<出演者の一人 梅舟惟永(うめふね・ありえい)さん>

↓↓ この画像の載っているURL ↓↓

http://next-choice.com/wordpress/?paged=21


このお芝居の際の画像ではありません。

既に上記URLで公開されている画像ですので、出典

を明記して、ここに掲載させていただきました。

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今回は、「2011夏の観劇記録」のうち、


<カテゴリー 3>=舞台芸術の醍醐味が味わえるお芝居


のレビューをアップいたします。


最初に書きます。


2011年度はこの時点で10本超のお芝居を観ていますが、

6月の「IN HER TWENTIES」 と、この 「チャイムが鳴り終わ

るとき」に、私の「基準」では、文句なく「同率1位」という評価

を与えたいと考えます(^_^)v


「こういうお芝居を観ることができる人生は悪くない!」と、

柄にもなく思えてしまうほど、素晴らしい舞台でした。


逆に言えば、残された今年度、この2本を上回るお芝居に

接することができるかどうかが、次の楽しみとなりました。


では、以下、いつものフォームに従って記します。


ただし、私自身、「学校関係者」ですから、この小学校の

クラスを題材としたお芝居に対しては書きたいことが山ほ

どありまして、非常に長いレビューとなっております(苦笑)。


その点だけは、事前にお断りしておきますね。

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【No.13】←2011年度観劇の通し番号です
     ただし、観劇順とは必ずしも一致しません


【公演名:チャイムが鳴り終わるとき 】


【カンパニー名:オーストラ・マコンドー/作・荒井真紀 演出・倉本朋幸】


【観た季節:帰省渋滞がぎりぎり始まっていない日のマチネ】


【劇場名&座席】

吉祥寺シアター E列11番

最前列がB列でしたから、舞台から4列目でほぼ中央の

良い席でした。


今回のチケットは、「取り置き当日精算」でも良かったの

ですが、チケット代金を事前に銀行から振り込んだ方が、

当日精算の人よりもいい席を割り振る…と明記されてい

ましたので、面倒でしたがそうしました。


ちなみに、チケット代金は超リーズナブルな3,500円でした。


【チケット購入方法】
劇団のHPで申し込み、チケット代を振り込み、チケットは

当日受付で引き取る。


【客層】

質の高い舞台を常に提供するオーストラ・マコンドーの

お芝居だけあって、やはり演劇ファンらしき老若男女で

客席はうまっていました。


なぜそう思うかというと、お芝居の進行に伴う反応や、

その際の目のつけどころが、非常にクレバーでスムー

ズな印象を醸し出すからです。


【隣に座った人】

左隣りは中肉中背の30代男性で、右隣りは巨漢の40

代男性でした。


特に左隣りの男性は、なかなかの演劇ファンとお見受

けしました。

←上記【客層】のところの記述も、参考にしてください。


【評価】

☆☆☆☆☆
=このお芝居を観て3秒後に急死してもわが人生に悔いなし

☆☆☆☆
=同好の士に「良かったよ~」というメールを送りたくなる

の間

←評価基準に関しては、ブログ初回の記事をご参照ください


【コメント】


■まず、ストーリー等にからむ説明として


廃校となる小学校で、卒業後13年経って開催された同窓会。

今は25歳となった男性、女性が集います。


そこには、「懐かしさ」という感情を通奏低音としながらも、ビ

ミョーな空気が流れています。

肉体的な変化(太ったとか…)のみならず、その頃のヒーロ

ーの輝きの喪失とか、当時のいじめられっ子といじめっ子と

いう関係性…等々、ビミョーな空気の詳細をいちいち挙げて

いったら、まさに枚挙にいとまがありません。


子ども時代の良き思い出、賞賛を受けたり共に素晴らしい

チームワークを発揮した種々の出来事、反対に、忘れたい

思い出もあったり、各自もしくは各人同士が持つ古傷がうず

いたり、お互いの当時の記憶や認識自体に、どうやっても

一致しない齟齬(そご)が生じていたり……などなど。


そんなこんなが全てない交ぜとなったような「空間」が、こ

の同窓会を開催する教室に形成されるわけです。


ところが、この同窓会には、このクラスの担任だった先生

は出席していません。若くてイケメンで児童思いで、すごく

人気のあった青年男性教師です。

また、MJ というニックネームだった女子児童と、病弱の

母親を持ち転校生としてクラスに新たに加わった女子児

童の計二人も、姿を見せません。


その理由は何なのか?


そんな伏線を観客に呈示して、お芝居はリズム良くダイ

ナミックに、まさに息つく暇もなく展開していきます。



■至福の時間を味わうことができた理由として


・舞台上には、上手にも下手にも、あたかも混沌とした

小学校のクラスを象徴するかのごとく、あるいは、縦方

向の視点移動も重視した舞台設定を暗示させるかの

ごとく、学校椅子が螺旋状に高い空間まで括り付けら

れています。


また、下手には、贅沢なことにMOGMOSの豪起氏が

ギターを持ってずっと佇み、生演奏による音楽担当を

務めてくれました。

「生オケ」ならぬ「生ギター」の音色と感情表現は、舞

台にさらに厚みを与えます。


そんな舞台で、児童たちは各自が座る学校椅子を

自らが確保し、担任の先生の教卓の位置が自在に

変わると、その教卓に相(あい)対する位置に座る…

という、いかにも舞台らしい表現とアクションで、小学

生の騒々しいクラスの様子を再現していました。


あと、舞台空間的には、2階と3階の「バルコニー風

せり出し空間」をうまく活用して、観客にいわば縦の

視線で芝居を追う愉しみを、提供してくれました。


照明としては、SS(Stage Side Spot)が効果的に使

われ、複雑な感情が入り交じる登場人物の心の陰

影を巧みに表現しているように、私には思えました。


こういう演劇らしい表現形態と工夫は、観客を間違い

なく惹きつけますよね(*^_^*)


