隅。
ミキと二人、遅れてくるナオを待っている時だった。
ミキが指差した方を見ると・・・井上先輩がいる。
身長が高いから、すぐに目に付く。
周りには、いかにも・・・と言う感じのガラが悪そうな人達。
井上先輩が居なければ、視線を送る事は無いだろう。
十数人で駅の一角を占領している。
その集団の中には、バッチリとメイクした女の子も数人いる。
そのうちの一人が、先輩の腕を軽く掴んで、甘えるようなしぐさで
首を傾げてみたり、爪先立ちで先輩の耳元に顔を近づけて
なにか先輩に囁いたり・・・。
『なんなの・・・アレ・・・もしかして彼女かな?』
趣味悪くない・・・とミキが話しかけてきたが・・・答えられない。
そうだよね・・・先輩はあんなにかっこいいからね・・・
そりゃあ、モテルよね・・・間違いなく、あの中の数人は、先輩狙いだろう。
話しかけてくる女の子に、いつもの笑顔で答えている先輩。
あの日、私の頭にふれた大きな手が、別の女の子の肩を触れる。
その子も嬉しそうに、先輩に何か話をしている・・・
お互い目を合わせ、楽しそうに笑う・・・
いつも部活の時の私のポジション。
この前までの私なら、気にもしなかったはずなのに・・・
チクチクと胸の辺りが疼く。
ショックを受けている自分に戸惑う。
私は先輩のことを、何も知らない。
大きな声で呼べば聞こえるほどの距離・・・でも遠い・・・
これが今の私と先輩の、本当の距離なのかもしれない。
ここに立つ私と先輩の間に、見えない透明の分厚い壁。
近いようで、遠い距離。
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