11、創業家一族として(3) | フォーエバー・フレンズ

11、創業家一族として(3)

工事が終了すると、突如圭一郎の携帯電話が鳴りだした。スマートフォンのモニターを見ると、『恭子』と言う文字が表示されていた。

「もしもし」

「あ、野島さん?私、今六本木ヒルズにいるんだけど、丸和工務店が大変みたいなの」

「みたいだね」

「でね、新しい社長が発表されたの。新社長は現執行役員の生稲副部長だって」

「え?そうなの?生稲さんが社長やるんだ。へえ」

「でね、役員人事の案があって、その中に野島さんの名前が入っているらしいの。常務取締役!」

「な、なんだって???」




そして家に帰ると、恭子が夕飯を作って待っていてくれた。二人っきりの幸せなひと時。しかし、今日はいつもと様子が違った。

「多分人質だな。債務保証問題だろ」

圭一郎はそう言いながら、夕飯のカレーライスを頬張った。

するとまだ仔犬の圭二郎が「ワンワン」とおねだりしてきたので、圭一郎はしぶしぶ自分のカレーライスを圭二郎に分け与えた。圭二郎はカレーライスに目が無かった。

恭子はどちらでもよかった。圭一郎が今の仕事が好きなら、それでいいと思った。

「私はどちらでもいいよ。野島さんがやりたい事やればいいんだよ」

「うん・・・」

正直言ってかなり悩んでいた。今の仕事はかなり気に入っているし、人間関係も良い。勿論やりがいだってある。それ以上に今までお世話になった優太への義理たるものすらある。

たとえ丸和のように高額な給料が貰えなくとも、自分としてはこのまま優太とともにこの会社を運営していきたいと思っている。

しかし、圭一郎が置かれた環境は、そんなに単純なものではなかった。創業家一族としての立場もある。しかも野島家の男は父以外では圭一郎ただ一人。


直行の言うとおりだった。イザとなれば創業家は表舞台に出ざる得ないものだったのだ。


するとその時、次期社長となる生稲から電話がかかってきたのだ。



「はい。野島です。はい・・・ええ・・・わかりました。はい・・・少し考えさせていただけますか。はい・・・」

電話を切ると、圭一郎はボンヤリと自宅天井を見つめた。戻りたいと思えば戻れず、戻りたくないと思えば戻れる。人生とは本当に複雑怪奇なものである。






翌日は日曜日だった。優太は朝から全社員に電話をして、今夜7時に自分の家に集まるよう号令をだした。

そして午後7時、真っ暗な大森海岸を歩くと、優太の住むアパートが姿を現す。


狭い1Kの部屋に集められた、西原開発工事のメンバー。綾乃は会議の邪魔にならぬよう台所の片隅で、じっとその様子を見守っていた。すると優太が全員に向けて話し出した。

「今日はみんな忙しいところ集まってくれてありがとう。実は今日、みんなに重大な話をしなければならない。よく聞いてくれ」

優太のその真剣そのものの口ぶりに、あたり一面には緊張感が漂う。そして、次に優太は衝撃的な言葉を発する。





「野島には辞めてもらう!」





「えええ!!!」

これには全員が驚いた。これまでの最大功労者である圭一郎を、なんと優太は解雇すると言い出したのである。

すると咄嗟に吉村が立ち上がった。そして「何故だよ?」と言って、優太を睨みつけた。

しかし、そんな吉村の反論に対しても、優太は「うるさい」の一言。

「ちゃんと理由を話せよ!ここまで野島さんがやってきたから、あんた社長って呼ばれてるんじゃないのか?ふざけんじゃねえよ!」

「うるさい!黙れ!つべこべ言うなら辞めろ!」

優太にそのような理不尽な言葉を吐かれた吉村は「はあ?」と言って、呆れたような顔をした。そして「わかったよ。辞めてやるよ。お前みたいな奴についていけるか!」と言い放って、部屋を飛び出して行った。


大人しい川崎は何も言う事が出来ず、吉村に続くように静かに部屋を出て行った。


部屋の中に取り残された、優太と綾乃と圭一郎の3名。部屋の中に嫌な空気が流れ続けた。

すると綾乃が「優太!何てこと言うの!」と言って、優太の言動を諌めようとした。しかし、優太は「黙れ、綾乃!話はそれだけだ!野島はクビだ!」と怒鳴りつけた。

しかし圭一郎は何も言わなかった。既に優太の真意を見抜いていたからだった。そして「わかりました社長。今までお世話になりました」と言い、その場で深く頭を下げた。

「ああ、早く帰れ。お前は会社の癌だからな。あ~よかった。クビが切れて。あはは」

優太そんな卑劣なセリフを吐くものの、その声はなんとなく震えていた。

「それでは帰ります・・・」

圭一郎はそう言うと、黙って優太の部屋を出て行った。すると綾乃が「待ってノンちゃん!」と行って、圭一郎を追いかけて行った。