・お芝居の筋立てとしては、色々なエピソードが錯綜

していますが、私なりに思い切って整理してみると、


(1)

梅舟惟永(うめふね・ありえい)さん演じる女子児童

が、当初はイジメの対象であったという事実。


(2)

それが次第に、病弱の母親を持つ内気な転校生

(藤本七海さん)にイジメのターゲットが移っていっ
たという展開。


彼女は、母親の主治医からもセクハラ(というよ

り性的虐待に近い行為)を受けているという設定。


(3)

正義感が強く、付和雷同しない性格故、イケメンの

担任教師に心を開かなかった女子児童 MJ (陣野

実果という役名なのでこう呼ばれ、水崎綾女さんが

演じます…)が、次第に担任教師のファンとなる過程。


←ちなみに、「水崎綾女さん」は、「みずさき」では

なく、「みさき・あやめ」と読みます。


(4)

あんなに人気があったイケメン担任教師を、その職

を辞める決断にまで追い込んでしまった児童たちの

無邪気でありながら残忍さが滲むイタズラ。


という4つの「線」が浮かび上がってきます。


・その上で、お芝居自体のディテールを追ってゆくと、

例えば、上記(1)、(2)に記したように、イジメのターゲ

ットが「移る」ということは、現実の学校でも起こりうる

現象ですし、また、その対象となる児童は、えてして

プライベートな面でクラスメイトに秘匿したいようなこ

と(ここでは「病弱な母親の存在」…)を抱えている子

が多いことも、よく聞きます。


つまり、脚本自体に超リアリティがあります。


・上記の(3)に関して言えば、MJ は、担任の先生か

ら、「戸締まり校内巡回で一緒にまわってくれない

か…」と誘われ、二人でキレイな夕焼けを見る…と

いうような時間を共有したことで、だんだんと先生に

惹かれていきます。


また、内気な転校生がベッドに臥せる母親に対して、

「担任の先生と一緒にキレイな夕焼けを見たんだ

よ…」と、問わず語りにしゃべる場面があります。


もちろん、MJ の体験をあたかも自分の体験のよう

に語っているわけですが、これも、彼女なりのイジ

メからの「心理的逃避」かもしれませんよね。


いずれも、わざとらしさのない見事な行動描写

だと思います。

・上記の(4)に関して言えば、クラスの児童たちは、

ついに担任の青年教師に対してもイタズラの牙を

むき始めます。


この先生は、児童を楽しませる術(すべ)に長けた

優秀な青年教師なのですが、クラス内で児童に

対してどんな指示をし、どんな活動をしたのか、

そしてそれに対する児童の反応はどうだったの

か…等々、過去のクラス内での行動に関しても、

専用のノートに、詳細な記録を残す「記録魔」でし

た。


また、児童に質問攻めにあうこと(「先生、彼女い

るんですか?」の類の質問です…)を想定して、

「そういう質問に対しては、あえてここまで踏み込

んだ答え(「別れたばかりだよ…」という類の返答)

を用意しよう」などと、児童に対応する際の「戦略」

をきちんと練るタイプの先生でした。


そのいわば「秘密の日記」兼「戦略手帳」、ある意

味では「ネタ帳」とも言えるノートを、児童たちに奪

われ、クラス内で大きな声で朗読され、手ひどく嘲

笑されてしまったのです。


・無邪気さの陰に潜む児童特有の精神的残忍さが、

結局、この青年教師を教職から追いやってしまうの

ですが、こういう後味の悪いシーンばかりが舞台上

で展開されるわけではありません。


ポートボール(懐かしい球技!)に楽しく興じる児童

たち、運動会で「人間ピラミッド」をきちんと作る児童

たち、小学校の卒業式で校歌を高らかに斉唱し、

「卒業の言葉」をきちんと言い合う児童たち…等々

の、ほほえましいシーンも、きちんと織り込まれてい

ます。


そうです、子どもとは、ほほえましさと残忍さが平然

と同居する人間存在なのです!


・そういえば、「チャイムが鳴り終わるとき 」という題

名のとおり、このお芝居では、よくチャイムが鳴るの

ですが、その際、「聴き心地の良い本当のチャイム」

が鳴らされるときと、児童たちが皆、「キンコ~ンカン

コ~ン」と大声で唱和して、椅子を舞台に叩き付ける

大騒音によるチャイム表現のときとが、明瞭に区別

されていました。


これも、「かわいらしさ・ひたむきさ」と、「粗雑さ・がさ

つさ」とが同居する、児童の二面性を暗示させる演出

なのでしょうか。


・最後に、印象に残ったセリフをひとつ。


当初、イジメのターゲットだった女子児童(梅舟惟永

さん)が、いじめっ子と同窓会で再会し、いじめっ子が

当時のいじめた事実を彼女に謝った際に返した言葉。


「いじめたことを忘れなかったから許す…」。


深い言葉です。

噛みしめなければならない言葉です。


そう思いませんか?
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では、これで、


<カテゴリー 3>=舞台芸術の醍醐味が味わえるお芝居


のレビューが終わりましたので、次回は、最後のカテゴリー

となる


<カテゴリー 2>=難解なお芝居


のレビューを紹介します。


ここまで読んでくれた人は(たぶん)誰もいないような気も

しますが(苦笑)、レビューが超長文となってしまったことを

お許しくださいませ。