5、春の合宿(1) | フォーエバー・フレンズ

5、春の合宿(1)

恵は、あのクリスマスパーティーで、料理を野球部員に美味しいと言って食べてもらった為、それから料理に興味を持ち出していた。



そうだ・・・。

嬉しくはないけど、今だってハンバーグマスターって呼ばれてるじゃん。

ひょっとして料理は私の天職かもしれない。

でも料理と言っても、いろいろあるし・・・。

何の料理が私には向いてるんだろう?



2月も終盤に差し掛かった。

陽一と恵はそれぞれ部活、バイトを終えると、いつものように一緒に帰っていた。

「えっ?料理の練習?」

陽一は突然の恵のお願いに、少し戸惑った。

「うん。料理の練習したいから、土曜日陽一の家の台所貸して欲しいんだ」

「なんで料理の練習するんだよ?」

「私、料理の道に進んでみたいと思ってるんだ・・・。でも家だとお母さんの邪魔になるし、それに陽一の家の方が道具が整ってるし・・・」

「いいよ、勝手に使ってくれて」

「有難う。作ったご飯は、陽一が食べてもいいからね」

すると陽一は含み笑いをしだした。

「陽一、どうしたの?」

「実はさ・・・俺土曜日、恵の家に行くんだよ」

「えっ!私んち?どうして?」

「淳紀から、メールが来たんだ」と言って、恵に淳紀からのメールを見せた。



『徳永さんへ 毎日マスコットバットで500回素振りしてます。おかげで手はマメだらけ(笑)ちなみに入試は合格できましたので、4月から宜しくおねがいします』



「あいつ・・・いつの間に・・・」恵は淳紀のメールを見てそう言うと、陽一は「このメールをみると、淳紀は間違った努力をしてると思ってそれをメールしたら、野球を教えて欲しいって言ってきたんだよ」と言った。

陽一はなんとなく淳紀の事が気になっていたのだ。

「好きにして。大体淳紀がレギュラーになれるわけないじゃん」

「そんな事わかんないよ」



土曜日の午前、既に陽一の家の鍵を預かっている恵は、誰もいない陽一の部屋へと入っていった。

すると「恵ちゃん、いらっしゃい」という女性のかすかな声が恵の心の中に聞えた。

だが、恵は何故かそのかすかな声に恐い気持ちになれず、そのまま部屋の中へと入って行った。

窓から光りの差す、明るい部屋で部屋の掃除をしていたら、本棚に一枚の中年の女性の写真を見つけた。

その写真を見て恵は、瞬時に陽一の母親だとわかった。

陽一に似て、とても美系な女性だったからである。



綺麗な人・・・



恵はその写真に「始めまして。山野恵といいます。宜しくお願いします」と言って一礼をした。



恵は掃除が終わると台所に立って、料理本やパソコンを見ながら料理を作り始めた。

そして一人黙々と料理を作っていると、なんとなく人の気配を感じた。

その人の気配は、お化けのような怖い気配ではなく、一緒にいるととても心地よい気持ちになる人の気配だった。

その気配を感じた恵は、とても暖かい気持ちになり、咄嗟に「陽一のお母さんがいるんだ・・・」と思った。

そして本棚の陽一の母親の写真を、キッチンのところまで持ってくると「お母さん、見ててくださいね」と言い、再び料理を作り続けた。

まるで陽一の母親に料理を教えてもらっている気持ちになり、自然と笑みがこぼれてきた。

陽一の家の調理器具は、亡くなった陽一の母が生前使っていたもので、誰も使わずに放置されていた。

そして1年半の月日が流れ、その陽一の母の遺した料理器具は、今陽一の彼女の恵が再び使う事となった。



お母さんも料理が好きなんですね。

一緒に料理の勉強付き合ってくださいね。



そんな事を思いながら、昼下がりの陽一の家の台所で、ひたすら料理の勉強に打ち込んでいた。


写真素材 PIXTA
(c) jun_f写真素材 PIXTA

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