30本目(6月6日鑑賞)


掛け違えたボタンは元に戻せる。
bk1
ぼくたちの家族


監督・脚本:石井裕也

原作:早見和真

音楽:渡邊崇

出演:妻夫木聡/原田美枝子/池松壮亮/長塚京三/黒川芽以/ユースケ・サンタマリア/鶴見辰吾/板谷由夏/市川実日子


長男浩介(妻夫木聡)の妻深雪(黒川芽以)の妊娠を祝う会食中、突然玲子(原田美枝子)の言動がおかしくなる。翌日、夫克明(長塚京三)と浩介に伴われて病院へ行く玲子。検査の結果、脳腫瘍と診断され、余命1週間と告げられる。

その日から検査入院となり、次男で一人暮らしの大学生俊平(池松壮亮)もかけつける。狼狽する父、責任に圧し潰されそうな長男、楽観する次男。緊急事態に集まった三人の男たちはぶつかりあいながら悪戦苦闘する。

bk2

突然の余命宣告。


闘病モノというわけではありません。

家族の再生の物語です。

凄いいいです。

石井監督、ノリにノッてます。

4人の演技も凄いです。


bk3

成す術ない男たち。


原作力なのか、脚本力なのか。とにかくキャラクターが立っている。とにかくリアル。

大黒柱として君臨した父が脆い。今までいろんなものを背負ってきた。家族を支えるために。そんな父を支えていたのは母。支えを失った父は、子に支えを求める。

長男は元引きこもり。家族に迷惑をかけたと自認。今は家族を離れ、自ら家族を構える。家族の危機を迎えた時、自ら背負う覚悟を決める。リーダーとしての腹を、くくる。

bk4
超えなきゃいけない問題は山積。

一見、呑気に見える次男。家族の空気をクリーンに保つ清浄作用。一番外から見守っているのは、実は核心にいたくないから。いるのが辛いから。


長男の嫁にもホッとする。こういう展開、得てして「鬼嫁」になりがち。最初は多分にその要素。自分を名前で読んだ時は、どうしてやろうかと。(笑)


bk5

夫は八方ふさがり。頼りは二人の息子。


男3人、三者三様の想いが伝わる、魂の熱演。それぞれ「いい仕事」以上の働き。原作者の想い、監督の想いを伝えた3人の俳優。観ていて熱くなる。


忘れちゃいけない原田さん。老いの芝居は難しい。人の負の部分も演じる。今まで見た原田さん、「●●の母」が多かった。本作、芝居を本気で、楽しんでやってらっしゃるのがいい。


長男の引きこもり、父の借金、家計のひっ迫…母の病により、家族の「負」が掘り起こされる。バラバラになった家族は、皮肉なことに母の病でまたひとつになる。掛け違えたボタンをひとつひとつ掛け直すように。

石井監督に、代表作がまた増えた。

bk6

一見楽観しているような次男も実は…。


公開の時期的にどうなんでしょ。賞云々は難しいタイミングなのかな。日本アカデミー賞、石井監督の2連覇は難しいかもしれないけど、俳優陣みなさんに賞をあげたい。特に、最近hiroが強く推してる池松君。最高の演技です。




hiroでした。




脚本9 映像6 音響6 配役9 他(演技)9
39/50



<以下、本筋とは関係ないhiroのプライベートです。興味のない方はスル―してください>


父が逝き、2年後母が逝き、2年が経過。本作で語られるいろいろなことが、いちいち腑に落ちました。


●機能分化した病院は「治療効果のない患者、治療の意思(方法)がない患者」は退院し、他の病院や施設への転院または自宅療養を薦められます。「冷たい」と思われるかもしれませんが、特に地域救急医療を担う病院では、対応するためのベッドを常に開けておかなければ機能しません。これは国の指針です。


●治療の意思がある場合、本作のように他の専門病院を探します。治療しない(できない)場合は、病気の程度によっては介護施設の受け入れがあるかもしれませんが、介護を主に行っているところは「看取り」をしない前提のところが多く、終末医療…いわゆるホスピスを探すことになります。人気のホスピスは数年待ち。多少便宜は図ってくれますが、予約しても入所前に亡くなることも少なくありません。まだまだ施設整備は十分ではありません。

*本作では語られていませんが、通常ある程度の規模の病院であれば、「ソーシャルワーカー」がいます。このようなケースで、転院先や入院費用・治療費用の相談に、患者の立場に立ってアドバイスしてくれる職業です。あたり・はずれがあると聞きますが、覚えておくと便利です。絶対に活用すべきです。


●事業上の借金は自己破産できますが、持ち家があれば取られます。家がなくてもローンは残ります。相続の状況になった場合、不動産等の財産だけでなく、借金等の負の財産も相続されます。これら多額の借金のために本作の長男は苦しみます。家のローンも含めて借金を残さなかったhiroの両親には感謝です。


家族に病人や要介護者が出ると、こんなシステムによって家族は「覚悟」を迫られます。本作の父、長男の苦悩はそこにあります。

hiroは兄弟がいません。つまり本作における長男と次男の役目の両方をこなす必要がありました。詳しくは書きませんが、仕事も忙しく、本当に潰れそうでした。それもあって、二人の気持ちがよくわかりました。

その時の苦悩や疲弊は、父と母が生きていた証であり、最期の最期に、親と子といった優劣関係のない対等な人としてぶつかり合った記憶です。hiroにとって、少々痛い作品ではありましたが、どこか懐かしく、楽しく観れたのも事実です。


よく訪問してくださる読者さんの中に、リアルに似た環境の方が何人かいらっしゃるようです。現在進行形の方には少し「きれいごと」に見えてしまう作品かもしれないです。落ち着いてからご覧になられたほうがいいかも。

余談、長くなりました。