14、責任とは(3) | フォーエバー・フレンズ

14、責任とは(3)

文麿はやっとの思いで、由香子の両親に会えた。

だが由香子とは会わないという約束で、家の1階の居間に上げてもらったのだ。

居間のテーブルの上には、アルバムから取り出してきた由香子の幼き頃からの写真が並べられていた。

そしてその横に土下座したまま顔を上げない文麿がいた。

その文麿に対し、由香子の父の言葉は容赦なかった「私は娘の事を本当にかわいがってきた。その娘を歩けなくされた親の気持ちなんてわからんだろう」

文麿は顔を上げなかった。

「顔を上げなさい。別に君に頭なんて下げてもらいたくない。君が頭を下げれば、由香子は歩けるようになるのか?」

文麿は由香子の父の言葉を真摯に受けとめた。



そうだ、俺は何をしているんだ。ただ単に頭を下げて何が解決するんだ。

謝る事なんて、誰でも出来るんだ。

俺は自分のやってしまった事に対して、何ができるんだ



「帰りなさい。由香子とも会わないでくれ。君に責任なんて取れっこない」

そういって由香子の父親は席を立った。

「まっ、待ってください!」そう言うと文麿は突然顔を上げた。

そして「俺、学校辞めて働きます。その働いたお金で、罪を償います!」と言った。

由香子の父親は振り返らなかった。



そしてマスコミの攻撃は更にエスカレートしていった。

『港南学院、3年前と変わらぬ体質』『勝てばいいと思っている教育』と事実無根の記事を書いてきたのである。

司は「くそ!」と言って、その週刊誌を部室の床に投げ捨てた。

「そんなもん買って読むなよ」と真は司の行動に物言いをした。

正論だった。

これから練習をはじめようかと思っているのに、部員のモチベーションは全くあがらない。

すると校長先生が部室に入ってきた。

突然の校長の来室に、陽一をはじめとする全部員は黙り込んでいた。

「え~・・・」と校長は切り出した。

「まず、マスコミが相当騒いでいるのは、もう知っているな。そして今日連盟から説明を求められた」

全部員は校長に注目した。

「一ノ瀬君当人は校則を破った事により、停学2週間の処分にした。だが、彼は法律を破ったわけではない。しかも事故は相手側にも過失があり、全てが一ノ瀬君の責任ではない。よって私は、連盟に情状酌量を求めた」

陽一は「で、連盟は何と言ってるんですか?」と校長に聞いた。

すると校長はうんとうなずいて「連盟としては処分しない方針だ。しかし世間を騒がせた事は事実だ。よって何らかのケジメをつけろと言って来た」と言った。

「ケジメって何だよ」と真が質問すると、校長はしばらく黙っていた。

そして「つまり自主的に誠意のある事をしろという事だ」と言った。

「冗談じゃない!こんな適当な記事を書い世間を騒がせただと!騒がせてるのは、この記事書いてる奴らじゃねえか!」真は最近にしては珍しくキレた。

だが校長は落ち着いた表情で「実は、この間仁科先生が辞めると言ってきた」と言った。

校長の言葉に一同騒然となった。

「校長先生、それは学校を辞めるという事ですか?」と陽一が聞くと、校長は何も言わずうなずいた。

「そしてもう一人一ノ瀬君が今日、退学すると学校に連絡してきた

「一ノ瀬が・・・」陽一はボーゼンとなった。

「連盟に対しては、これで顔が立つだろう。しかし君達は本当にこれでいいと思うか?」

校長はそう言って部室を後にした。



恵はバイトが休みだったので、学校が終ると仁科先生の自宅へ行っ

だが仁科先生の部屋のチャイムを何回鳴らしても、誰も出てこない。

「留守かあ」といって、ワンルームマンションの廊下から見える横浜の町を見つめた。

すると「山野さん・・・」という声が聞こえた。

振り返ると仁科先生はエコバックを下げて廊下に立っていた。

買い物に行っていたのだ。



恵は仁科先生の部屋に入れてもらい、コーヒーをご馳走になった。

「そう・・・山野さんの直感は鋭いのね」と言って仁科先生は笑った。

「先生、こんな事で辞めないで」

すると仁科先生は何か吹っ切れたような表情で、首を横に振った。

「先生は、教師としての義務を怠ったの。だから大人として責任をとるの。一ノ瀬君がバイクに乗っていた事、先生知っていたんだ」

「でも!」と恵は言うと「私あの時一ノ瀬君に、バイク乗っちゃだめとしか言わなかった。バイクを取り上げるとか、生活指導室に言うのが、教師としての義務。私がそれを怠ったから、手嶋さんはあんな事に」と仁科先生は寂しげに言った。

恵は何も言えなかった。

仁科先生は少し涙ぐんで「手嶋さんはまだ高校2年生。可愛そうに・・・。私は取り返しのつかない事をしてしまった」と言った。

「先生・・・辞めてどうするの?」

「長野に帰ろうかな・・・雪山の綺麗な田舎に・・・

「先生!」

「私みんなにとても感謝してる。大学出てもやりたい事が見つからずに、とりあえず教師をやっていた。教師をやってる事に目的すら見いだせなかった・・・でもみんなが教師としての仕事の楽しさを教えてくれた。そして甲子園にも連れて行ってくれた」

恵は仁科先生の言葉に涙ぐんできた。

そして最後に仁科先生は「有難う。最後に楽しい思い出をくれて。私本当に教師をやっていてよかった」と言った。



結局恵はそれ以上なにも言えなかった。



私は所詮まだ子供なんだ。

大人としての責任なんて全然わからない。


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