あっという間に5隊フィラメントの出番が終了しました。

 次は・・・まあ、3隊が味方なので、選択肢は限られてきますけど。



* * *



「・・・・で、スカーレットキスの次に探そうとしているのは誰?」



 タイガーがケイトに問う。
 聞かれたほうは知る由も無いが、フィラメント下校からしばらく張り込みを続けていて、ケイトは自分の徒労ぶりに耐え切れなくなったのだ。
 その苛立ちを焦れによるもの、と錯覚したタイガーは素直に答えるのが得策かと思い「そうですね・・・」と考えてみた。数秒の後、再度口を開く。



「4隊の頭取なんてどうでしょう? スカーレットキスとは別の意味で目立つ人ですし。あの人も、会えばわかると思うんです」
「別の意味?」
「セクシーというか、色っぽいというか・・・そういう雰囲気があるじゃないですか。それも、普通の女子高生にはちょっと無理なレベルで」



 眉をひそめるケイトに、タイガーは懸命に説明する。どうにも主観的な部分が大きいことは自覚しているので、できるだけ丁寧に。
 その甲斐あってか「そうね」という同意を得られた。



 二人とも声量は不自然で無い程度に潜めており、傍から見れば、女子同士が仲良くおしゃべりしているように見える。周囲には生徒がまばらにいるが、不審な目で見てくる者はいない。


 彼女らに特別の注意を払っていれば、会話の中にちりばめられた不可解な単語に気付くかもしれないが、そんな人間はいない。
 タイガーもケイトも十分に美少女のレベルなのだが、どちらかといえば地味な部類に入ってしまう。見つめてくる男子生徒は、残念というか好都合というか、ともかくいなかった。


 近くを通り過ぎていく男子生徒たちも、タイガーたちに目もくれない。まあそれは、彼らが自分達の会話に夢中だからでもあったが。
 その黄ネクタイ――2年生――の集団のうち一人が、まさに喜色満面といった様子で声をあげた。



「なあなあ、オレさぁ、さっき例の1年としゃべったんだー。すごくねぇ?」



 対象にしている人物が曖昧であったが、彼らの仲間内ではそれで十分特定が可能らしい。友人たちは皆、身を乗り出した。



「例の・・・って、1組の?」
「あのムチャクチャ色っぽい・・・・」
「うわ、マジで? 良いなー、俺も呼べって! 気の利かねえヤツだなぁ」
「なんでだよ。知るか」



 実に楽しそうに騒ぐ男子達。その声は、否応無くタイガーとケイトにも聞こえてくる。
 ケイトの眉間に皺が寄る。その噂の生徒に心当たりがあったのだ。
 1年1組といえば、ケイトのクラス。その中で、お色気が服を着て歩いているような生徒と言えば、ケイトがしばしば注意する『彼女』に相違あるまい。


 口からこぼれそうになるため息を、ぐっと堪える。すると下を向いけていた視界の中で、隣の少女が拳を握り締めていた。



(今度は気付いたか・・・)



 セクシー、色っぽい雰囲気・・・ついさっき彼女自身が口に出した言葉と、重なる部分は大きい。
 タイガーの顔は輝いている。すぐ脇から注視されていることにも気付いていないのだろう。
 そんな無防備な、少女の口から漏れた言葉は――



「流石はスガタ坊ちゃま・・・・! 先輩にまで噂されるなんて・・・・」
「待て」



 夢見るような眼差しのタイガーに、ケイトは思わず素で突っ込んでしまった。


 損得で言えば流したほうが良かったのかもしれないが、流石に我慢できなかった。ケイトだって、青春真っ盛りの恋する乙女だ。
 たとえ、秘密組織の幹部として暗躍中であっても、それでも乙女は乙女。
 不可能だとしても、それでも、想いを寄せる相手を脳内とはいえ好き勝手にしてほしくはないのだ。



(今の話が、スガタくんのことになるわけ? 確かに女子とは言ってなかったけど! でもアナタの中の彼は、そういう人なの?)



 急に憮然とした顔になるケイトを不思議そうにタイガーが見つめた。
 「何です?」と無邪気に首をかしげる彼女に、間違いを気付かせるべくケイトは説得にかかる。



「それはちょっと違うでしょう。いくらスガタくんが1年1組の生徒であっても、男が男に『色っぽい』なんて表現、普通しない。基本、しない。・・・・・確かに彼はセクシーだけど」



 最後に本音らしきものが付いている。正確な判断かどうかはさておき、今回の説得にはむしろ障害となりそうな一言だが・・・そこはご愛嬌。
 やはりスガタを慕うタイガーも、その点については突っ込まなかった。



「え? でも、この間ジャガーから聞いたんですけど、最近の男子には、女の子よりもむしろ女装少年の方が良いとかなんとか・・・」



 変わりに、とんでもないことを言ってきた。



(染められてる・・・・)



 ――しかも、ソッチ方面に。



 独白なので、どっちだよ、と突っ込まれることも無いのでケイトは思う存分遠い目になる。
 元凶はアレだろう、シンドウ家のもう一人のメイド。そーゆー方面のマンガや小説が好きらしいと、風のうわさで聞いたことがある。


(あの子は大丈夫かしら・・・)


 そこでケイトが思いを馳せたのは、歌の好きな幼馴染のことだった。
 微妙に手遅れだということは、彼女は知らない。幸か不幸かの解釈は、人によりけりだろう。



 そんな風に、ここにいない友人を思っていたケイトに、話しかける者があった。



「あら委員長、貴女がぼんやりとするなんて、珍しいのではなくて?」



 いつの間にかそこにいたのは、長髪と短髪女子がひとりずつに男子一人という三人組。ネクタイは、全員がピンク。
 先ほど話しかけて来た髪の長い方の少女に向かって、タイガーが話しかけた。



「あ、1組のワタナベさ・・・じゃなくて、ミセス・ワタナベ。今お帰りですか?」



 そこで「はい」とタイガーの疑問に答えたのは、スタイル抜群でロングヘアーの彼女――ワタナベ・カナコ(人妻)でなく、その傍らに控えた金髪の少女――シモーヌ・アラゴンであった。


 それに少し遅れてカナコが「ええ、そうなの」と返す。
 たかが言葉ひとつ。しかしそれだけでも、貫禄が伝わってくる悠然とした態度。
 同い年のはずだが、ただ者ではないということを強く感じさせられる。タイガーも思わず背筋を正した。


 硬くなるタイガーを安心させるよう小さく笑いかけてから、カナコはクラスメイトに向け挨拶する。



「では委員長、また明日」
「失礼します」



 と、カナコのもう一人のお付きである黒髪の少年――ダイ・タカシが会釈する。
 そうしてカナコの持つ船住まいの3人は、連れ立って去っていった。



「あの3人も帰るみたいね・・・」



 彼らの後を追うでもなく、普通に眺めるだけのタイガーに、やる気の無い口調ながらも一応言うだけ言っておくケイト。
 予想できたことだが、タイガーはやはり何も気付いていないようで、平然と返してくる。



「剣道部が休みですから、タカシくんも一緒に帰れるんでしょうね」



 いや、だからね。そういうことじゃないのよ。



 と言いたくてうずうずしているケイトだが、口は真逆の台詞を吐く。



「・・・・・・・・・そうね」



 彼女の中で、隣の少女の目は節穴だと確定した瞬間だった。
 そんな判断が下されたことなど露知らぬタイガーは、改めて気合いを入れ直す。



「絶対見つけ出します! マンティコールも、他の代表たちも!」



 現状、これほど虚しい決意もないだろう。
 意気込むタイガーとは真逆にケイトはどんどん冷めていく。




つづく


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