20、それぞれの道(1) | フォーエバー・フレンズ

20、それぞれの道(1)

合格発表 - 写真素材
(c) YsPhoto写真素材 PIXTA


陽一にとって司との出会いは、彼の野球に対する考えを大きく変えるものであった。

仙台学園時代は、監督に多少の疑問を持ちながらも、イエスマンを貫いていた。

しかし港南学院に編入してきた陽一は、司の奇抜な発想に感化され、この港南学院野球部へ工学的理論を徹底的に取り入れていった。

まさに頭脳の司と行動力の陽一のタッグであった。

司は、野球経験が浅く、子供の頃から野球をやっている者と違って、長年の固定観念というものが全く無かった。

だから司は自由な発想で野球を見る事ができた。

しかし司は決して野球の上手い人間ではなく、その為に周囲からは「野球が下手なクセして、偉そうに」とまで言われていた。

そして真と文麿はそんな司の反抗分子の筆頭目だった。

しかしそんな敵の多い司を、陽一は大抜擢したのだ。

彼の奇抜な戦術こそが、勝利への道だと確信していたからである。

そして陽一と司のコンビは、まわりのあらゆる不満を押しのけ、徹底的な工学的野球を展開し、やがてはたった3人の野球同好会だった港南学院高校を、強豪校と言われるまでにのし上げて行ったのである。



その影の立役者は、間違いなく司である。



「やったー!司やったじゃん!」

「やった!あった!あった!合格だ!」

「司、おめでとう」

「由香ちゃん、ありがとう」

由香子と司は、合格者の名前を確認すると手を取りあって喜んだ。

本日は横浜国立大学の合格発表日。

野球部屈指の頭脳派で陽一の作戦参謀でもある司は、仁科先生の出身校の横浜国立大学に見事合格したのだ。

そして春から、工学を志す事となる。

「ねえ司」

「何?」

「司は将来何になりたいの?」

「う~ん・・・プロ野球のコーチになりたいなあ・・・」

「えっ?マジで?」

「出来ればの話だよ」

「そんなの無理じゃん」

「わかんないよ。ひょっとして徳永君が何十年後かに監督になったとしたら、僕をコーチとして雇ってくれるかもしれないよ」

「そんな馬鹿な」

由香子は全く現実離れした話だと思って聞いていたが、司はひょっとしてという期待も込めて言った。

人生とはどうなるかわからない。

陽一が編入してこなければ、司はただの野球オタクとして終わっていただろう。

これからの人生もひょっとして何らかの出来事があるかもしれない。



陽一は2月、キャンプの為にアメリカのフロリダへと行った。

その間、メジャーリーグというものをしっかりと体感してきた。

まさにこれから始まるメジャードリームに、胸を躍らせた。



そして3月の初旬に、陽一はアメリカから帰ってきた。

恵は陽一の帰りが嬉しくて、大船駅まで迎えにいった。

「おかえり、陽一」

「ただいま」

「真っ黒じゃん」

フロリダの日差しを浴びた陽一は、真っ黒に日焼けをして帰ってきた。

「どうだった?キャンプは楽しかった?」

「楽しくないよ。ずっと練習だよ」

「やっぱりキツイ?」

「いや、そんな事ないよ。練習メニューは結構楽だったよ」

「そうなの?遠山君はヘトヘトになって帰ってきたらしいよ。茜が言ってた」

「日本のキャンプはハードらしいな。メジャーでは出来る選手は自主トレをしっかりとやるんだよ。球団が1から10まで練習メニューを組んでくれるんじゃなくて、自分の意思で練習メニューを組むんだよ。その点は日本球界とは違うのかな」

「へえ、そうなんだ」

「俺もメニューが終わると、何処にも遊びに行かずにひたすら練習してたよ」陽一はそういいながら、笑った。

そして「そうだ恵、旅行に行こうよ」と言った。

「旅行?」

「卒業旅行だよ」

「卒業旅行?行きたい!ねえ何処に行くの?」

すると陽一は、旅行のパンフレットを恵に見せた。



『下呂温泉 飛騨高山 2泊3日の旅』



「下呂?下呂って何処にあるの?」

「岐阜県だよ。新幹線で名古屋まで行ってさ、それから特急に乗って行くんだよ」

「行く!私、新幹線に乗ってみたい」

恵は一つ返事で、OKした。