4、本当の気持ち(1)
港南学院には、野球部の取材の為に、連日報道関係者がやってくる。
そしてその報道関係者達は、恵や茜の存在を知っていた。
だからと言って、未成年の彼女達を追いかけるような事はせず、暖かく見守っているような感じだった。
たまに報道関係者から「恵ちゃん」と言って声を掛けられるものの「ど・・・どうも」と言って恵は去って行く。
そんな姿をみて、報道関係者は微笑ましい気持ちになっていた。
もちろん港南学院の生徒や先生もその事は知っていた。
しかし、『自由』悪く言えば『ほったらかし主義』の港南学院で、その事が話題になる事もなかった。
しかし茜の学校は、そんな環境ではなかった。
100年の歴史がある、厳格なカトリック系のお嬢様学校、横須賀女子高は『男女交際禁止』という校則があったのだ。
始めは生徒の中で真と茜の交際の噂が広まり、真が甲子園に出場した事でこの事がだんだんと表面化してきたのである。
そして横須賀女子高の校長達が、2学期始めにも行動を起こそうとしていた。
冬休みが終わろうとしていたある日、バイト先の休憩室で、茜は珍しく恵に相談してきた。
「えっ?遠山君と連絡がつかない?」
「うん」茜は寂しげにうなずいた。
「ママに、もう付きまとうなと言われて、そのままいなくなってしまって・・・」
「あさってから学校始まるから、遠山君に言ってこようか?」
「うん・・・連絡だけでも取りたいんだ」
「わかった」
2時間目の休み時間に、恵は真の2ーF組の教室へ行った。
しかし真は最初取り合おうとしなかった。
「山野に関係ねえだろ」
「関係なくないよ。茜が心配してるじゃん。連絡ぐらいしてあげてよ」
「うるせえな」
「連絡だけでもしてあげてって言ってるの。後のことは、私口挟まないから」
「わかった、わかった、放課後にするよ」真は面倒くさそうに言った。
「遠山君、約束だよ」
真は別に茜への思いが冷めてしまったわけではなかった。
自分がどうしていいかわからなかったのだ。
茜の事が好きだが、茜の立場というのもある。
真はそんな事をずっと考えていた。
だが放課後、港南学院高校に突然二人のシスターがやってきた。
横須賀女子高の校長と教頭だった。
シスターの二人は、そのまま校長室へと通され、その二人を校長と野球部顧問の仁科先生が応対する事となった。
そして討論となった。
「お宅の生徒へ、我高の生徒に付きまとわないよう指導してください」と横須賀女子高の校長先生がそう言うと「そんな事は当人達の自由でしょう?学校がタッチするわけにはいかない」と言って港南学院の校長は反論した。
「困ります。我校は男女交際禁止です。厳格なカトリック校として100年の歴史があるのです」
「そんなのは人権侵害でしょ」
「伝統です」
二人の話しの溝は、埋まらなかった。
港南学院の校長は『自由と人権』を主張し、かたやスカジョの校長は『伝統と宗教』を主張する為、最初からまったく話しがかみ合わなかった。
そして仁科先生が「あの・・・遠山君はとてもいい子なんです。甲子園にも行きました。なんとか二人を暖かく見守ってあげられないでしょうか?」と言い出した。
すると横須賀女子の教頭は「とんでもありません!こんな学校の生徒なんかと!」とわめいた。
その言葉を聞いた仁科先生は、完全に頭に血が上り「こんな学校とはなんですか!みんな立派な生徒です!」と言って怒りを露にした。
「先生、よしなさい」校長が仁科先生をなだめた。
そして校長は「わかりました。当人には、伝えます。しかし我校として強制はできません」と言った。
すると横須賀女子の校長は「我校でも、今当人を呼んでおります。もし男女交際を止めなければ退学処分にしますので」
「退学処分???」校長と仁科先生はこれには驚いた。
そんな事で退学処分にするなんて・・・。
そして時同じくして、横須賀女子高の生活指導室では茜が呼び出しをされ、生活指導の女性教師5人に吊るし上げを食らっていた。
「禁止されているアルバイトをやって、男女交際までして・・・大島さん!一体何考えているの!」
「すみません・・・」
「アルバイトは辞めなさい。そして港南学院の生徒とも別れる事」
「ちょ・・・ちょっと待ってください。アルバイトは辞めます。でも・・・彼と別れる事は無理です。許してください・・・」
「駄目です。アルバイトをした事で二週間の停学処分とします。その間に結論を出しなさい」
「結論?」
「つまり学校を取るか、恋愛を取るか、どちらかにしなさいという事です」
その言葉を聞いて、茜は思わず下を向いた。
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