9、秘密(1) | フォーエバー・フレンズ

9、秘密(1)

優太は綾乃を自分の部屋へと連れてきた。

「へえ、これが優太の部屋なんだ」綾乃は部屋の様子をまじまじと見つめた。

東京湾のすぐ側の1Kマンション。テーブルの上にはオートバイの雑誌が雑然と置かれ、壁には沢山のオートバイのポスター。そして小さな窓からは、雨の東京湾を見る事が出来た。

とても男臭い部屋で、部屋の中は雨のせいか、どことなく薄暗い。でも、どこか暖かみのある部屋だった。

すると「はいよ」と言って、優太はタオルを手渡した。

「ありがとう」

「どうしたんだよ。野島に何か言われたのか?」

「え?ノンちゃん?まさか。あはは!」

「何で笑うんだよ」

「だって、あのノンちゃんだよ。人を傷つけるような事は絶対に言わないよ」

「まあ、確かに・・・」


すると綾乃は、ふと窓の外の東京湾を眺めながら話し出した。

「私ね・・・小田社長の愛人だったの・・・」

「・・・」

その事は知っていたものの、優太はあえて何も言わなかった。あまり触れたくない話だった。

そして綾乃は自らのだらしなさを優太に打ち明けた。

「私、小田社長のマンションから追い出されたんだ。男関係にだらしないから・・・」

シーンとした薄暗い部屋には、窓の外から聞こえてくる雨音だけが静かに鳴り響いた。

そして語り続ける綾乃はとても寂しげだった。

「本当は小田社長の事好きじゃなかった。生活の糧みたいに思っていた。・・・そんな事思いながら、ずっと愛人生活から抜け出せなかったんだよね。見栄っ張りだし。いい暮らしもしたいし、楽がしたいし・・・でも、未来の無い恋愛ほど辛いものはないんだよね。私、25歳までこんな事ばかり繰り返してきた・・・本当バカだよね」




上手く生きようと思っても、上手く生きられない。正しい事をしなければと思っても、いつの間にか間違った生き方をしてしまう。

綾乃の人生は圭一郎の言うとおり、フラフラとあっちに行ったりこっちに行ったりで。

でも、それは時に寂しさに負け、時に苦しさに負けと言ったような、人間の悲しい性。

人間とは本来とても理不尽かつ弱い生き物である。しかし、その弱さというものに人間らしさというものが存在したりするものでもある。

弱いから、間違いを犯すから、だから人間は魅力的な光を放ったりもする。

人は機械ではない。完璧に生きる事など不可能である。欠点が多いからこそ、綾乃は何処か魅力のある女性だった。




「綾乃・・・」

綾乃は優太に、そっと抱き締められた。


大嫌いな優太だったが、抱き締められても、何故か不愉快には思わなかった。

優太の厚い胸から来る鼓動が、とても暖かく心地よく感じた。

「綾乃・・・俺はやっぱり綾乃が好きだよ。綾乃じゃなきゃダメだよ」

そう言うと優太は、綾乃の細い体をギュッと強く抱きしめた。


綾乃は抵抗もせず、そのまま優太に身を任せるようにしてしまった。そしてそのままベッドに押し倒されていくと、二人はキスをしながら抱き合った。

真っ暗な部屋に響く雨音は一段と大きくなり、やがて冬の大雨となって行った。

パチパチと窓を叩く横殴りの雨。二人はそのままお互いの鼓動を感じる程、固く抱き合った。




一夜明け、朝になっても、まだシトシトと雨が降り続いていた。

まだ眠りから覚めやらぬ優太を横目に見ると、綾乃は一人窓のそばへと歩いて行った。

窓の外に広がる夜明けの東京湾。綾乃はその光景をぼんやりと見つめた。




私はやっぱりだらしないんだ・・・ふしだらなんだ・・・。

ノンちゃんの言うとおり・・・フラフラしてるんだ。

でも・・・。

私はノンちゃんの言うとおり、優太の悪い部分しかみていなかったのかもしれない。

自分を探しに、雨の中駆け付けてきた優太。

一番大切な事。それは誰かに大切にされる事なのかも。

大切にされる事によって、その人を大切に出来るのかも。

私は自分の事をあまり大切に出来ない。

だから今の私に必要なのは、心から私を大切にしてくれる人・・・。