37本目(7月26日鑑賞)


二郎の情熱。菜穂子の情熱。そして宮崎駿の情熱。
観たい映画を観て、読みたい本を読んで、聴きたい音楽を聴く!-kt1
風立ちぬ


原作・脚本・監督:宮崎駿

作画監督:高坂希太郎

美術監督:武重洋二

撮影監督:奥井敦

主題歌:荒井由実「ひこうき雲」

音楽:久石譲

プロデューサー:鈴木敏夫

VC:庵野秀明/瀧本美織/西島秀俊/西村雅彦/スティーブン・アルパート/風間杜夫/竹下景子/志田未来/國村準/大竹しのぶ/野村萬斎


関東大震災の日、運命的な出会いをした二郎(VC庵野秀明)と菜穂子(VC瀧本美織)。時代は国を戦争へと導き、二郎は帝大卒業後、三菱内燃機で上司の黒川(VC西村雅彦)、親友の本庄(VC西島秀俊)らとともに戦闘機を開発する日々を送っていた。

試作機の失敗を続けていた二郎は、休暇で訪れた軽井沢で菜穂子と再会し、恋に落ちる。菜穂子の身体が結核に蝕まれていることを知るが、二郎の気持ちは変わることがない。その場で結婚の約束をする。

休暇を終え、会社に戻った二郎は、第二次大戦中に名機とうたわれたゼロ戦の開発に着手する。


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二郎のモデルは実在のゼロ戦開発者・堀越二郎。

同時代の作家堀辰雄も混ざっているようです。


堀越二郎はゼロ戦という「兵器」の開発者。戦争嫌いの宮崎監督がどのように扱っているのかに注目。答えは二郎の空への情熱。美しい飛行機を作りたい…その情熱だけに背中を押されてゼロが生まれました。

ゼロの開発担当となってからの関係者との打ち合わせ…特に海軍とのやり取りが面白い。なにやら訳がわからないことをがなり立てる軍人たち。それに聞き耳を立てる二郎。打ち合わせが終わった直後の黒川との会話。「お前聞いてなかったろ」「はい」…痛快。

二郎だけではない。美しい飛行機を作りたいという若者の情熱は、勉強会の空気さえも熱くする。「重すぎる。機銃を乗せないならちょうどいいんだが」…これも痛快。

たまたま今、百田氏の「永遠のゼロ」を読んでいます。ゼロの特攻を描いた小説です。二郎の名前もその開発者として登場します。大戦中、ゼロ戦は、スピード、航行距離、機敏性、どれをとっても当時の世界の最高水準だったという。米軍パイロットには「ゼロと遭遇したら戦うな」という命令が出ていたと、小説は語っています。

敵を撃ち落とすために作られたのではないからこそ、ゼロが伝説的に語り継がれることになった…と思いたいのです。ラストのカブローニのセリフが象徴しています。「あれが君のゼロか。美しい」

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ジブリ史上もっとも大人な恋愛模様。

菜穂子は堀辰雄の小説「菜穂子」から。


もうひとつの物語の軸は菜穂子との恋。これもまた、一見物静かにさえ見える二郎の情熱あってこそ。「不治の病」も二郎の若い情熱の前では手も足も出まい。

当の菜穂子もまた情熱の女性。自分の病に気後れすることなどありません。二郎との結婚が決まると、完治するために高原病院への入院を決意します。

劇中の入院中の描写で、バルコニーのようなところに入院患者がベッドを並べているシーンがありました。「外気浴」ということらしいのですが、外の新鮮な空気を吸って…と言うことなんだと思うのですが、「初雪が降るかもしれないという日に?」と疑問をもちました。詳しい方がいたら教えてください。

その菜穂子が高原病院を抜け出し、名古屋の二郎に会いに行くんです。ひと目あったら帰るつもりだったという菜穂子を引き留める二郎。このままここで暮らそうと。黒川に離れを拝借したいと懇願。結婚前だからと渋る黒川に二人は言います。「では今ここで結婚します」。二郎の…いや二人の情熱。

名古屋駅で人ごみをかき分けるシーンが、冒頭の震災直後のシーンのリフレインになっている味な演出。

脚本も今までのジブリ作品にはなかった「大人」感。「きて」の言葉に熱くなる。


庵野の声については、ジブリ作品ではよくあることなのでスルー。かわいいキャラが登場しない、話が重いというのは、これが大人向けのアニメだと理解されたい。小さい子供を連れて行かれると、連れてこられたお子さんは間違いなく暇な時間を持て余すことになるので、そこは親御さんに正しい判断を求めたい。


これだけストーリーに心を揺さぶられたのは「耳をすませば」のみずみずしいばかりの感性に触れた時以来のこと。このみずみずしさと対極にある情熱である今作に揺さぶられたのは、自分のこととはいえ面白い。


さて、今までに多くのジブリ作品を観てきて、この作品に辿りついた今、気付いたことがひとつある。これまで観たジブリ作品の中で心に焼きついたシーンをピックアップしてみると、

●空を舞うナウシカ

●空に浮かぶラピュタ

●シータの救出に飛ぶパズー

●しがみつく五月とメイと飛ぶトトロ

●同じく空を疾走するねこバス

●バロンが空を舞い降りるとこ

●魔女の宅急便の気球

●カラスの手助けで空から降りてくるハル

実に空に関するシーンが多い。そうhiroは空が好き。前世はトリかと思われる。我が家にもツバメがやってくる…関係ないか。そう、空を飛びたい。

聞くところによると宮崎監督は戦闘機好きらしい。戦争嫌いと矛盾しているのかもしれないが、hiroも同じ、理解できてしまう。「トップ・ガン」のF-14が双発のエンジンに火を灯し飛び立つ後ろ姿にほれぼれした。

宮崎駿の空への情熱が今作にあふれている。気がする。空が好きなhiroが勝手に想像しているだけなのですが。


鑑賞後、「ひこうき雲」の詩を読んだ。

こんな詩だったのかとびっくりした。


hiroでした。

一番大切な人のこと、思い出しながら観て。