愛、勇気、希望―――世界が泣いた、永遠に語り継がれる物語
1985年の初演以来、ロンドンで27年間にわたり上演が続き、今なおロングラン記録を更新し続ける『レ・ミゼラブル』。世界43カ国、21カ国語に翻訳され、6000万人を超える観客を動員しているこの作品は、まぎれもなく世界で最も愛されているミュージカルの最高峰だ。本作は、その舞台の興奮と感動を、超一級のキャストとスタッフの手によって丸ごとスクリーンに封じ込めて完全映画化。舞台版をこよなく愛するファン には歓びを、舞台を見たことのない観客には驚きを、そしてすべての人々に生涯忘れられない映画体験をもたらす至高の感動作だ。原作は、文豪ヴィクトル・ユゴーが1862年に発表した大河小説。150年の時を経ても、現代の私たちにも通ずる物語は、格差と貧困にあえぐ民衆が自由を求めて立ちあがろうとしていた19世紀フランスを舞台に展開する。主人公のジャン・バルジャンは、パンを盗んだ罪で19年 間投獄された男。仮釈放されたものの生活に行き詰まった彼は、再び盗みを働くが、その罪を見逃し赦してくれた司教の真心に触れ、身も心も生まれ変わろうと 決意。マドレーヌと名前を変え、市長の地位に上り詰める。そんなバルジャンを執拗に追いかける警官のジャベール。そして、不思議な運命の糸で結ばれた薄幸 な女性ファンテーヌ。彼女から愛 娘コゼットの未来を託されたバルジャンは、ジャベールの追跡をかわしてパリへ逃亡。コゼットに限りない愛を注ぎ、父親として美しい娘に育てあげる。そんな 中、パリの下町で革命を志す学生たちが蜂起する事件が勃発し、誰もが激動の波に呑まれていく…
自分を偽る生き方を強いられながらも、人としての正しい道を模索し、波乱万丈の人生を歩むバルジャン。彼の心の旅を軸に多彩な登場人物の運 命が交錯するドラマは、絶望的な環境にあってもよりよい明日を信じ、今日を懸命に生き抜く人々の姿をリアルなまなざしで描き出す。その中心にあるのは、 様々な形で表現さ れる「真実の愛」だ。離れて暮らす娘コゼットを思いやるファンテーヌの母の愛。バルジャンがコゼットに注ぐ無償の愛。コゼットのバルジャンに寄せる無垢な 愛。コゼットと恋人マリウスの間に通い合う純愛。いくつもの愛のエピソードが、見る者の感情を揺れ動かし、忘れがたい名場面の数々を作り出していく。とり わけ胸に迫るのは、バルジャンとコゼットの血のつながりを超えた父娘の絆のエピソードだ。苦悩と葛藤に満ちたバルジャンの人生が、コゼットの存在によって 報われ、未来へとつながっていくことを物語るラストには、誰もが涙を誘われずにいられないだろう。
舞台・映画の枠を越えて、超一流のキャストとスタッフが集結し、キャストには、これ以上は望めない豪華な顔ぶれが揃った。全ての役者がオーディションを受け、役を手に入れたという。本年度アカデミー賞には8部門ノミネートされた。(作品賞、主演男優賞、助演女優賞・歌曲賞♪Suddenly、衣装デザイン賞、メイクアップ賞、美術賞、録音賞)
ジャン・バルジャンを演じるのは、『X-メ
ン』などの映画
スターであると同時にトニー賞に輝くミュージカル・スターとしても活躍するヒュー・ジャックマン。本年度アカデミー主演男優賞にもノミネートされたが、彼
自身の優しくおおらかでマッチョなイメージは、バルジャンそのもの。当たり役ともいえる納得の演技・歌唱を披露してくれる。宿敵ジャベールには、『グラ
ディエーター』のアカデミー賞スター、ラッセル・クロウ。この役は「悪役」というイメージがあったのだが、彼はジャベールを敬虔で純粋、職務に忠実で不器
用な男に作り上げ、非常に印象に残った。この役作りは繊細な演技が可能な映像だからこそ可能なアプローチなのかも知れない。コゼットには、『マンマ・ミー
ア!』のアマンダ・セイフライド。マリウスが一目惚れするのも納得の瑞々しく輝くばかりの美貌。そして、コゼットの母ファンテーヌには『プラダを着た悪
魔』のアン・
ハサウェイが扮し、見事な演技、歌唱を披露。夢やぶれた女性の張り裂けそうな想いを熱唱する。彼女の美しく大きな瞳が、語らずともファンテーヌの切ない心
情をあらわして涙を誘った。
監督は、『英国王のスピーチ』でアカデミー賞監督賞を受賞した名匠トム・フーパー。製作には、舞台版の生みの親でもあるキャメロン・マッキ
ントッシュが名をつらねている。製作陣がこだわったのは、すべての歌を実際に歌いながら、生で収録する撮影方法。役者の感情のほとばしりがそのまま歌声と
なって溢れ出し、ミュージカルならではの醍醐味と、映像だからこそ挑戦できた繊細な歌唱表現を堪能させてくれる。
スーザン・ボイルのカバーで有名になった「夢やぶれて(I Dreamed a Dream)」をはじめ、「ワン・デイ・モア(One Day More)」、歌唱でとりわけ秀逸だったのが、「オン・マイ・オウン(On
My Own)」を歌ったエポニーヌ役の22歳の新星サマンサ・バークス。天才あらわる、だ。他にも「民衆の歌(The People's Song)」など、心揺さぶる名曲ぞろいのミュージカル・ナンバーは全曲完全網羅。
生きるのが難しい時代だからこそ輝きを増す人と人の絆。誰かのために生きることの尊さ。困難に立ち向かっていく勇気と、希望を持つことの大切さ。それらを高らかに謳いあげた『レ・ミゼラブル』―
いまの私たちが心から欲し、共感できる映画がここにある。 哀しみの中を生き抜いた彼らは、希望を胸に明日へと進む
《参考資料》
映画『レ・ミゼラブル』公式サイト