18、ドラフト会議(4) | フォーエバー・フレンズ

18、ドラフト会議(4)

庭園 日本庭園 和 紅葉  - 写真素材
(c) あずきん写真素材 PIXTA


翌日の夕方、恵は一人で横浜の会席料理の名店『蕪』を訪れた。

美しい和の趣のある玄関の引き戸を開けると、そこには壮大な日本庭園が広がっていた。

「すごい・・・」

そして日本庭園をみながら歩いていくと、北山料理長が店の玄関先で恵を出迎えてくれた。

そして恵は客間の一室に通された。

素晴らしく美しい日本庭園の見える客室に、恵は驚いた。

「きれい・・・」

「蕪は100年の歴史のある店で、各界の著名人もやってくる。そして誰もがこの蕪に満足をして帰ってくれる。それは決して味だけの満足ではなく、この美しい客室と丁寧なおもてなしにも満足していただいているんだよ。それが心からの満足と言うものだ」

「そうですか・・・凄いんですね」

「ところで山野さん、今日は例の件の返事をしに来てくれたんだろ?」

「はい・・・そうです・・・」

「どうかな?」

「是非働かせて下さい。一生懸命に頑張ります」

「そうか。じゃあ4月から、ウチの店に来てくれるんだな」北山料理長は嬉しそうに笑みを浮かべてそう言った。

「はい。宜しくお願いします」

「勤務先は、横浜ランドマークとさせてもらうけど、いいかな?」

「はい、大丈夫です」

「料理の世界は大変厳しいが、とてもやりがいのある仕事だ。がんばってくれ」

「はい。頑張ります」

蕪を後にした恵は、横浜の町を一人歩いた。

そして空を見上げて「さよなら・・・陽一・・・」と小さな声で言った。

その表情は、物凄く寂しげで今にも泣き出しそうだった。



ドラフト会議当日の朝、茜は玄関先で真を見送った。

茜は11月から産休に入り、今は自宅で家事のみを行っていた。

やれることは全てやった。

そして今日プロ野球のドラフト会議の日を迎えたのだ。

「茜、ここまでやってくれて指名されなかったら、その時はごめんな。それは俺の力不足だと思ってくれ」

「いいよ。真もやれるだけやったんだから、もしそうなっても後悔はしない」

「まあ、あまり期待はしないでくれよ。社会人も大学生もいるから、もし指名されたとしても、5位か6位での指名だと思うからさ・・・」

「それでいいよ。真の好きな事が出来れば、私はそれでいいよ」

「茜・・・本当にありがとう」

「それは指名されてから言ってよ。さあ、早く学校に行きなよ」

「ああ、じゃあな」

「うん、いってらっしゃい」

茜はそう言うと、扉を閉めようとした。

すると真が再び戻ってきた。

「どうしたの?」

すると真は少し笑って、茜にいきなりキスをした。

そして「じゃあな」と行って、走って行った。

茜は、真の走り行く後姿を見つめて微笑んだ。



東京の赤坂プリンスホテルでは、プロ野球ドラフト会議が開催されていた。

そして各球団の監督や球団幹部が、テーブルの席に座っていた。

これから始まるドラフト会議にあたりは緊張した空気が漂っていた。

茜はこれから始まるドラフト会議の中継を、緊張した様子で見ていた。

「どうか指名されますように」茜は両手をしっかりと組んで、祈った。



「第一回指名選択希望選手 読売」

司会者がそう言うと、巨人の掲示板に指名選手の名前が映し出された。

「篠宮太一 18歳 投手 淀商高校」

なんと篠宮は、巨人に一位指名を受けた。



「第一回指名選択希望選手 福岡ソフトバンク・・・前原大治 17歳 内野手 仙台学園高校」



「第一回指名選択希望選手 横浜 堀場康平 18歳 内野手 仙台学園高校」

堀場は、横浜ベイスターズに一位指名をされた。



「第一回指名選択希望選手 北海道日本ハム マルティネス・沢尻・海飛 18歳 投手 湘陽大付属高校」

港南学院と神奈川県の決勝で戦った沢尻は、日ハムに指名を受けた。



そしていよいよ阪神の出番がやってきた。

「神様・・・」茜の緊張はピークに達していた。



「第一回指名選択希望選手 阪神」

そして、阪神の掲示板の色がパッと変わった。

「遠山真 18歳 外野手 港南学院高校」

なんと真は、阪神タイガースから一位指名を受けたのだ。

どの球団も指名するつもりの無かった真の一位指名に、場内は少しざわついた。



「真!やったあ!」茜はテレビを見ながら、ガッツポーズをした。

真は茜に、よくて5位か6位の指名と言っていたが、阪神タイガースの出した結論はなんと堂々の1位指名だったのである。