20、それぞれの道(6) | フォーエバー・フレンズ

20、それぞれの道(6)

鶴岡八幡宮を去ると、二人は陽一の家へと向かった。

そして部屋に入ると、恵はこの部屋での思い出を思い出した。

最初は陽一が突然「遊びに来ないか」と言って、誘ったのが始まりだった。

やがて恵の料理研究所となり、陽一の母親の存在を感じながら黙々と料理の研究をしていた。

そしていつの間にか我が家のように使っていた。

恵は寂しい気持ちになった。

「ねえ陽一、この部屋引き払っちゃうの?」

「いや、残しとく。一応は俺の故郷になるからさ」

「そうなの?」

「ああ、いつ帰ってこれるかわからないけどさ・・・」

陽一はそう言うと、寂しそうに部屋を見回した。

そして「よかったら勝手に使ってもいいぞ」と恵に言った。

「ううん。やめとく。カギもポストに置いていくよ」

部屋に入って、会えない陽一の事を思い出すと、つらくなりそうに思った。

そして心の中で陽一のお母さんに語りかけた。



お母さん・・・。

今まで一緒に料理が出来て、本当に楽しかったです。

着物も貸してくれて、本当に有難うございました。

おかげで私は、この春会席料理の名店に就職する事ができました。

でもお母さん。

私がこの家に来るのも、これで最後です。

陽一の事を忘れます・・・。

ごめんなさい・・・。

私が弱いんです。

今日は泊まって、明日の朝には帰ります。

今まで本当に有難うございました。



陽一と恵の二人は、夜遅くまで今までの思い出話をして楽しんだ。

そして二人は話し疲れて、夜更けすぎに眠りについた。



翌朝、まだ暗い中恵は一人台所に立って、朝食を作っていた。

目から涙が込み上げてきたが、懸命に涙をこらえながら笑顔を作った。

それでも、涙がポロポロと溢れてくる。

恵の心の中には、陽一と出会った頃からの思い出がいろいろと思い出されてきた。

しかし涙を拭いながら、恵は笑顔で朝食を作り続けた。



そして、陽一への沢山の愛情を込めて朝食を作った。



朝食を作り終えると、恵は静かに寝室へと入って行き、まだ眠りから覚めない陽一の顔を見つめた。

「陽一・・・元気でね・・・」

恵はそうつぶやくと、ベッドで気持ちよさそうに眠る陽一にキスをした。



そして陽一との思い出のこの部屋を去って行った。



恵が去った足跡のように、テーブルの上には朝食が並べられていた。

そしてその朝食の横に、一枚のメモ。



『陽一、元気でね。アメリカでも頑張ってね』



恵は部屋を出ると、ポストの中に部屋のカギを入れた。

そしてマンションの外へ出ると、今までこらえていた大粒の涙が一気に溢れ出した。

恵は夜明けの大船の街を、泣きながら歩いて家に帰っていった。



その日の午後、陽一は成田空港からロサンゼルスへと飛んだ。

そして恵は、布団の中に潜り込んで一日中泣き続けた。




二人の夢のような恋は終わった・・・。


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(c) takaストック写真 PIXTA