18、ドラフト会議(3) | フォーエバー・フレンズ

18、ドラフト会議(3)

2時間目の休み時間、恵は陽一のところへと行った。

「陽一・・・話したい事があるんだ」

「なんだよ?」

「今日の夜の8時に、ヴェルニー公園に来て欲しいんだ・・・」

陽一はしばらく黙り込むと、ゆっくりとうなずいた。

恵も精一杯考えた。

しかし、どうしても陽一の考えと自分の考えに、共通点を見出せなかった。

恵はそんな二人の道に最終結論を出そうと思っていたのだ。



その日の晩、陽一と恵は約束どおりヴェルニー公園で会った。

そして二人は、隣り合わせにベンチに座った。

「陽一、もう決めたんだよね。どうしてもアメリカに行くんだよね」恵は晩秋の夜空を見ながら、寂しそうにそう言った。

「恵ごめん・・・どうしても俺は、メジャーへ行きたいんだ・・・」

「そうだよね・・・もう私がいくらお願いしても、無理だと思っている・・・わかってるよ・・・」

恵はうっすらと目に涙を浮かべた。

そして「陽一・・・私、あれからいろいろと考えたんだけど、やっぱりアメリカにはついていけない・・・ごめんね・・・」

「そうか・・・」

「それでね・・・私4月から『蕪』に就職しようと思うんだ。私はこの町で暮らす・・・そして大好きな料理の仕事をする」

陽一は何も語らずに、ずっと横須賀軍港を見続けた。

恵はこらえていた涙を、流した。

「陽一・・・もう私がいなくても大丈夫だよね・・・」

「恵・・・」

「これからは一人で全部できるよね・・・」恵は涙が止まらなくなった。

そして「私・・・陽一の事だけを思って生きてきた・・・。陽一は私の全て・・・でも私、陽一がいなくなってしまう事が耐えられないんだ・・・そんなに強くないんだ」

陽一は何も言葉が出ずに、ただただ横須賀の軍港を見つめた。

恵は涙ながらに「別れようか・・・」と言った。

そして「私、陽一の事が大好きだけど、陽一は春にはいなくなっちゃうんだもん・・・そんなの耐えられないよ・・・いっその事、今のうちに陽一をきっぱりと忘れた方が楽だよ・・・陽一にとってもその方がいいよ・・・アメリカで新しい彼女見つけて・・・」と時折涙を拭きながら、そう言った。

「陽一、ごめんね・・・今まで本当に楽しかった・・・本当に有難う・・・」

そう言うと恵は、ヴェルニー公園を走り去っていった。

そして溢れんばかりに涙を流しながら、横須賀駅の方へと走っていった。

陽一は、結局何も言葉が出なかった。

恵を好きな気持ちは変わらない。

だけど、陽一はどうしてもメジャーリーグに行きたかった。

結局陽一は、恵を追いかける事も出来ずに、その場に立ちすくんだ。



ごめんね・・・

私にアメリカに行く勇気がないばかりに・・・

陽一、ごめんね・・・



冷めることもなかった二人の愛は、今ここで終止符が打たれた。

11月初旬・・・。

晩秋の夜空の下、陽一とのつらい別れに恵は一人泣き続けた。


公園 ヴェルニー公園 夜景  - 写真素材
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