20、それぞれの道(5) | フォーエバー・フレンズ

20、それぞれの道(5)

陽一は、前キャプテンの速見のように、決して人望があったわけではない。

どちらかといえば、嫌われるキャプテンだった。

何かと言えば陰口を叩かれ、なにかと言えば「陽一が悪い」と批判されていた。

それは、単刀直入に意見を言うドライな性格が原因だった。

しかし、陽一は部員達から嫌われながらも、一人一人の人生に道標をしていった。

あの時陽一と出会わなければ、この部員達の人生はどうなっていただろう?

好かれるだけが良いとは限らない。

優しいだけが良いとも限らない。

本当の優しさとは、優しい言葉をベチャクチャと並べる事でなく、自らを悪役にして、その人に正しい道標をする事である。


そして最後に、仁科先生がみんなに語りかけた。

「卒業おめでとう。みんなこれからも頑張ってね。私はこれまでみんなから一杯力をもらった。徳永君、私に野球部の顧問をやってくれないか?って言ってくれたよね。あの時顧問を引き受けてから、私の人生って変わったと思うんだ。自分の仕事に誇りをもてるようになったの。それは間違いなくみんなのおかげ。私、みんなに本当に感謝してる。人生って何が起るか分からないのよ。人と人との出会いが人生を変える事もあるのよ。だから・・・これからもみんな人との出会いは大切にして欲しい・・・。そしてみんなこれからも頑張ってね」

しばらく全部員がシーンとなった。

真は突然「先生、今の話アドリブじゃないだろ?」と言った。

「そっ・・・そんな事ないよ」

すると真は一枚の紙切れを仁科先生に見せた。

「あっ!それ・・・」

「部室に落ちていたんだ。今のセリフが全て書かれてるよ」

「しまった!」

「先生、クロだな。こんな事だから、いつまでたっても契約教諭なんだよ」

真の言葉に全員が大爆笑した。

すると仁科先生は「契約でもいいの。私は夢見る契約教諭。これからもみんなの為に野球部を守るぞ!」と言って手を高々と上げた。

仁科先生も陽一から道しるべを受けた一人だった。


そして最後、仁科先生と野球部の下級生達に見送られながら、4人はグラウンドを後にした。


陽一はロサンゼルス・ドジャース

真は阪神タイガース

文麿は慶應義塾大学

司は横浜国立大学

4人はそれぞれの道へと旅立っていった。


送別会を終えた陽一は、恵と鶴岡八幡宮で待ち合わせていた。

明日はいよいよ陽一がアメリカへと旅立つ日だ。

いよいよ別れの時がやってきた。

「いよいよ行っちゃうんだよね」

「ああ、明日の午後の成田発の飛行機で行くよ」

「私、見送りしないけどいいかな?悲しくなって泣くかもしれないから」

「わかったよ・・・」

「もうこれ以上陽一の前で泣きたくないの」

そう言うと、鶴岡八幡宮の階段を、二人で登っていった。

そして天辺にたどり着くと、春の鎌倉の町を見渡した。

二人はしばらく黙っていたが、恵が空を見上げて話し出した。

「私、陽一と巡り合えて本当によかったと思う。陽一がいたから私は沢山の夢を見る事が出来た。陽一がいたから料理と言う道を見つける事ができた。陽一がいたから楽しい高校生活を送れたんだ」

陽一は恵の顔を黙って見つめた。

「陽一がいなければ私、きっとつまらない高校生活で終わっていたと思う。陽一、本当に有難う。本当に楽しかった」

「俺も、恵と出会わなければ、もう一度野球を始めようとは思わなかったと思う。恵がいてくれたから、なんとかここまでやれたと思う。恵、ありがとう」