作家・井上靖氏に可愛がられた淑恵ちゃん ・倉敷にがおえエレジー 25回 | 大道似顔絵描きのガチンコ人生史

大道似顔絵描きのガチンコ人生史

私は半世紀近く、大道で似顔絵を描いてきました。道路交通法やヤクザにも屈せず、今、尚、続けていられるのは次の言葉からです。

生きるというのは人に何かをもらうこと
生きていくというのはそれをかえしていくこと
by 金 玉先生 以上




⑩ 作家・井上靖氏に可愛がられた淑恵ちゃん


 「踊るアホに見るアホ、同じアホなら踊らなソンソン」


 この歌は徳島阿波踊りであり、オランダのヤン、その愛人・淑恵ちゃんに始めて会ったのはこの地であった。


 何しろこの踊りは毎年百七・八十万人訪れる大祭で、大道ニガオエ師にとって仙台七夕に次ぎ稼ぎの宝庫となっている。


 故にここにか、仙台七夕に顔を見せない大道絵師は死んだか、精神病院あるいは刑務所に収容されていると言っても過言ではない。


 また阿波踊りの情熱的テンポがリオのカーニバルに似ているせいか、外国人ヒッピーも大勢集まってくる。
 まさにメルシー、タック、プレゴ、パラカロー、バクシーシ、ニイ・ハオ、それにドウモ等などが飛び交い言葉の大雑炊だ。
 はては「エライヤッチャ、エライヤッチャ」の渦中で甘過に達していくのである。



 ここにはもう、とっくの昔にベルリンの壁は取り払われ、三十八度線も、アパルトヘイトもなく、もしダダイスト辻潤が生きていたら「これこそコスモポリニックバンクェシェットだ!」と弾むような文体で書いてくれるだろう。


 その中でも突出したコスモポリタンはいわずと知れたヤンであって、観客より貰った一升ビンを回し飲みするのである。           

 そのあげくクラッカーを鳴らし、酒を飲み干すとガチャンと路上に叩きつけ、これがドイツのポータ・アーベント式祭りの礼儀だと澄ましたものだ。


 そして突然「トラ、トラ、トラ」と叫びなから俺に抱きつき人ごみの少ない所へ連れていく。無論、淑恵ちゃんも一緒だ。

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