1・距離 | 恋愛小説 くもりのちはれ

『ねぇ・・・あれって、加奈・・・バレー部のキャプテンじゃない?』


部活も休みで、仲の良いミキとナオと出かける約束をした。


そして、その待ち合わの駅の片隅。


ミキと二人、遅れてくるナオを待っている時だった。


ミキが指差した方を見ると・・・井上先輩がいる。


身長が高いから、すぐに目に付く。


周りには、いかにも・・・と言う感じのガラが悪そうな人達。


井上先輩が居なければ、視線を送る事は無いだろう。


十数人で駅の一角を占領している。


その集団の中には、バッチリとメイクした女の子も数人いる。


そのうちの一人が、先輩の腕を軽く掴んで、甘えるようなしぐさで


首を傾げてみたり、爪先立ちで先輩の耳元に顔を近づけて


なにか先輩に囁いたり・・・。


『なんなの・・・アレ・・・もしかして彼女かな?』


趣味悪くない・・・とミキが話しかけてきたが・・・答えられない。


そうだよね・・・先輩はあんなにかっこいいからね・・・


そりゃあ、モテルよね・・・間違いなく、あの中の数人は、先輩狙いだろう。


話しかけてくる女の子に、いつもの笑顔で答えている先輩。


あの日、私の頭にふれた大きな手が、別の女の子の肩を触れる。


その子も嬉しそうに、先輩に何か話をしている・・・


お互い目を合わせ、楽しそうに笑う・・・


いつも部活の時の私のポジション。


この前までの私なら、気にもしなかったはずなのに・・・


チクチクと胸の辺りが疼く。


ショックを受けている自分に戸惑う。


私は先輩のことを、何も知らない。


大きな声で呼べば聞こえるほどの距離・・・でも遠い・・・


これが今の私と先輩の、本当の距離なのかもしれない。


ここに立つ私と先輩の間に、見えない透明の分厚い壁。


近いようで、遠い距離。


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