6、初めての挫折(2) | フォーエバー・フレンズ

6、初めての挫折(2)

これで全ての練習が始まった。

それを見た校長が、古屋監督の元へとやってきたが、古屋監督は忙しそうにメモ帳片手に全選手を見ていた。

「古屋監督さすがですね」校長がそう言って絶賛したが、古屋監督は冷静だった。

「多分、半分も残りませんよ」



1時間も経たない内に、真が先頭を切って帰ってきた。

真は速見と肩を並べる程、長距離が得意だった。

そしてそれに続いて陽一と、慎太郎も帰ってきた。

しかしグラウンドは満員だった。

それを見た古屋監督が「外野手全員帰ってくるまで、筋トレでもやっといてくれ」と言った。すると3人は何食わぬ顔で、トレーニングルームへと向かっていった。

それを見て、ノックを受けていた新入生の表情が曇った。

この時間内に15キロも走ってきて、何食わぬ顔して筋トレに行くなんて信じられなかった。



そして内野手達はその後、観音崎公園まで走らされた。

それに変わって、15キロの道のりを帰ってきた外野手達には、地獄のノックが待ち受けていた。



結局その日の練習は夜9時までかかった。

選手達全員がロードワークから帰ってきたのが、夜9時だったからだ。

選手が帰ってくる間、レギュラーメンバーは今日出来なかったバッティング練習を行っていた。

三浦海岸駅へ行った選手は、駅員からレンゲの花を受け取り、それと引き換えに部室への入室を許された。

古屋監督は全員が帰ってくるのを確認すると「明日もこのメニューだ。早く帰って来れない者は、いつまでもピッチング練習ができないからな。最低6時までには帰って来い」と言った。

新入生達の大半が、この時点で甲子園への夢を捨てた。



その夜、古屋監督は自宅でウイスキーを飲みながら、キャッチャー希望者達のレポートを読んでいた。

どれもこれも酷い内容だった。

しかも名前の書き忘れも多く、古屋監督は面食らった。

その中で一枚のレポートを見つけた。



「キャッチャーとは何か」 山野淳紀



 僕は体が小さい為、中学校の監督から何度もキャッチャーを諦めるように言われましたが、キャッチャーが好きな為に、今日まで続けてきました。

何故なら、キャッチャーというポジションは試合の流れだけでなく勝負を決める一球を確認できる唯一のポジションだからです。

しかし肩が弱いというコンプレックスがいつもありました。

肩が弱い者はキャッチャー失格だとも思っていました。



最近一つの考えを持つようになりました。

それは、肩の弱さは、捕ってから送球するまでのスピードを上げれば十分に補えると言う事です。

なので僕は、ノーステップのスローイングの練習をこの冬に徹底的に練習しました。

それにキャッチャーにとって一番大切な事は、盗塁を刺す事だけではないと思います。

ピッチャーのその日の良い所を最大限に引き出す事です。

それは相手との駆け引きも大切になります。

その為には、相手を知る研究もしなければなりません。



だけど、そこまで努力しても、キャッチャーは目立ちません。

周りからみれば地味です。

キャッチャーとは、影の立役者としての心を持てる事なのではないかなと思います。



古屋監督はこの淳紀の作文が気に入った。



数日後、港南学院の野球部に平穏が取り戻された。

結局、1年生125人の内、残ったのはたった19人だったからだ。

しかし、なんと淳紀はこの19人の内に残ったのだ。

キャッチャー希望者は『高瀬川俊介』と『山野淳紀』のみとなった。

しかしライバルの俊介は、中学時代全国大会まで行った名捕手で、バッティングもいい。

体は陽一や真と引けおとらない大きさで、物凄い強肩である。

淳紀はこんな強敵とレギュラー争いをする事となったのだ。



部室では、マネージャーの面接試験が行われていた。

司は迷っていたのだ。

文麿から「絶対に可愛い奴入れろよ」と言われ、由香子からは「私よりブスを選んで」と言われていたからだ。

司は完全にサンドイッチ状態だった。



なんだよ二人とも・・・

顔、顔って・・・

いい加減にしろよ。



面接を終えると、司は道具の買出しの為、汐入駅前のイワサキスポーツへと向かった。

すると店内に、恵がいて驚いた。

「恵ちゃん!」

「司くん」

「恵ちゃん、どうしたの?スポーツ店なんて珍しいじゃん」

「うん・・・弟にグローブ買ってあげたくて、立ち寄ったんだけど・・・高くて・・・キャッチャーミットって3万円もするんだね」

「まあ、お古が一杯あるからさ。しばらくの間それ使えばいいよ。淳紀君厳しい練習に耐えて残ったもんなあ・・・。本当よく頑張ってるよ」

どうだか・・・。やっぱりツライと言って辞めちゃうかもしれないし・・・」


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