52本目(10月9日鑑賞)

日本人っていいね。
観たい映画を観て、読みたい本を読んで、聴きたい音楽を聴く!-td1

飛べ! ダコタ

監督・脚本:油谷誠至
脚本:安井国穂・友松直之
撮影:小松原茂 照明:山川英明
録音:沼田和夫 美術:稲垣尚夫
編集:宮澤誠一 音楽:宇崎竜童
主演:比嘉愛未/窪田正孝/柄本明/洞口依子/芳本美代子/中村久美子/螢雪次朗/園ゆきよ/佐渡稔/マーク・チネリー/ディーン・ニューコム/綾田俊樹/角替和枝/ベンガル

終戦から半年が経とうとしていた昭和21(1946)年1月、佐渡島の海岸に一機の英国の要人輸送機ダコタがエンジントラブルで不時着した。
英国は半年前まで戦っていた敵国。戦争で家族を亡くした者、負傷した者、住民の様々な想いを抱いたまま、村長の森本(柄本明)、その娘千代子(比嘉愛未)らは、ダコタの修理が終わるまでの間、自宅の民宿を搭乗員の宿に提供することを提案する。
國民学校長の浜中(螢雪次朗)ら友好派と警防団長の高橋(ベンガル)ら反対派のふたつに村民の意見はわかれるが、英国人らと交流するうちに、「困っている人の人助け」と、次第に村をあげて英国人たちに協力し始める。
海軍兵学校で訓練中に負傷し、島で終戦を迎えた健一(窪田正孝)は、その様子を冷ややかに見つめていた。


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若さを武器に初の主演・助演に挑戦。

先週のことだ。翌週の上映スケジュールを眺めている時、見慣れぬタイトルに目が止まった。「飛べ! ダコタ」…予告編はおろか、記事やチラシ、広告でさえも触れたことがない作品。ざっとあらすじをなぞってみたが地味。近頃興味を惹かれている太平洋戦争前後を描いている作品ではあるが、いかにも売れなさそうな作品だ。ネットで予告を観る。何を隠そう、愛未ちゃんはファンである。そして窪田くんは、NHKの朝ドラ「ゲゲゲの女房」以来応援している。それもあってか、安っぽさは差し引いても、かなり「観ようかな」に傾いた。
翌日だったかと思う。浜松のブロガーさんの記事に、このタイトルを発見。かなり信頼しているブロガーさんということもあり、記事を拝読後、鑑賞意欲をかなり後押しされた。その数日後には、実際に観ているのだから面白い。そして、イメージよりかなり良かったのだから、これもまた面白い。

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柄本・ベンガルの乾電池組!

まずはこの史実。全く知らなかった。おそらく、知らない人の方が多いのだろう。この素敵なエピソード、なぜ伝わらないのか、なぜ伝えないのか。パンフレットによると、実際、公式の記録が非常に少ない事件で、不時着した搭乗員の英国人遺族からの問い合わせで、近年俄かに、その全容が解明されたのだそうだ。
半年前までは鬼畜米英。学校で教え、新聞で報じ、軍人はその殺し方を叩き込まれた。もちろん、米英側の軍人も然り。そういう時代なのである。劇中、英兵は言う。「戦争はラグビーのゲームではない。終わったから握手しよう、なんて簡単にはいかない」
しかし、鬼畜は困ってる。困ってしまっては、もはや鬼畜ではない。村の人々は助ける。彼らが困っているから、手を差し伸べる。単純な話である。劇中のベンガルのセリフを借りれば「当たり前のことしたまでだ」。
「当たり前のこと」…これが欧米には驚きなのだという。先の東日本大震災。マーケットや商店から略奪する人もいない。被災者同士が助け合う。自分のことを顧みず、逆に犠牲となられた方もいる。そして、全国からボランティアが集まる。救援物資が集まる。これは「当たり前のこと」。日本人として胸を張っていい。不時着したダコタ搭乗員を助けた村の人々もまた、「当たり前のこと」をしたまでなのだ。

タイトルのダコタをバックに整列して撮影されている写真…当時、実際に撮られ、現存されている写真がエンディングで披露されるが、そっくりなのに驚かされる。歴史に埋もれかかっていたエピソードを広く知らしめ、「映画」というメディアに焼いて残された油谷監督はじめスタッフの方々が残された功績は、とてつもなく大きい。

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芳本さん、洞口さん、角替さん。女たちの戦後。


愛未ちゃん、窪田くん…初めてメインを張る二人は若い。が、ベテラン俳優の方々が鉄壁の守り。攻める二人はなんの気後れもなく、自分の個性で勝負できた、という印象。主演の愛未ちゃんは「ほんわか」担当。初めて見る外国人にも気後れすることなく「けが、ないですか? OK?」と問いかける。まるで朝ドラヒロインのよう。当然だ。元朝ドラヒロインだ。

窪田くんは「僕達は世界を変えることができない」で大変感動させていただいた。今作は、戦争を引きずる青年の難役。戦後、多くの復員兵が抱えた問題をその背に負う。軍人勅諭(…あまり詳しくはないのですが、あれは違いました?)を呟きながら憑かれたように歩くさまは、若いながら可能性を感じる一幕。
脇を固めるベテラン陣は、触れるのも嫌になるくらい堅実な仕事。柄本さん、ベンガルさん、綾田さん…東京乾電池の舞台ですか?…あれ、柄本さんの奥様も出ていらした。二人兄弟を探したが、いなかったようだ。そうそう、ベンガルさんは、近年出演作では一番の輝き!

洞口さんは久々のキーウーマン。戦地から戻らない息子のこと、その息子と変わらない年頃の英兵、窪田くん演じる健一とともに、戦後日本の微妙な心理担当。グッジョブです。


エージェントの関係か、PRにあまり手が回っていない模様。だけど、これは素敵な作品。ダコタが再び離陸するシーンは、最近のCG技術にしては造りこみが粗い。が、画は二の次。こんなエピソードがあったことを知ろう。このエピソードを映画化した意義を考えよう。

ラスト近く。窪田くんが螢さん演じる校長に決意を表明する。そこが肝。日本人の美徳と英国人との友好が、この映画の表の顔。どんなに嫌な思い出だろうと、戦争があったことを、こんなに悲惨な出来事があったことを、後世に伝えていかなければならない。それが裏の顔、なんじゃないだろうか、と勝手に考えてしまった。

佐渡の言葉…母の郷里・富山が近いせいか、どことなく懐かしく、温かく聞こえた。



hiroでした。