21、8のリストバンド(3) | フォーエバー・フレンズ

21、8のリストバンド(3)

夕景みなとみらい21 - 写真素材
(c) MM21画像素材 PIXTA


茜と恵は久々の再会を果たし、二人はランドマークタワーの外へ出て、夕暮れの海を見つめた。

「茜、ごめん・・・あんなメール送って・・・」

「いいよ。全然気にしてないよ」

恵はずっと黙っていた。

「ねえ、一体どうしたの?何かあったからあんなメール送ったんでしょ?」

「それが・・・覚えてないんだ・・・」

「酔っ払っていたんでしょ?」

恵は無言のままうなずいた。

「朝になって、自分の携帯を見たら、とんでもない事をしたと思って・・・茜になんて言っていいのかと思うと、電話にも出る事も出来なくなってしまって・・・本当にごめんなさい」

「だめじゃん。そんなにお酒ばかり飲んじゃ。それに未成年じゃん」

「わかってる・・・でも止められなくなって・・・」

「どうしてお酒を・・・」

「ずっと不眠症で悩んでいて、それで寝る前にお酒を飲むようになったの・・・それから段々お酒の量が増えてしまって・・・」

久々に会う恵は、全く元気が無かった。

「仕事が全然上手く行かないんだ・・・以前のような味が出ないの。全然駄目なんだ・・・」

恵は寂しげな顔で、ランドマークタワーの側の海を見つめた。

「恵・・・」

「私、弱いんだ・・・。仕事が上手く行かない事をお酒に逃げてるんだよ・・・」



恵は、本当は陽一への思いを忘れる為に、お酒に頼っていた。

ずっと陽一を忘れる事が出来なかった。

恵の心の中には、いつも陽一がいた。

でも、陽一を思い出す事は、恵にとって酷な事だった。

陽一は遠くに行ってしまった人間で、会いたいと思っても会う事が出来ない。

ましてや陽一が、今何処で何をしているかすらもわからない。

陽一を思い出せば思い出すほどつらくなってしまう。



その陽一は・・・。



陽一は、結局今シーズンメジャーに昇格出来なかった。

ずっと移動バスで、カリフォルニアの荒野をさまよっているようだった。

そして、ロスのダウンタウンの一角にあるアパートへと戻った。

夕暮れ時のアパートの中、陽一はベッドに腰掛けると、ガクッと肩を落とした。



恵・・・俺は間違っていた。

俺は所詮恵がいてくれるから、ここまでやれた人間なんだ。

いつのまにか自分の力に自惚れていた。

つけあがっていたんだ・・・。

甲子園で優勝できたからと言って、調子に乗っていたんだ。

俺は・・・俺は駄目な男なんだ・・・。



陽一はそんな失意の中、部屋の中の整理をした。

するとその時、棚の中にしまっていたリストバンドを見つけた。

2年前に恵が陽一へ送った『8のリストバンド』だった。

陽一はそのリストバンドを手に取ると、自分の左手に装着した。

そしてリストバンドを付けた左手をじっと見つめた。

「恵・・・」



茜はあれから一ヶ月に一回、港南学院へとやってきた。

そして通教のスクーリング授業を受け終えると、恵と一緒に遊んだ。

親友の恵を元気付けようと思ったのだ。

やがて車の免許を取った茜は軽自動車を購入し、元気の無い恵をドライブへと連れて行った。

恵は、後部座席のチャイルドーシートに座る真理の側にずっと座っていた。

「真理ちゃん」恵はあどけない真理の笑顔をみると、少しだけ癒される気持ちになり、今までの混沌としていた辛い気持ちを、少しだけ解消する事ができた。

「めー。めー」真理は笑顔で、近づく恵の顔をポンポンと叩いた。

「キャー、真理ちゃん痛いよ。あはは」

真理も早いもので、1歳になっていた。

特に女の子は喋りだすのが早く、茜の事を「ママ」恵の事を「めー」と呼んだ。