過去作品レビューシリーズ。書き溜め分より小出ししていきます。

今年のアカデミー賞も終わり、先週末も東日本大震災から1年だったことから、昨年のアカデミー作品賞の、


英国王のスピーチ


を書きます。


「東日本大震災は関係ないじゃん!」

はい。関係ないです。

でも、私の中では切っても切れない関係があるんです。


以下、当時書いたレビューより抜粋。


3月11日。東北地方太平洋岸を大地震が襲った。映画のシーンのような津波が、実在の町を飲み込んだ。死傷者・行方不明者は万単位を数えた。勤務している銀座も揺れた。首都圏の鉄道は停止した。会社に泊まって、交通網の復旧を待った。それからも余震が続いた。平衡感覚が麻痺した。それでも生活はしなければならない。鉄道の運行が乱れた。それでも会社に行かなければならない。原子力発電所事故が発生した。それでも仕事を動かさなければならない。計画停電が行われた。首都圏から灯りが減り、自粛ムードが漂った。「ヒアアフター」が上映中止となった。公開待機作が続々と公開延期となった。映画館が機能しなくなった。甚大な被害を伝えるニュースが続き、映画を見て楽しんでいられる空気じゃなくなった。映画に渇望した。


震災から1週間が経過し、徐々に平静さを取り戻していった。計画停電の隙間を縫うように、徐々に映画館も営業を始めた。それでも夕方以降の上映は、停電を行っていない都内に限られた。相変わらず余震も続いている。日に何度も揺れる。上映中に余震が起きたことを想像すると、不安がないわけではない。それでも映画を観たかった。この重い空気を払拭してくれるような映画を。


有楽町・日比谷界隈でほぼ通常通りの上映が始まった。日比谷シャンテでアカデミー作品賞受賞の「英国王のスピーチ」の夜の上映があった。一般1800円の観賞料が必要な普通の日。にもかかわらず、飢餓感に耐え切れず、久しぶりの映画館に足を運んだ。映画を観れる喜びに、1800円が高いとは感じなかった。


以上が当時の様子。そんな空気感の中で、久しぶりに行った劇場。同じ思いを抱いている人が多かったのか、ほぼ満席の盛況でした。こうしたわけで、「英国王のスピーチ」と東日本大震災は切っても切れないつながりがあるんです。


ということで、やっとレビューです。

ハリー・ポッター」シリーズの闇の魔女ベラトリックスの印象が強いヘレン・ボナムカーター。「アリス・イン・ワンダーランド」のハートの女王役の怪演も記憶に新しい。その彼女の「夫を支える妻」の演技が評判いい、という一事だけでも十分すぎるほど観る動機になった。


観たい映画を観て、読みたい本を読んで、聴きたい音楽を聴く!-英国王

王様の後ろには魔女ベラトリックスと海賊バルボッサが!


一言で言うと「なるほどオスカー作品」。いい意味でも、悪い意味でもオスカーらしい。英国王室といえども、今作で言えば吃音であるとか、家族間の人間関係であるとか、人間らしい悩みを持っている。その人間らしさを、重厚な映像の中にユーモアを潜ませて表現しています。日本の皇室の宮様を主人公においた映画など想像できませんよね。


吃音というハンデを背負い、それを克服しようと努力を続ける王子。やがて、失脚した兄に代わって王位に就くが、時はまさに世界大戦開戦前夜。欧州で版図を広げようともくろむドイツ。英国もその波に飲み込まれ、王は国民に向けたメッセージを発信する。


王とその妻、吃音の克服に協力するトレーナーの3人の関係を軸に、時代背景を追っていく脚本は秀逸。歴史ドラマというより、ホームドラマといった感があります。

配役も絶妙。王の妻は前述のヘレナ、そしてトレーナーには「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズのキャプテン・バルボッサ、ジェフリー・ラッシュ。魔女と海賊を従えた英国王のという構図は、ちょっと笑えます。


ただ、結局は戦争に突入します。結局は国民を鼓舞するためのスピーチです。好みなのか、国民性なのか、正直、少しひきました。仮にこのテーマで日本で映画を作ったら、天皇陛下のスピーチですよ。勝てばいいのか?


hiroでした。